金融機関がメタバースに注目するのは「近い将来、巨大ビジネスになるから」

世界最大級のSNS、フェイスブックを運営するアメリカのフェイスブック社が2021年に、社名をメタ・プラットフォームズ社(通称、メタ)に変えました。メタはメタバースの略称です。

メタバースは巨大仮想現実空間と訳されます。仮想空間はゲームやビジネス・シーンに大分浸透してきましたが、メタバースはその規模が爆発的に拡大したバージョンと考えることができます。

もしメタバースが完成したら、それはもう1つの世界になるでしょう。

このメタバースに、金融機関が注目しています。アメリカの大手銀行、JPモルガンは、自らメタバース・ビジネスに乗り出しました。

日本でも地方銀行などが全日空(ANA)のメタバース事業に45億円を投資するといった動きがあります。

金融機関はメタバースにビジネスの可能性を見出しています。

メタバースとは?金融機関の視点から

メタバースとは何なのかという質問に答えることは簡単ではありません。インターネットが発明されたころに、インターネットの概念を理解しづらかったのと同じです。

この記事は金融機関にフォーカスしているので、金融機関がメタバースをどのようにみているのか紹介します。

日本政策投資銀行はメタバースを深く研究している金融機関の1つで、2021年に「AR/VRを巡るプラットフォーム競争における日本企業の挑戦」というレポートを作成しました(※1)。ここからメタバースの正体を探っていきます。

※1:https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/15b521ee498fac61aec71ff2d93da2e6_1.pdf

AR/VRはメタバースのツール

メタバースはもう1つの世界なのですが、もちろんリアルの世界がもう1つできるわけではありません。

リアルの世界が原子や分子などの物質でできているのに対し、メタバースの世界はオーグメンテッド・リアリティ(拡張現実、以下AR)やバーチャル・リアリティ(仮想現実、以下VR)でできています。AR/VRはメタバースをつくるツールといってもよいでしょう。

ARは目の前に広がるリアル世界にコンピュータでつくった映像を重ね合わせる技術で、VRはCGで非現実的な世界を映し出す技術です。

VRのコンセプトは1960年代に構築されたとされていますが、当時は別世界を生み出すだけの技術力がありませんでした。

最近になってようやくAR/VRが実用化されるようになったのは、デバイス(機器)を小さくすることができ、高速・大容量の通信網が構築され、センサーが高度化されたからです。

SFの世界をITとデジタルで現実のものにしたわけです。

メタバースの世界とは

メタバースは、ニール・ステファソンという作家が1992年に発表したSF小説「スノー・クラッシュ」に登場する仮想空間がルーツとされています。

この小説で描かれたメタバースの世界は、リアルの人々がアクセスするデジタルワールドです。そこには自分のアバターがいて生活をします。

アバターは化身という意味で、コンピュータ分野ではデジタル空間や仮想空間で自分の代わりに活動するキャラクターのことを指します。例えばデジタル空間にドーナツ屋をつくり、アバターがドーナツを売り、別のアバターがドーナツを買います。

「ゲームのなかのキャラクターを動かしてプレーするようなもの」と感じるかもしれませんがゲームとメタバースはとても相性がよいのです。

ただゲームと違うところもあり、それはリアル世界での楽しみや仕事をメタバース内で再現したり発展させたりできるところです。

例えば、友達との交流をメタバース内で再現することができます。メタバース内をおとぎの国にすれば、その交流はより楽しくなります。

ビジネス面では、例えば工場をメタバース内に再現すれば作業員のアバターを動かすことで綿密なシミュレーションができます。

メタバースの将来性と現状

メタバース内交流やメタバース工場は現在すでに構想されているものであり、これがメタバースの完成形ではありません。「もっとすごいもの」になると考えられています。

日本政策投資銀行はこのレポートで、メタバースの将来性について次のように述べています。

  • (メタバースの開発は)より大規模な同時接続を可能とするサーバー技術や、プラットフォーム間で暗号資産を移動させる金融サービスといった新たな技術やサービスの登場を促すであろう

