【クレジットカード】企業は何を狙ってサービスを進化させている?
クレジットカードのサービスの充実度が日に日に増加しています。
さまざまな種類のキャッシュレス決済サービスが登場するなか、伝統的なキャッシュレスであるクレジットカードが、顧客獲得のために反撃の狼煙(のろし)をあげた格好です。
クレジットカードで買い物をすると、ポイント付与という形で支払ったお金の一部が戻ってくるのは当然のこととして、銀行の普通預金の金利を100倍にするサービスも誕生しました。
クレジットカード会社が、どのようにサービスを充実させ、そこにはどのような狙いがあるのか紹介します。
キャッシュレスでは圧倒的だが、現金には全然かなわない
クレジットカードの現在の立ち位置は「電子マネーやQRコードなどのその他のキャッシュレス決済を圧倒しているが、現金にはまったくかなわない」となるでしょう。
経済産業省によると、2019年の国民の全決済手法(民間最終消費支出)に占める割合は、現金などが73.2%、キャッシュレスが26.8%でした(※1)。日本はまだまだ現金社会であることがわかります。
ただ、キャッシュレスは2014年の16.9%から5年連続で増加していて、2014年→2019年は9.9ポイント(=26.8(%)-16.9(%))増となっています。
2019年のキャッシュレスの内訳は次のとおりです。
- クレジット:24.0%
- デビット:0.6%
- 電子マネー:1.9%
- QRコード:0.3%
このようにクレジットカードは、キャッシュレスのなかでは圧倒的なシェアを誇っています。
ただ、QRコードは2018年の0.05%から2019年の0.31%へと急増していて、仮に母数が同数だとすると1年で6.2倍になったことになります。このような状況から、クレジットカード会社には、次のようなモチベーションがあると推測できます。
- 現金決済のシェアをさらに奪っていかなければならない
- 新キャッシュレスの追い上げに負けないようにしなければならない
こうしたモチベーションから、クレジットカード会社はサービスを充実させているわけです。
※1:https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626014/20200626014-3.pdf
何をしてもポイントが貯まる「楽天カード」は経済圏の構築を目指す
楽天カードのテレビCMを見ない日がないほど、楽天カード株式会社はPRに余念がありません。
そして宣伝より力を入れているのが、楽天カードの特典を増やす活動です。楽天カードの利用者は、楽天グループ株式会社の傘下企業が提供しているさまざまなサービスを有利に使うことができます(※2)。
※2:https://www.rakuten-card.co.jp/
お得の内容
楽天カードには2021年5月現在、ポイントプレゼントの特典だけでもこれだけあります。
- 新規入会と新規利用で5,000円相当の楽天ポイント(5,000ポイント)
- 楽天ゴールドカードの新規入会と新規利用で7,000ポイント
- 楽天プレミアムカードの新規入会と新規利用で5,000ポイント
- 学生限定、楽天カード・アカデミー新規入会と条件達成で最大5,555ポイント
- Edyオートチャージ申し込みと利用で最大2,000ポイント
- キャッシング利用で、抽選で最大7,000ポイント
そしてポイントプレゼントだけでなく、ポイントを増やす方法も多数用意しています。その一部を紹介します。
- ネット通販の楽天市場で楽天カードを使って買い物をするとポイントが3倍になる
- 楽天銀行に口座をつくり、楽天カードの利用代金をその口座から引き落とすようにすると、初回引き落とし時に200ポイントプレゼント
- 楽天証券に口座をつくり、楽天カードで投資をすると、決済100円につき1ポイントが貯まる
- 楽天保険に加入している人のうち、ゴールドランク以上の人に、がん保険を無料でプレゼント(保険料を楽天グループ株式会社が負担する)
- 楽天カードから楽天ペイのチャージの支払いをすると、買い物の支払いの1.5%を還元する
- 楽天エナジー株式会社から電気(楽天でんき)を購入し、楽天カードで支払いをすると、電気料金200円ごとに1ポイントプレゼント
- 楽天モバイルのスマホ利用を申し込み、さらにiPhoneを購入すると20,000ポイントプレゼント
ここから、楽天の戦略が見えてきます。
何でも屋が消費者を囲い込むためのツール
楽天は今、楽天経済圏戦略を展開しています。これは、何でも屋である楽天が、消費者に何でも楽天経由で買ってもらおうとする戦略です。そして楽天カードは、楽天経済圏を拡大するための重要なツールになっています。
消費者は楽天カードさえ持っていれば、ネット通販で買い物をしても、銀行で引き落としをしても、株式投資をしても、保険に加入しても、スマホ決済をしても、電気を使っても、スマホを購入しても、ポイントをもらうことができます。
