デビットカードはなぜ人気が出ないのか?銀行がテコ入れを始めた
デビットカードを使っていますか。
そもそもデビットカードの仕組みを知っていますか。
スマホ決済やクレジットカードを使っていても、デビットカードはほとんど使わない、という人は少なくないはずです。
経済産業省によると、デビットカードを買い物の支払い(決済)に使っている人は0.92%しかいません(※1)。
デビットカードは、現金を使わないで決済を完了させるキャッシュレス決済の1つです。そもそも日本のキャッシュレスの使用率は3割程度にすぎませんが、それでもデビットカードの使用率0.92%は、人気がなさすぎです。
デビットカードの不人気の理由を探ってみましょう。
さらに、デビットカード・サービスを提供している銀行は今、まさに巻き返しを図ろうとしているので、その取り組みも紹介します。
クレカは28%なのにデビットは1%未満、一人負け状態
経済産業省によると、2021年の決済手段ごとのシェアは以下のとおりです(※2)。
■決算手段ごとのシェア(2021年)
現金 | 67.58% | ||
キャッシュレス | 32.42% | クレジットカード | 27.70% |
デビットカード | 0.92% | ||
電子マネー | 2.00% | ||
コード決済(スマホ決済) | 1.80% | ||
計 | 100.00% |
現金は67.58%と、依然として最も使われている決済手段として君臨しています。この牙城はかなり強固です。
キャッシュレスは残りの32.42%で、そのうち最も使われているのは27.70%のクレジットカードです。27.70%はすべての決済手段のなかの割合なので、消費者の3割近くがクレジットカードを使っていることになります。
電子マネーとコード決済(スマホ決済)でもそれぞれ大体2%なので、1%に満たないデビットカードの一人負け状態が際立っています。
デビットカードは銀行口座のお金が即座に引き落とされる
不人気の利用を確認する前に、デビットカードの仕組みを紹介します。
小売店で商品やサービスを購入したときにデビットカードで支払いの手続きをすると、それと同時に自分の銀行口座から支払額と同じ額が引き落とされます。これで支払いが完了します。
銀行口座の残金が足りなければ、デビットカードは使えません。
同時払い方式がデビットカードの特徴で、現金をチャージしてから使う電子マネーの前払い方式や、買い物をしてから1、2カ月後にお金が引き落とされるクレジットカードの後払い方式と大きく異なります。
メリットはたくさんある
キャッシュカード、電子マネー、クレジットカードと比べると、デビットカードを使うメリットをよく理解できるでしょう。
銀行に預けている現金を使う場合、キャッシュカードを使ってATMで現金を引き出す必要がありますが、デビットカードならその手間が要りません。
デビットカードは要するに、瞬時にATMでお金を降ろして使う状態をつくっています。
電子マネーの前払い方式は、まだ買い物をするかどうかわからない段階から現金を用意してチャージしておかなければなりません。
お金を用意するのも手間ですし、チャージも手間です。
クレジットカードの後払い方式の場合、買い物をしているときは「支払いの実感」がないので無駄遣いをしてしまうリスクがあります。
キャッシュカードと電子マネーとクレジットカードの欠点をすべて解消したのがデビットカードなのですが、なぜそれほど使われていないのでしょうか。
継続して利用したい人は55%しかいない
クレジットカードのVISAがデビットカードに関する調査を2021年に行なったところ、デビットカード利用者のうち、継続して利用したいと回答した人は55%しかいませんでした(※2)。半数しか満足していないのは、少ない印象がないでしょうか。
この調査ではデビットカードを利用し始めたきっかけを尋ねたのですが、「キャンペーン期間中でポイントがもらえたから」「お金の管理がしやすい」「ATMで現金を引き出すのが面倒だった」がベスト3でした。
「お金の管理」と「ATM不要」を挙げた人はデビットカードのメリットを理解して利用を開始したわけですが、「ポイント」を挙げた人はデビットカードの有用性を理解して使い始めたわけではないのでリピーターやヘビーユーザーになりにくいでしょう。それが、継続利用希望が55%しかいない結果を招いたと推測できます。
さらに、デビットカードが使っていない人にその理由を尋ねたところ、最も多かったのは「知らない」でした。