つまり、メタバースの開発ニーズが技術やサービスを高度化させる、というわけです。一言で表すと「未知数」となるでしょう。

では、現状はどのようになっているのかというと「真にメタバースといえるプラットフォームはまだ存在しない」とみています。メタバース・ビジネスは始まったばかりで、参入チャンスは誰にでもあると考えることができます。

JPモルガンがやろうとしていること

JPモルガンはメタバース上に事務所を開設しました(※2、3)。

アメリカにディセントラランドというメタバース・プロジェクトがあります。ディセントラランドの参加者はメタバース内に自分のアバターを置き、そのなかの施設を利用したり、そのなかで展開されるゲームを楽しんだりすることができます。さらにメタバース内の土地を売買したり、サービスを提供したりといったビジネスも始まっています。

JPモルガンはこのディセントラランド内に、オニキス・ラウンジという名称の事務所を開設しました。ディセントラランド内のアバターは、JPモルガンのオニキス・ラウンジに入って暗号資産の情報などを得ることができます。

オニキス・ラウンジは、バーチャル銀行支店と考えてもよいでしょう。

銀行が仮想空間ビジネスに進出することはまだ珍しく、JPモルガンのメタバース事業への期待の高さがうかがえます。

JPモルガンは、メタバースは今後あらゆる産業分野に進出し、その市場規模は数年で1兆ドルに達するとみこんでいます。

メタバース内ではすでに土地バブルが起きていて、土地取引の平均価格は2021年6月の6,000ドルから半年後の12月には2倍の12,000ドルに上昇しているといいます。

JPモルガンはオニキス・ラウンジで、メタバース金融事業の練習をしているのでしょう。メタバースの世界でビジネスが広がれば、銀行が必要になるのは当然のことです。

※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1700U0X10C22A2000000/
※3:https://coincheck.com/ja/article/491#i1-3

なぜ奈良県と沖縄県の地銀などがメタバース投資をするのか

ANAの子会社ANA NEOはバーチャル空間での旅を提供するメタバース企業です。コロナ禍でリアルの旅行需要が激減したことからバーチャル旅行を検討することになり、会社までつくったのです(※4)。

ANA NEOは時空を超える旅客機「スカイ・ホエール(空飛ぶクジラ)」を想定し、このなかにスカイ・パーク(空飛ぶ公園)、スカイ・モール(空飛ぶ商業施設)、スカイ・ビレッジ(空飛ぶ村)というサービスを展開します。

このままでは単なるバーチャル旅行や単なるネット通販にすぎませんが、エンターテインメント性を高めてメタバースと呼ばれるにふさわしいものに仕上げていきます。

奈良県に拠点がある南都銀行と沖縄県の琉球銀行、そして信用金庫などが、このANA NEOに総額45億円の融資・投資を行いました(※5)。

ANA NEOはこのお金でスカイ・ホエールのシステムをつくっていきます。

地方の金融機関がANAのメタバースにお金を出すのは、スカイ・ホエール内でアバターに地元の観光地を訪れてもらったり、地域の名産品を買ってもらったりすることができるからです。

地域振興にメタバースが有効であるとの思惑が、ANAのメタバース事業支援につながった格好です。

※4:https://www.anahd.co.jp/group/pr/202105/20210520.html
※5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BF50U2A310C2000000/?unlock=1

まとめ~ビジネスチャンスがみえる位置に来た

リアルの世界はすでに減少し始めているのかもしれません。

人々がSNSや動画配信、ネット会議システム、ゲームに費やす時間は増え続けていますが、これらはデジタル世界の拡大と考えることができるからです。さらに、買い物や仕事もパソコンやスマホを使うことが多く、これもリアル世界を侵食しています。

メタバースについてよくわからないと感じている人でも、メタバース内でできることの説明を受けると「そういうことか」とすぐに納得できるのは、今の生活がメタバースの手前まできているからでしょう。

金融機関がそこにビジネスチャンスを見出すことも「そういうことか」と納得できます。