VISAとマスターはどういう会社?今さら聞けないメガ・カードの実態
VISAとマスターカード(以下、マスター)がクレジットカードであることを知らない人はいないと思いますが、VISAとマスターが、どのような会社なのかを知っている人は多くないのではでしょうか。
例えば、三菱UFJのクレジットカードにも、三井住友のクレジットカードにも、VISAもマスターもあります。
クレジットカード事業は金融事業になりますが、三菱UFJも三井住友も金融業界の大手なのに、自分たちではクレジットカード・ブランドを持っていません。なぜメガバンクがVISAとマスターを頼るのでしょうか。
また、そもそもVISAとマスターが、自らの「のれん」を三菱UFJや三井住友にわけ与えているのも不思議です。なぜVISAとマスターは、三菱UFJや三井住友などを頼るのでしょうか。
この記事では「今さら聞けない」2大メガ・クレジットカード会社の正体を明らかにしていきます。
2社で世界シェア98%
VISAとマスターの実像とビジネスモデルをみる前に、2社のすごさを確認しておきます。多国で使われているクレジットカードは7つあり、次のとおりです。
<7つの国際的なクレジットカード・ブランド>
VISA、マスター、JCB、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブ、ディスカバー、銀聯
決済情報処理大手の株式会社DGファイナンシャルテクノロジーの調べによると、世界のクレジットカード・シェアは、1位のVISAが65%、2位のマスターが33%で、この2トップで98%にもなります(※1)。
ただ、この数字には、中国資本のため詳しいデータが公表されていない銀聯は含まれていません。それでも、中国を除く世界各国のクレジットカードを使える店のほぼすべてで、VISAかマスターが使えるのはすごいことといえるでしょう。もちろん中国の多くの店でも使えます。
クレジットカードといえばVISAかマスター、といわれるのはこのためです。
※1:https://www.veritrans.co.jp/tips/column/card_share.html
ビジネスモデルは四角形
VISAとマスターのビジネスモデルはほぼ同じで、キーワードは1)ブランド管理、2)カード発行管理、3)加盟店管理、4)データ処理の4つです。1つずつ解説します。
ブランド管理とは
VISA本体とマスター本体のことを、ブランド管理会社といいます。ブランド管理会社は、クレジットカードを使った決済機能を持ち、それを決済サービスとして、カード発行管理会社に有料で貸し出しています。
例えば、カード発行管理会社である三菱UFJニコス株式会社がVISAと契約すると、三菱UFJカードでVISAの決済サービスを使うことができます。
ブランド管理会社は決済機能を充実させることでクレジットカード・ブランドを魅力的なものにして、多くのカード発行管理会社に使ってもらうようにします。ブランド管理会社の収入は、カード発行管理会社が支払う決済機能の使用料になります。
ユニークなのは、VISAもマスターも、自分たちではクレジットカードを発行していないことです。
カード発行管理とは
VISAやマスターから決済サービスを借りて、実際にクレジットカードを発行するのがカード発行管理会社です。カード発行管理会社のことを、イシュアと呼ぶこともあります。
三菱UFJのクレジットカードを発行している三菱UFJニコス株式会社や、三井住友のクレジットカードを発行している三井住友カード株式会社はカード発行管理会社です。日本にはその他に、クレディセゾン、イオンフィナンシャルサービス、楽天カード、オリエントオーポレーションといったカード発行管理会社があります。
これらの会社が発行するクレジットカードすべてに、VISAまたはマスターがあるのはそのためです。
カード発行管理会社の主な仕事は、1)クレジットカード・ユーザーを集める、2)ユーザーの与信審査、3)クレジットカードの発行、4)ユーザーの銀行口座から買い物代金を引き落とす、5)ユーザーから回収した代金から手数料を差し引いて加盟店管理会社に支払う、の5つになります。
カード発行管理会社はさらに、ポイントや特典を独自につけたり、キャッシング事業や旅行保険事業で収益をあげたりしています。