デビットカードの利用率が上がらないのは、便利さを感じる人が多くなく、存在を知らない人が多いからといえそうです。
※2:https://www.visa.co.jp/about-visa/newsroom/press-releases/nr-jp-2109022-2.html
巻き返しなるか、銀行がテコ入れに着手
デビットカード事業で銀行がしていることは、デビットカードの利用者が小売店で支払いの手続きをしたら、そのデータを受け取って利用者の銀行口座の残金からその分を差し引く「だけ」です。
つまり銀行は、デビットカードの利用者にお金を貸すわけでもなく、先に買い物をさせて代金をあとから徴収するわけでもありません。
そのため銀行は、デビットカードを発行するとき、そのユーザーを審査しません。クレジットカードは審査をパスした人にしか発行しませんが、それとは対照的です。
そしてデビットカードでは銀行はお金を貸し付けていないので、返済という作業がないので返済が滞るリスクがありません。
さらに、デビットカードは前金制度ではないので、銀行はお金を預かることも、預かったお金を管理することも必要ありません。
極論すれば銀行は通常の預金業務と通常の引き落とし業務をするだけでデビットカード事業を展開できるのです。
しかもデビットカードのユーザーは、自行の口座の保有者なので、デビットカードを使ってもらうほど顧客との関係性は強くなり囲い込みにプラスに働きます。
さらに、ユーザーがデビットカードを使えば使うほど、銀行は小売店から手数料を得ることができます。
ユーザーはデビットカードを無料で使うことができますが、デビットカードを取り扱う小売店は使用のたびに銀行に手数料を支払わなければなりません。
こうしたメリットがあることから、デビットカードが普及しないことは銀行にとって「残念なこと」です。
そこで銀行は今、デビットカード強化策に動き始めています(※3)。
※3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB034C80T00C22A7000000/?unlock=1
みずほ銀行は「デビット+キャッシュ」カードを発行
みずほ銀行は2022年7月から、デビットカード機能を持たせたキャッシュカードを発行しました。このカードを持ったユーザーは、ATMで現金を引き出すときはキャッシュカードを使い、買い物でデビットカードを使うという使いわけが必要なくなります。
みずほ銀行はさらに、この「デビット+キャッシュ」カードに、スマホ決済の「みずほウォレット」も連係させました。スマホ決済の要領で、小売店の端末にスマホをかざすだけでデビット機能を使うことができます。
こうした取り組みが奏功し、みずほ銀行のデビットカード関連の売上高は2021年度に前年度比2割増になったといいます。
三井住友銀行はポイントで経済圏に誘い込む
三井住友銀行は2022年6月、デビットカード・ユーザーに対し、同行が所属するSMBCグループのポイントである「Vポイント」を付与することにしました。
従来は0.25%のキャッシュバックを実施していましたが、これからはVポイントを0.5%分還元します。コストをかけてデビットカードを盛り立てていく考えです。
別の見方をすると、SMBCグループが、三井住友銀行のデビットカード・サービスを重視し始めたとみることができます。
SMBCグループには銀行のほか、信託銀行、証券会社、クレジットカード会社、リース会社、ファイナンス会社などがあります。同グループはこれらの経営資源を使ってSMBC経済圏を構築し、顧客を囲い込もうとしています。
デビットカードのメリットが広く認知されるようなれば、デビットカードの利用を入口にして顧客を自分たちの経済圏に誘い込むことができます。
まとめ~特別に秀でているわけではないが、もっと利用されてよさそう
デビットカードは、ユーザーが自分の銀行口座に預金してその残高の範囲内で買い物ができるので、預金をチャージと考えると、デビットカードは前払い方式の電子マネーと似たサービスといえます。
またクレジットカードは今手元にお金がなくても買い物ができるメリットがありますが、デビットカードにはその機能はありません。
そういった意味では、デビットカードがその他のキャッシュレスより特別秀でているわけではないといえそうです。
しかし利用率1%未満という数字は、評価が低すぎるでしょう。
キャッシュレスの普及にはデビットカードの「頑張り」が必要ですし、そのポテンシャルは十分持っているといえそうです。