金融全般

AIは金融サービスをどう変える?確実に儲かる投資は可能なのか?

AI(人工知能)は日常生活にだいぶ浸透してきました。ネットを利用しても、商品やサービスを購入しても、遊んでいても、仕事でも、知らず知らずのうちに、あるいは目に見える形でAIに触れています。

そしてAIは今、金融サービスも変えています。AIで儲かる投資先を探したり、アマゾンがAIで銀行の業務をアシストしたりしています。
AI金融の今と少し先の未来を紹介します。

AIが投資で活躍

ウェルスナビ株式会社(本社・東京都渋谷区)が提供するロボットアドバイザー「ウェルスナビ」は、スマホのアプリで自動に投資ができる金融サービスです(※1、2)。

自動に投資をする、とは、株式や不動産、債券などの金融商品の選定を、ウェルスナビのユーザーである個人投資家がしなくてよい、という意味です。
投資とは、値上がりしそうな金融商品を選んで買って、値上がりを待つ収入確保手段ですが、ウェルスナビを使えば金融商品を選ぶ必要がありません。
ウェルスナビに搭載されたAIが金融商品を選んでくれるからです。

※1:https://www.wealthnavi.com/
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ01FNV0R00C21A4000000/

5,000億円を預かり、実績もある

ウェルスナビの預かり資産は2021年7月に5,000億円を突破し、ユーザー(個人投資家)数は26万人になりました。
運用実績では、2016年1月に295万円をウェルスナビに預けて、2021年6月に459万円(利益は164万円)になった事例があります(※3)。

同社は、最初に100万円をウェルスナビに預けて、それ以降毎月3万円の積立投資を30年間続けると、元本の計1,180万円が50%の確率で2,225万円になるとPRしています。

30年間の投資利益が1,045万円(=2,225万円-1,180万円)になる計算です。

AIがやってのけることに驚き

1,045万円の利益は「すごいこと」ですが、同時に「驚くほどでもない」ともいえます。ウェルスナビのすごさは、1,045万円の利益をAIというコンピュータで生み出していることです。

一方で、驚くほどでもないと思わせるのは「50%」です。50%の確率で1,045万円の利益が出る、ということは、50%の確率で1,045万円の利益が出ないという意味でもあります。そして「50%の確率で1,045万円の利益が出ない」には、低額の利益や利益0円どころか損失も含まれています。

また、仮に、最初に1,180万円を投資してそのあと追加投資せず、30年後に2,225万円になったら、1年間の利益は35万円(≒(2,225万円-1,180万円)÷30年)になるので、年利は単純計算で2.97%(≒(35万円÷1,180万円)×100)になります。

年利2.97%を出す投資信託は珍しくないので、ウェルスナビが好成績を出し続けたとしても「驚くほど儲かる」わけではありません。

ただし、通常の投資信託でも損失確率は20%程度とされています(※4)。つまり、プロのファンドマネージャーでも損失を出すことがあるので、30年の運用で50%の確率で1,180万円を2,225万円にすることを「AIがやってのけること」については驚くべきことといえるでしょう。

※3:https://www.wealthnavi.com/performance
※4:https://www.morningstar.co.jp/market/2021/0413/fund_01240.html

イギリスの銀行とアマゾンのAIが結びつくと何が起きるのか

2020年に、イギリスの大手銀行のバークレイズと、アメリカのアマゾンが業務提携をして、ドイツで買い物決済サービスを始めました(※5)。

イギリスの銀行とアメリカのEコマースが協力してドイツで事業をすることがすごいのではなく、この出来事のポイントは、大手銀行が金融事業を展開するのにアマゾンの力を借りたことです。

バークレイズにはクレジットカード部門があって、すでに独自に買い物決済サービスという金融サービスを提供できています。しかしそれだけでは足りなかったので、アマゾンの力を借りました。では何が足りなかったのでしょうか。