消費者は、楽天で買い物をすればするほどお得なる、と思うでしょう。そしてその思いの力はすさまじく、楽天が利用者に発行した楽天ポイントは2020年に2兆ポイントを超え、楽天カードを使ったショッピング取扱高は9.5兆円に達しました(※3)。
楽天カードが消費者を楽天経済圏に引き寄せ、そして楽天カードが消費者を楽天経済圏につなぎとめています。
※3:https://newspicks.com/news/5326021/body/
銀行の預金金利を上げる「イオンゴールドカードセレクト」は金融事業戦略の柱
経済圏づくりでは、小売の巨人であるイオン株式会社も力を入れています。そして、やはりクレジットカードがカギを握っています。
利率はメガバンクの100倍
イオングループでクレジットカード事業を担うのは、イオンクレジットサービス株式会社です。ここで注目したいのは同社が発行する「イオンゴールドカードセレクト」です(※4)。
「ゴールド」を名乗るだけあって、簡単には持つことはできません。
イオンゴールドカードセレクトを持つことができるのは、一般的なクレジットカードであるイオンカードセレクトをすでに持っていて、なおかつ直近1年間のカードショッピングが100万円を超えている人です。
イオンゴールドカードセレクトの無料サービスには、買った商品が事故で損害を受けたときの年間300万円までの補償や、最高5,000万円の保険金が支払われる海外旅行損害保険などがあります。
そしてイオン銀行に口座を開設して、イオンゴールドカードセレクトを持ち、たくさん買い物をして、たくさん投資をして、たくさんローンを借りると、「イオン銀行スコア」が高くなります。
イオン銀行スコアは、ブロンズステージから始まり、シルバーステージ、ゴールドステージ、そして最高峰のプラチナステージへと昇進していきます。
プラチナステージに達した人は、イオン銀行の普通預金の金利が0.1%になります。メガバンクの普通預金の金利が0.001%なので、その100倍の利率になります。
ここまでサービスが充実しているのに、イオンゴールドカードセレクトの年会費は無料です。クレジットカード会社の多くは、一般的なカードの年会費を無料にしつつ、ゴールドカードを有料にしているので、イオンの大盤振る舞いは際立っています。
※4:https://www.aeonbank.co.jp/aeoncard/goldcard/
イオンと金融事業
イオンがクレジットカード事業に力を入れるのは、金融事業に本気で取り組んでいるからです。
日本銀行は2007年10月から、株式会社イオン銀行と当座預金取引を開始しました(※5)。これによりイオン銀行は、日銀や日本政府との決済手段を確保したことになります。イオンにとって金融事業は「単なる副業」ではありません。
ただ、イオンの2021年2月期の営業収益は8兆6,039億円で、そのうち金融事業は5.7%の4,875億円で1割にも達しません(※6)。ところがイオンの「本業」である総合スーパー事業は、アマゾンなどの新興小売企業に押され苦戦しているので、金融事業は本業を支える「スペシャルな副業」というポジションになっています(※7)。
イオンの岡田元也会長は、社長時代の2015年の入社式で新入社員たちに向かって金融事業について次のように述べています(※8)。
「イオンは、実店舗による小売業だけではない。サービスや金融、デベロッパー、などいろいろなビジネスがあるわけだが、相互に有機的に連動している。そして皆さんは今日からそれぞれのビジネスや業務に就くわけだが、どうか商人であることを忘れないでほしい」
イオンにとって重要なのは商人であることで、そうである以上、金融事業に着手するのは当然のことというわけです。
※5:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2007/tou0710a.htm/
※6:https://www.aeon.info/ir/individual/results/
※7:https://www.asahi.com/articles/ASN1B575MN1BULFA024.html
※8:https://diamond-rm.net/blog_chief/5351/
まとめ~賢く使おう
クレジットカードのサービスを充実させるにはコストがかかるので、特典をつけるほどクレジットカード会社の利益は減ります。しかし、クレジットカード会社の利益が減った分は、確実に利用者に還元されるので「また使いたい」と思ってもらえます。
クレジットカード会社がサービスを充実させるのは、もっと買い物をしてもらいたいからです。この動きは政府も支持していて、金融業界の規制緩和を進め、小売業の金融業界への進出を後押ししています(※9)。
クレジットカードの使い過ぎは注意しなければなりませんが、お得な買い物ができるのであれば、クレジットカードの利用は「家計の防衛」になるはずです。クレジットカードのサービスを吟味することは、賢い消費行動の1つといえるでしょう。
※9:https://dmk.nttdata.com/digitalmarketing/301814070121/#toc3