2022年現在、日本のインフレはどうなっている?リアルな実態とは
「久しぶりにインフレという言葉を聞いた」という人は少なくないと思います。「何でもかんでも値上がりしている」と感じている人も多いはずです。
このような感覚は正しく、2022年春から消費者物価指数はグングン上がっています(※1)。
このインフレは今どうなっていて、今後どうなるのでしょうか。
※1:https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
1991年9月以来、31年ぶりの上昇率
消費者物価指数にはいくつか種類がありますが、日本経済新聞は、生鮮商品を除く総合指数に着目しているので、本稿でもそれを追ってみます(※1)。
■2022年の消費者物価指数のうち、生鮮商品を除く総合指数(前年同月比の上昇率)
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 |
0.2% | 0.6% | 0.8% | 2.1% | 2.1% | 2.2% | 2.4% | 2.8% | 3.0% |
2022年3月までは前年同月比0.8%上昇とわずかな伸びにとどまっていましたが、4月に一気に2%台にのり、9月には3%を記録しました。
これは1991年9月(2.8%)以来の高い水準で、消費者が「物の価格が高くなった」と肌で感じるには十分な物価上昇といえます。
ちなみに1991年は、まだバブル景気の余韻が残っていて、大相撲の若貴ブームが起きていて、湾岸戦争があり、新東京都庁が完成した年です。
エネルギーと生鮮食品の上昇が著しい
2020年の生鮮商品を除く総合指数を100とすると2022年9月は102.9でした。
同じ比較では、高熱・水道が118.5と上昇率が飛び抜けています。保健医療が99.2、交通・通信が94.1と2020年の水準より下回っているのとは対照的です。
高熱・水道が急上昇しているのはエネルギー価格が上昇しているためです。ロシアによるウクライナ侵攻で地政学リスクが高まり、原油価格は高止まりしています。
2022年9月の消費者物価指数の前年同月比では、電気代が21.5%、都市ガス代が25.5%、プロパンガス代が9.7%、灯油代が18.4%、ガソリン代が7.0%、それぞれ上昇しています。
そして生鮮食品も、2020年を100とすると、2022年9月は108.5と高率になっています。
家計が圧迫されている感覚は数字で証明された
家計の圧迫感は肌感覚だけでなく、数字の裏づけもあります。2022年8月の消費者物価指数では、価格の調査対象となっている582品目の商品のうち71%の品目が前年同月より値上がりしました(※2)。
すなわち、買い物をすると71%の確率で去年より高いものを手に取ることになります。
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1548I0V10C22A9000000/
日本はまだ「まし」なのか
ただ2、3%台の上昇はまだ「まし」といえるのかもしれません。欧米の物価上昇率は8、9%台になっているからです。
そこで気になるのが今後です。
2、3%程度なら何とか耐え忍ぶことができても、日本も8、9%アップとなると「実害」が出てきかねません。
ここでは、「そこまで上がらない」という楽観的な見方と「日本も10%アップに備えたほうがよいかもしれない」という悲観的なデータの両方を紹介します。
欧米のような悲惨な状態(9%上昇)にはならない?
