「グーグルの自社決済強制」と「アップルの高額手数料」は何が問題なのか
グーグルはこれまで、基本ソフト(OS)アンドロイドを搭載したスマホ向けのアプリを開発している会社に、グーグルの決済システムを使うよう強制していましたが、2021年11月にこれを撤回しました(※1)。これによりアプリ開発会社は、グーグルの決済システム以外の決済システムを使うことができます。
強すぎるグーグルに政治的な圧力がかかりました。これは韓国での話ですが、この流れはその他の国にも波及しそうです。
というのも、やはりスマホ・アプリ・ビジネスを大々的に展開しているアップルにも逆風が吹いているからです。アップルの手数料が高すぎる問題は、日本が震源地になっています。
この記事では、グーグル問題とアップル問題で何が問題になっているのかを解説します。
※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM059BP0V01C21A1000000/
韓国政府はグーグルの何を問題視したのか
韓国政府は、自国のアプリ開発会社の負担を減らしたいと考えています。
そこで、グーグルなどのスマホ・アプリ・ビジネスの「総元締め」になっている企業が、アプリ開発会社に特定の決済システムの利用を強制することを禁止する法律をつくりました。
ではなぜ、グーグルが、アプリ開発会社にグーグルの決済システムの利用を強制することがアプリ開発会社の負担増になるのでしょうか。
グーグルが得る利益が大きすぎ、自国のアプリ開発会社の負担が増えている
それはグーグルが、自社の決済システムを利用させることで最大30%の手数料収入を得ているからです。アプリ開発会社の収入は、グーグルの手数料分減ります。
日本経済新聞によると、グーグルなどのいわゆるプラットフォーマーへの規制は世界中で広まっていますが、アプリ開発会社に特定の決済システムの利用を強制することを禁じたのは、韓国が世界初になります(※1)。
アップルに飛び火するかも
日本経済新聞はさらに、この問題がアップルにも飛び火するだろうとみています(※1)。
アップルも自社のアプリストア「アップストア」で、アプリ開発会社にアップルの決済システムを使うよう強制し、なおかつ高額の手数料を徴収しています。
アップルの韓国法人の幹部が辞任するなど、アップル内でも韓国政府の対応を巡って紛糾している模様です。
グーグルとアップルはアプリ開発会社の生殺与奪を握る?
アップルの事例を確認する前に、これら問題の背景に何があるのか探ってみます。結論を先に紹介すると、グーグルとアップルが、アプリ開発会社の生殺与奪を握っていることが問題視されています。
スマホが重要生活インフラになり、2社が強くなりすぎた
スマホは今、生活インフラになっています。
スマホでニュースや動画がみられるだけでなく、スマホが自動車の鍵になったり、スマホで家電を操作したり、スマホで買い物の支払いをすることも可能です。オンライン診療では、スマホで医療を受けることができます。
スマホを生活インフラの地位に押し上げたのは、アプリです。アプリは、パソコンのソフトウェアのようなもので、スマホが器だとしたら、アプリは頭脳であり手足です。
スマホ・アプリを動かす大元になるのは基本ソフト(OS)です。スマホのOSはほぼ、グーグルのアンドロイドとアップルのiOSが独占しています。
スマホという重要生活インフラは、この2社によって完全に牛耳られている状態にあります。
販売する場所を限定すると不公平になる
アプリ開発会社が、アンドロイド・スマホで使うアプリを開発して販売するには、グーグルのアプリストア「グーグルプレイ」を経由しなければなりません。
アップルも同じ仕組みを採用していて、アプリ開発会社が、iPhoneで使うアプリを開発して販売するには、アップルのアプリストア「アップストア」を経由しなければなりません。
仮に、農家がリンゴを売るときに、必ずある問屋を通さなければならないというルールが決まっていたら、その問屋は強力な力を持つようになり、なおかつ大儲けできます。なぜなら、この問屋は強力な力を背景にして、農家にも消費者にも手数料を課すことができるからです。
農家は手数料を支払わなければリンゴを売ることができず、消費者は手数料を支払わなければリンゴを買うことができません。
このように、販売する場所を限定してしまうと、独占や不公平な取引が起きてしまいます。
「儲けすぎ」の自覚はあった?
