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危ないお金なのか?ビットコインが高騰したり暴落したりするメカニズム

ビットコインは、数ある暗号資産(仮想通貨)のなかで最も有名でデジタルなお金です。

ビットコインには貨幣は存在せず、コンピュータとインターネットのなかに存在するデータだけで金銭的な価値を取引しています。そしてブロックチェーンという、新しいコンピュータの仕組みを使っています。そのためビットコインは、多くの人が未来のお金になるだろうと考えています。

しかしこれまでのビットコインの歴史は、暴騰と暴落の歴史といっても過言ではありません。あまりに不安定なので、金融や経済の専門家のなかにも危険視する人がいます。なぜビットコインの価格は、こうも安定しないのでしょうか。

その理由を探ってみました。

ビットコインの値動きの歴史

ビットコインは2008年にその構想が世間に発表され、2010年に1万BTCでピザ2枚(計25ドル)の価値を持たせたいと提唱されました(*1)。BTCはビットコインの単位で「ビットコイン」と読みます。

2010年当時のピザの価格とドル円相場からすると、「1万BTC=ピザ2枚=25ドル」となり「1BTC=3.64円」となります。
これがビットコインの初値と考えてよいでしょう。

*1:https://bitcoin.dmm.com/column/0150

1万円が10年超で176億円に

ビットコイン誕生から10年以上が経過した2021年、1BTCは一時約640万円まで値上がりしました。3.64円から実に176万倍にもなりました。

2010年にビットコインに1万円を投資していたら(1万円分のビットコインを購入していたら)、2021年には17,600,000,000円の価値になっていた計算になります。

1年で5分の1になることも

ここまでは夢のある話を紹介しましたが、ここからは厳しい現実を紹介します。

ビットコインは2017年に、アメリカの先物取引所CMEで取引されるようになりました。公的機関が正式に、ビットコインには金銭的な価値があり投資対象になり得ることを認めたわけです。

この影響を受けて1BTCは240万円まで高騰しましたが、翌年の2018年には1BTC=約50万円にまで暴落しました(*2)。価値が約5分の1にまで減りました。もし1,000万円分のビットコインを持っていたら、その価値は200万円にまで減ったことになります。

*2:https://bitcoin.dmm.com/column/0150

なぜ下落するのか?

ビットコインが乱高下を繰り返すのは、ビットコインには価値の裏づけがないからです。

価値の裏づけがないものが高騰すると、暴落するリスクが急に膨らみます。なぜなら、価値の裏づけがないものの高騰は、人々の「買いたい」という思いの強さだけが支えになっているからです。人々が急に「要らない」と思い始めれば、簡単に価値を喪失してしまいます。

日本円や日本の土地などが資産として広く認知され、なおかつ乱高下しないのは、いずれも政府などの公的機関が価値の裏づけをしているからです。

ビットコインには、どの国の政府もどの国の中央銀行も関与してなく、この状態を「価値の裏づけがない」と呼びます。

6万ドルがどれだけすごいことか

2021年の1BTC=6万ドル(約660万円)の価格が意味するものは、時価総額2兆ドル(220兆円)です(*3)。時価総額は、企業の金銭的な価値を計測するときに使われる概念で、次の計算式で算出されます。

●時価総額(円)=1株の株価(円/株)×発行済株式数(株)

時価総額分の日本円を支払えば、その企業を買えます。

例えば、ある企業の株価が1株8,366円で、発行済株式数が約33億株だった場合、この企業の時価総額は約27兆円になります。これは2021年4月のトヨタ自動車の時価総額です。

ビットコインは株式ではないのですが、時価総額は「1BTC価格×ビットコインの発行数」で算出されます。つまり時価総額2兆ドルのビットコインは、トヨタ8社分(=220兆円÷27兆円=約8.15)の価値に相当することになります。

価値の裏づけがないのに、ビットコインがこの規模の価値を持つことは、よい意味でも悪い意味でも異常といえます。

*3:https://jp.reuters.com/article/crypto-currency-marketcap-idJPKBN2BS1YY

マスク・ショックとは?