※5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66542660T21C20A1TCR000/

金融ビジネスはもう金融機関だけのものではない

バークレイズが単独でドイツで買い物決済サービスを展開できなかったことは、金融ビジネスがもう金融機関だけのものではない、ということを物語っています。金融ビジネスは、ITとネットによって効率化された結果、かなり複雑になりました。それで銀行などの金融機関だけでは最新の金融サービスを生み出せなくなっています。

むしろIT企業やネット企業のほうが、便利な金融サービスを生み出しているといえるでしょう。この現象は日本を含む世界中で起きていて、スマホを使ったペイ系決済に代表されるキャッシュレスや暗号資産はIT企業やネット企業が大活躍しています。

買い物決済サービスも同じです。

従来型のクレジットカード・サービスであれば、金融機関でも手掛けることができますが、最新の買い物決済サービスではそうはいかないでしょう。なぜなら決済は、AIやビッグデータをフル活用して目覚ましいアップデートを遂げているからです。

アマゾンのAI力とビッグデータ力が必要だった

買い物決済サービスの場合、与信が重要なテーマになります。誰でも簡単にクレジットカードを入手できるようにしてしまうと、返済できない事故が多発して、クレジットカード会社は損失を抱えることになります。だからといって個人の返済能力などをチェックする与信審査を強化しすぎると、ユーザー数を増やすことができず売り上げ増につながりません。

そこでアマゾンのビッグデータ分析の力とAIの力が活躍します。個人が買い物決済サービスの利用申請をしたら、アマゾンのビッグデータを使って、購買履歴などから申請者の与信審査を行うことができます。しかもAIを使えば与信審査を自動化できます。

さらに、買い物決済サービスでは、レコメンドなどの商品やサービスを推奨する機能が、売上高向上に貢献します。アマゾンを複数回使ったことがある人なら、ついで買いを誘うアマゾンのレコメンド機能の優秀さをご存知のはずです。

アマゾンの力を借りなければ、天下のバークレイズといえども新しい買い物決済サービスを提供することは不可能でした。それはバークレイズCEOのジェス・ステイリー氏が「アマゾンとの提携は、過去5年間でバークレイズに起きたことのなかで最も重要な出来事」と述べたことでも明らかです(※5)。

AIは低所得者に金融サービスを届ける

AIは金融サービスの民主化をもたらすでしょう。

タイのサイアム商業銀行のCEOは2020年に、「AIを活用すれば、低所得者層に金融サービスを提供できるようになる」と述べました(※6)。
タイの国民1人当たりの名目GDPは7,190ドルで、日本の40,146ドルの6分の1程度です(※7)。発展著しいタイですが、低所得者層もまだ多くいます。

サイアム商業銀行はかねてから、個人や零細企業の信用力評価に力を入れてきました。データ分析技術を使って、信用力を客観的に判定し、問題がなければ積極的に融資してきました。それが貧困や生活苦から抜け出すことにつながるからです。

サイアム商業銀行CEOは、AIを使えばデータ分析がさらに高度化、効率化するので、頑張る人や頑張る零細企業にさらに適切な融資ができるようになる、と指摘したわけです。

世界銀行によると、銀行口座を持っていない人は世界に17億人います(※6)。しかしAIやスマホ金融やフィンテックが進化すれば、その人たちでも金融サービスにアクセスできるようになるでしょう。

※6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66087350R11C20A1000000/
※7:https://www.globalnote.jp/post-1339.html

まとめ~新サービスがまだまだ生まれる予感

金融機関のAIと聞くと、銀行の業務効率化を思い浮かべる人は少なくないでしょう(※8)。金融機関が扱う商品であるお金は、数値化やデータ化が容易なのでコンピュータとの相性がよく、したがってAIで管理しやすい特徴があります。

しかし、AIは単なる計算するコンピュータではなく、考えることや予測することができます。そのため金融AIは、よい投資先を考えたり、人や企業の信用度を推測したりすることができます。

次はどのような金融サービスが誕生するのか楽しみです。

※8:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63914590W0A910C2X20000/