加盟店管理とは
加盟店管理会社は、加盟店とはまったく別の会社です。
加盟店とは、例えばコンビニや百貨店、街の喫茶店などのクレジットカードが使える店のことです。三越やセブンイレブンや喫茶店でVISAが使えるのは、これらの小売店がVISAに加盟しているからです。
そして加盟店管理会社は、その加盟店を管理しています。また、新規に加盟店を増やす営業活動も重要な仕事になっています。
加盟店管理会社のことを、アクワイアラといいます。
日本では、ほとんどのカード発行管理会社が加盟店管理会社を兼ねています。
加盟店管理会社にはもう1つ重要な仕事があり、それは加盟店(小売店)に売上金を立て替えて支払う業務です。加盟店がクレジットカードを導入するのは、この売上金立て替えサービスが便利だからです。
この業務は、次のデータ処理の章で解説します。
データ処理とは
コンビニで100円のおにぎりを買うときにクレジットカードで支払うとき、クレジットカードをレジ横の端末にかざします。このとき端末は、「このクレジットカードを使って、おにぎりを100円で買おうとしている」というデータを、データ処理センターに送ります。
データ処理センターにはクレジットカード・ユーザーの情報があるので、「100円の支払い能力がある」と判定し、そのデータをコンビニに送ります。そのデータを受け取ったコンビニの店員が端末を操作して決済処理をして、コンビニでの支払いが完了します。
コンビニでの支払いが完了しても現金が動いていないので、「お金の支払い」はまだ始まってもいません。
コンビニの店員が決済処理すると、コンビニの端末が「このクレジットカードを使って、おにぎりを100円で買った」というデータをデータ処理センターに送ります。
データ処理センターは、受け取った「このクレジットカードを使って、おにぎりを100円で買った」というデータをカード発行管理会社と加盟店管理会社に送信します。
「このクレジットカードを使って、おにぎりを100円で買った」というデータを受け取ったカード発行管理会社は、クレジットカード・ユーザーの銀行口座から、100円を引き落とします。
ここでのポイントは、100円しか引き落としていないことです。クレジットカードでは、一括払いのときはユーザーから利用料も利子も取らないことが常識化しています。したがって一括払いをしている限り、クレジットカード・ユーザーは、無料でクレジットカード決済サービスを利用できることになります。
クレジットカード決済サービスの利用料の多く負担しているのは小売店、つまりクレジットカードの加盟店です。
「このクレジットカードを使って、おにぎりを100円で買った」というデータを受け取った加盟店管理会社は、100円から手数料を差し引いた金額を、コンビニの銀行口座に振り込みます。
クレジットカードの利用は365日24時間発生するので、データ処理センターは365日24時間稼働しなければならず、しかもそのデータ量は膨大です。そのため、データ処理センターを運営する専門の会社があります。
NTTデータや日本カードネットワーク、ソニーペイメントサービスなどは、データ処理センター会社です。
結局VISAとマスターは何をしているのか
先ほど紹介した「コンビニで100円のおにぎりを買って、クレジットカードで支払う」という経済活動のなかに、ブランド管理会社であるVISAもマスターも登場しません。
クレジットカードの利用はこのようになります。
●クレジットカード・ユーザーが加盟店(コンビニ)で買い物をする
↓
●その買い物データがデータ処理センターに送られる
↓
●そのデータを使って、カード発行管理会社がユーザーの銀行口座からお金を引き落とす
↓
●加盟店管理会社が代金を加盟店に立て替え払いをする
このとおり、VISAもマスターも出てきません。
しかしクレジットカードのビジネスモデルは「ブランド管理」「カード発行管理」「加盟店管理」「データ処理」の四角形であるはずです。では、VISAとマスターは何をしているのでしょうか。それは決済インフラの整備です。
例えばVISAは、巨大なデータセンターを、アメリカ、イギリス、シンガポールに持っています(※2)。その規模はとてつもなく、イギリスのデータセンターだけでも3,200の金融機関の決済データを処理できる容量があります。