楽観的な見方を示しているのが、第一生命経済研究所です。2022年7月に公表したレポート「日米欧の物価上昇率の比較」のなかで「欧米のような2桁台をにらむインフレ加速に直面することは見通せない」と断言しています(※3)。
日本の物価上昇率が2桁台にまでならないだろうとする根拠は、1)企業の価格支配力の違いと、2)経済回復ペースの違いの2点です。
アメリカの2022年6月の消費者物価は前年比9.1%の上昇。ユーロ圏の同月の統一基準消費者物価指数は同8.6%アップでした。日本の3%上昇が小さく感じます。
日本のエネルギー価格は、先ほどみたとおり20%アップ程度でしたが、欧米では40%アップに達しています。日本がこの程度の上昇率で済んでいるのは、電気料金の制度の違いやガソリンや灯油の補助金が奏功しているからです。
ただ日本を含む世界の物価を押し上げている要因はウクライナ産農産品の供給難、原材料費と肥料価格の上昇、輸送コストの上昇、人手不足であり、これらはすぐに解決できるものではないので日本の物価上昇率は一段と加速する可能性があります。
それでも第一生命経済研究所は、先ほど紹介した2つの理由から物価上昇率は欧米ほどには高くならないとみているのです。
日本企業の価格支配力の弱さとは、原材料が値上がりしても販売価格を値上げできない性質のことです。つまり、利益を削ってでも値上げをしないように努め、限界に達したときだけ少し値上げするマインドを持っている、ということになります。
もちろん企業は利益を得たいので、高額な原材料を購入したら販売価格も値上げしたいのですが、価格支配力が強い消費者に負けてしまうのです。
そして日本の経済回復ペースの鈍化も、物価の急上昇を抑えます。
欧米では急激な物価上昇に伴って急激な賃金上昇も起きましたが、日本の賃金はそれほど上がっていません。消費者の価格支配力が強いのは、賃金が上がっていないので高額な商品を買えないからです。
日本で賃金が上がらないのは経済がそれほど回復していないからで、したがってこの現象は素直に喜べないところもあります。
企業の価格支配力の弱さと、その裏返しである消費者の価格支配力の強さ(安いものを求める強さ)と、経済回復ペースの弱さは、デフレマインドをつくったことで知られています。
つまり日本には今もデフレマインドが色濃く残っているので、欧米並みの物価上昇に見舞われないだろう、という見立てのようです。
※3:https://www.dlri.co.jp/report/macro/193944.html
しかし日本でも企業物価指数は10%近い
続いて悲観的なデータを紹介します。
先ほど紹介した「3%上昇程度で済んでいる」のは消費者物価であり、日本銀行が調べている企業物価指数は、2022年9月分は前年同月比で9.7%上昇しています(※4)。企業物価指数とは、企業間で取引される財の価格変動を測定したもの(※5)。
消費者が買う物の価格は3%上昇で済んでいますが、企業が買う物の価格は9.7%も上昇しているのです。
ビジネスは川の流れに例えられます。資源を原料に加工したり素材をつくったりする過程を川上とし、メーカーが商品をつくる過程や消費者に販売する過程を川下としています。
企業物価は川上で顕著に上昇しています。9月の企業物価指数を品目別にみると、川上で使われることが多い鉄鋼は26.1%アップ、石油・石炭製品は14.7%アップと、全体の9.7%アップを大きく上回っています。
そして川下で使われることが多い飲食料品は6.4%アップ、生産用機械は4.5%アップとなっていて、全体の9.7%アップよりは低いものの、消費者物価指数の3%台よりは高くなっています。
消費者物価に近い川下物価が今後さらに上昇すれば、消費者物価も上がる可能性も高まるでしょう。
また、日本銀行が2022年9月に行った全国企業短期経済観測調査(短観)によると、「販売価格を値上げしている」と回答した企業の割合から、「販売価格を値下げしている」と回答した企業の割合を引いた販売価格判断指数(DI)は、中小企業で上昇しています。
つまり、価格支配力が弱い企業のなかでも特に弱い中小企業でも値上げの動きがみえていることから、今後は、消費者物価も値上げ圧力が働きやすくなるかもしれません。
※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB118770R11C22A0000000/?unlock=1
※5:https://www.boj.or.jp/
日本で恐いのは円安~インフレとの関係とは
日本の物価高やインフレで看過できないのは円安です。
輸入した原材料で製品をつくっている日本のメーカーや、輸入品を販売している日本の小売業は、円安が進むと自然とコスト高になるので利益が減り、値上げに踏み切るしかなくなってきます。
ドル円は2022年1月は1ドル115円近辺でしたが、同年10月には150円をつけました。3割もドル高円安が進行しています。
輸入に頼る日本企業は、海外で値上がりしている物を、安い円で買わなければならず二重苦に陥っています。
円安は物価高を下支えしてしまいます。
もちろん、輸出に頼っている日本企業は、賃金が上昇しない労働者を雇用して物をつくって輸出して、高いドルで支払ってもらえるので「二重幸福」を味わっているのですが。
まとめ~インフレ防衛とは環境の変化に対応すること
楽観的な見方をもってしても、日本の物価上昇はまだしばらく続きそうです。
すでに防衛策を講じている消費者や企業はそれを強化して、まだ講じていなかった人たちは、もう様子見できる状態ではないと覚悟したほうがよいでしょう。
インフレは物の価値が上がり現金の価値が下がる現象です。つまり、かつて100万円で買えていたものが、もう100万円では買えなくなっています。したがって個人は資産形成を考え直す必要があります。
また、企業においては海外生産から日本生産に切り替える動きもみえ始めています(※6)。
外部環境に大きなことが起きているとき、内部環境も変えていく必要があります。