2021年のビットコイン高騰は、マスク・ショックやマスク相場と呼ばれました。

イーロン・マスク氏がCEOを務めるアメリカの電気自動車メーカー・テスラが2021年2月に、15億ドル(約1,580億円)分のビットコインを購入していたことがわかりました(*4)。

このニュースが伝わると、ビットコインの価格は16%も上昇しました。世界的に著名な経営者は、ビットコインをどのようにみているのでしょうか。

*4:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2102/09/news055.html

「換金しない」「電気自動車をビットコインで売る」

マスク氏はビットコインを大量に購入したあとに、次の2つのことをツイッターで公表しました(*5)。

●購入したビットコインは法定通貨に換金しない
●テスラの電気自動車をビットコインで買えるようにする

法定通貨とはドルや円などの政府が認定している通貨のことです。法定通貨に換金しないという宣言は、投機目的でビットコインを購入したのではないと言っているようなものです。

さらにいえば、法定通貨に交換しないということは、ビットコインの価値をビットコインとして認めることでもあります。一般投資家はビットコインの価値をドルや円で測ろうとしますが、マスク氏はそうしないわけです。

マスク氏の考え方は、ビットコインでテスラの電気自動車を買えるようにしたことにもつながります。

*5:https://forbesjapan.com/articles/detail/40559

現金より少しまし、という理解

テスラは電気自動車をつくるとき、原材料や資材をドルで買っています。したがって、テスラがいくらビットコインを貯めても、常にそのビットコインの一部をドルに換えて支払わなければなりません。

もしビットコインの価値が半減すれば、テスラはドルの調達に困るはずです。もしビットコインの価値が倍増すれば、テスラはドルをたくさん調達できるようになります。

マスク氏は前者の状況にはならず、後者になるだろうと読んだことになります。世界が注目する著明な経営者がビットコインの価値をこれだけ高く評価したことが、マスク・ショックの本質といえるでしょう。

マスク氏はマスコミの取材で「ビットコインは法定通貨とほぼ同じくらい無価値」と述べました。「ほぼ」というのはビットコインのほうが「少しまし」という意味のようです(*6)。

*6:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-19/QORAANT0AFB401

すべてを失うリスクとは

マスク氏の、ビットコインは現金(法定通貨)よりは少しマシという考え方は、投資家は肝に銘じておいたほうがよいかもしれません。ビットコイン投資に過信は禁物、という教訓を得ることができるからです。

そして、マスク氏よりもビットコインを危険視しているのが、イギリスの金融当局です(*7)。

イギリスの金融行動監督機構(英FCA)は2021年1月に「ビットコインなどの暗号資産に投資している人は、すべてを失う覚悟をしておくべきだ」と警鐘を鳴らしました。「極めて高いリスクを伴う」とも述べています。

英FCAがビットコイン投機に危機感を募らせるのは、投資の原則が通用しない可能性があるからです。投資の原則とは、換金性の高さです。

例えば土地は、経済状況が平時のときに買って、平時のときに売れば、それほど大きな得も損もしないで済むでしょう。それは土地の換金性が高いからです。株式投資も、経営が安定している会社の株式を買えば、似た価格で売却することができます。

しかし価値が半減することもあるビットコインは、換金性が高いとはいえません。

ビットコイン投資家は(ビットコインの所有者は)、高騰すれば幸せですが、下落すると悲惨です。これはすべての投資についていえることですが、ビットコインの場合その浮き沈みが大きすぎると、英FCAはみているようです。

*7:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/01/post-95378.php

まとめ~本当の価値とは何なのか

投資目的で、暴騰するリスクを抱えながら高いリターンを期待する人には、ビットコインはよい投資対象に映るでしょう。また、未来のお金はデータになると予測している人には、ビットコインは未来を先取りした金融サービスに映るでしょう。

ただビットコインは金と同じで、稼ぎを生むものではないと指摘する経済専門家もいます(*8)。

このように、ビットコインの価値は、金銭的な価値だけでなく、概念としての価値も定まっていません。ビットコインとの難しい付き合いは、まだしばらく続くかもしれません。

*8:https://forbesjapan.com/articles/detail/39338/2/1/1