こうした決済インフラがあるので、日本の旅行代理店でクレジットカードを使って航空チケットを買って海外に行き、同じクレジットカードを使って現地で買い物ができます。
これだけ巨大な決済インフラは、1つの金融機関がつくれるものではありません。そのため、例えば三菱UFJのような大企業であっても、クレジットカード事業を展開したいと考えた場合、VISAやマスターの決済サービスを借りてしまったほうが効率的かつ合理的なビジネスを展開できるわけです。
※2:https://www.visa.co.jp/about-visa/newsroom/press-releases/nr-jp-170807.html
VISAはこういう会社
VISAの本体はVISA Inc.といい、この会社はアメリカ・カリフォルニア州にあります。日本法人のビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社は東京都千代田区にあります。
VISAの起源は、現在もアメリカの金融界に君臨するバンク・オブ・アメリカです。バンク・オブ・アメリカは1958年に、中流階級の消費者と中小小売業を対象とするクレジットカード事業を始め、これがVISAの起源になります。
これがVISAになったのは1976年で、世界各国の事業を統合した現在のVISA Inc.は2007年に誕生しました。
1997年にVisaの年間決済額が1兆ドル達し、その21年後の2018年には8.5兆ドルになりました。その21年間の平均年間成長率は36%(≒(8.5兆ドル÷1兆ドル-1)×100÷21年間)にもなります。
さらに今でも果敢に、モバイル決済やオンライン決済などのフィンテックにも挑戦し続けています。
マスターはこういう会社
マスターの本体はマスターカード・ワールドワイドといい、ニューヨークに本社があります。日本法人は東京都渋谷区にあります。
マスターカードの「マスター」が初めてつけられたのは、1967年に誕生したマスターチャージという会社です。VISAが生まれたのが1958年なので、マスターはその9年後に生まれたことになります。しかしマスターは、自分たちの起源は1940年代までさかのぼると主張しています(※3)。
1つの大手銀行がつくったVISAと異なり、マスターは複数の地方銀行などがつくりました。ただ1940年ごろはまだプラスチックカードではなく、地方銀行が「特別な発行券」をつくり、それを地元の商店で使えるようにしたのです。現在の地域通貨のようなものです。
「特別な発行券」が次第に全米各地広がり、地方都市の銀行どうしが他行の「特別な発行券」を支払い手段として認めるようになり、1966年にインター・バンク・アソシエーションをつくりました。これが翌年の1967年にマスターチャージになります。
マスターは1968年にメキシコに進出し、グローバル化の第1歩を踏み出します。その後、1969年に社名をマスターカード・インターナショナルに変え、2006年に現在のマスターカード・ワールドワイドになりました。
マスターの世界初は次のとおりです。
●1987年、中国で発行を許可された最初のペイメント・カードになる
●1991年、世界初のオンラインPOS・デビットカード・ネットワークを介し
※3:https://brand.mastercard.com/brandcenter-ja/more-about-our-brands/brand-history.html
まとめ~なかったら、と考えるとすごさがわかる
VISAとマスターは、クレジットカードの代名詞的な存在であり、クレジットカードは世界経済の重要な金融インフラであり、多くの日本人にとっても暮らしに欠かせない生活インフラになっています。
したがって、VISAとマスターのすごさは、「もしクレジットカードがなかったら」と想像すると理解できます。
後払いや分割支払いができるようになったことで、低所得者層でも豊かな暮らしができるようになりました。今では企業間の取引でもクレジットカードが使われています。また、決済革命と考えられているキャッシュレスの礎を築いただけでなく、現代のキャッシュレス時代の繁栄を支えているのもクレジットカードです。
VISAとマスターは間違いなく、決済の2大巨頭であり、キャッシュレスの両雄といえます。