グーグルもアップルも、この「アプリ販売手数料ビジネス」の利益が大きすぎると考えていた節があります。2021年1月にはアップルが、同年3月にはグーグルが、相次いでアプリストアの手数料を引き下げています。
アップルは、年間売上高が100万ドル(約1億円)以下の中小のアプリ開発会社の手数料を30%から15%に引き下げました。グーグルはすべてのアプリ開発会社を対象に、年間売上が100万ドルに達するまで手数料を30%から15%に引き下げました(※2)。
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16DTX0W1A310C2000000/
アップル問題
アップルの問題点について確認していきます。アップルは、フォートナイト問題と、日本の公正取引委員会問題の2つの大きな問題を抱えています。
フォートナイト問題とは
人気ゲーム「フォートナイト」を開発したアメリカのゲーム会社、エピックゲームズが2021年5月、アップルのアップストアの手数料が高く、反トラス法(日本の独占禁止法)に違反していると裁判所に訴えました。
先ほど解説したとおり、アップルは、スマホiPhoneで使うすべてのアプリを、アップストア経由でダウンロードするよう求めています。エピックゲームズはこのルールによって、アップルが「iPhoneのゲーム市場」を独占し、公正なビジネスを妨げていると訴えています。
一方アップルは、独占してないと主張しています。
その根拠は、エピックゲームズはアップストアを使わない自由があるからです。アップルのやり方が気に入らないのであれば、エピックゲームズは、iPhone向けゲームをつくらずに、アンドロイド・スマホ向けのゲームや家庭用ゲーム機向けのゲームをつくればよい、というわけです。
アップストアは「世界のゲーム市場」を独占しているわけではない、というのがアップルの主張です。
<両者の対立軸>
●エピックゲームズの主張:アップルは「iPhoneゲーム市場(iOSゲーム市場)」を独占している
●アップルの主張:アップストアは「世界のゲーム市場」を独占しているわけではない
一審の裁判所は、アップルの独占を認定せず、エピックゲームズが敗訴しました。
ただ一審判決は、アップルがアプリ開発会社に、外部の決済システムを使うことを制限したルールは反競争的であると指摘しているので「真っ白」というわけではなさそうです。
日本の公取委とアップルの合意
アップルの決済手法については、日本でも問題になっています。日本の公正取引委員会は長く、アップルの決済システムの強制問題を調査していました。
iPhoneユーザーがiPhone向けコンテンツを閲覧するには、アップルが用意したリーダーアプリを使う必要があります。
リーダーアプリの対象には、雑誌や新聞、音楽などを視聴するアプリがあります。アップルはアプリ開発会社に、アプリ内にアプリ開発会社の自社サイト・リンクを設置することを禁じていました。
これではアプリ開発会社はiPhoneユーザーに、まったく別のコンテンツをPRしたり、自社のサブスクリプションに加入させたりすることが難しくなります。アプリ開発会社からすると、自分たちの独自のビジネスを邪魔されているようなものです。
アマゾンはアップルのこのやり方を嫌って、iPhone向けの電子書籍アプリ内では、新たな電子書籍を購入できないようにしています。ただこれは、アマゾンのような強い会社だからできた対抗措置でしょう。アマゾンならユーザーに「新たな電子書籍を購入したいのなら、アマゾンのサイトへ」と誘導できますが、力が弱いアプリ開発会社ではそれができません。
公取委の調査を受け、アップルは従来の方針を変え、アプリ内にアプリ開発会社の自社サイト・リンクを設置できるようにしました。これにより、アプリ開発会社は、アップルの決済システムを介さずユーザーに直接課金できる道が拓けました。
アップルは公取委の調査について次のようにコメントしています(※3)。
「アップルは本日(2021年9月1日)、公正取引委員会による調査を終了することになるアップストアに導入するアップデートを発表しました。
このアップデートにより、リーダーアプリの開発会社は、ユーザーがアカウントを設定または管理できるように、アプリケーション内に自社ウェブサイトへのリンクを含めることが可能になります。
この合意は日本の公正取引委員会との間でされたものですが、アップルはこの変更を、アップストアで公開されている世界中のすべてのリーダーアプリケーションに適用します。」
アップルは、公取委との合意内容を日本ルールにとどめず、世界ルールにしていくとしています。
つまりアップルは、日本の公取委の主張が、世界各国の規制当局も納得できる「グローバル的な合理性」を持っていると認めたわけです。
まとめ~強すぎるがゆえの規制
「ここで販売するなら必ずここで支払ってください」というルールは、事業規模がそれほど大きくなければ、あまり問題にならないでしょう。もしくは、対象となる商品がそれほど重要でなければ、そのルールを問題視する人はいないでしょう。
しかし、グーグルとアップルは巨大企業であり巨大なビジネスを展開しています。しかも、アンドロイド・スマホもiPhoneも、重要生活インフラになっています。
この場合、決済システムの利用だけでなくあらゆる強制は規制の対象になりえます。強すぎる企業には「儲け」の自制が求められることがあるわけです。