決済関連

スマホ決済ペイペイが勢力拡大。その背景にある野望とは?

ペイペイのユーザー数が2022年度に5,000万人に達する見込みです(※1)。

ペイペイは、ヤフーなどを運営するZホールディングスが展開するスマホ決済(QRコード)です。

スマホ決済などのキャッシュレス決済サービスは種類が多く、各社がしのぎを削ってきましたが5,000万人の金字塔はなかなか破られないのではないでしょうか。もしかしたらペイペイは今、独走状態に入ろうとしているのかもしれません。

ペイペイの強さの秘密と、Zホールディングスの戦略を探ると、大きな野望がみえてきました。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB161OM0W2A510C2000000/?unlock=1

1位のペイペイのシェアは45%、2位以下を大きく引き離す

MMD研究所は2022年1月に、スマホ決済(QRコード)利用動向調査の結果を発表しました(※2)。

最も使っているスマホ決済を尋ねたところ次のような結果になりました。

■「最も使っているスマホ決済」ランキング

1位、ペイペイ(45.4%)
2位、d払い(16.7%)
3位、楽天ペイ(16.7%)
4位、auPAY(13.5%)
5位、メルペイ(3.0%)

ペイペイはスマホ決済市場の半分近いシェアを獲得しています。さらに興味深いのは、2位のd払いが16.7%でしかないことです。16.7%は45.4%の約3分の1なので、ペイペイの強さと2位以下の弱さが際立っています。

このランキングからはこれ以外にも重大なことが読み取ることができます。

※2:https://mmdlabo.jp/

携帯キャリアがスマホ決済業界を牛耳っている

「最も使っているスマホ決済」ランキングの上位5位のうち、携帯キャリア会社(携帯電話・スマホ事業を行っている通信会社)ではない企業が運営しているのはメルペイだけです。

スマホ決済業界は今、携帯キャリアが牛耳っている状態です。

スマホ決済なのでスマホ事業を展開している携帯キャリア会社が強いのは当然――というわけではありません。スマホはあくまでアプリケーションを入れる器でしかないので、非携帯キャリア会社が優れたスマホ決済システムを開発すれば、上位を狙うことは十分可能です。

それでも携帯キャリア会社がスマホ決済で強さを発揮できているのは、それだけこの事業に力を入れているからでしょう。

ドコモとauが弱いのはなぜか

「最も使っているスマホ決済」ランキングからは、NTTドコモとauの弱さもわかります。d払いはNTTドコモが、auPAYはauが運営しています。

ここで携帯電話・スマホ事業の概要を確認しておきます。

以下の表は、2021年現在の携帯電話・スマホのシェアです(※3)。

■携帯電話・スマホのシェア(2021年)

単体 陣営 
NTTドコモ30.9%NTTドコモ陣営35.2%
ahamo4.3%
au19.9%au陣営26.2%
povo1.8%
UQmobile4.5%
ソフトバンク12.5%ソフトバンク陣営21.5%
LINEMO0.7%
Y!mobile8.3%
楽天7.8%楽天陣営7.8%
その他9.3% 
 100%

携帯電話・スマホのシェアでは、単体ではNTTドコモの30.9%が圧倒的な強さをみせています。ahamoを含めたNTTドコモ陣営も35.2%で、陣営2位のau陣営の26.2%を突き放しています。

そしてソフトバンク単体では12.5%しかありません。LINEMOとY!mobileを含めたソフトバンク陣営でも21.5%にすぎません。

ペイペイはZホールディングスが運営しているのでソフトバンク陣営になります。つまり「携帯電話・スマホ業界」と「スマホ決済業界」では逆転現象が起きているわけです。

現状をまとめるとこのようになります。

■「携帯電話・スマホ業界」と「スマホ決済業界」の逆転現象(その1)

  • 携帯電話・スマホ業界では1位のNTTドコモが相当強く、次に強いのがau
  • フトバンク陣営は携帯電話・スマホ業界では3位に甘んじている
  • しかしスマホ決済業界では、ソフトバンク陣営のペイペイが独走状態に入ろうとしている

※3:https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2112/10/news094.html

楽天陣営もスマホ決済ではau陣営を逆転している

さらに細かいところみると「最も使っているスマホ決済」ランキングでは楽天ペイが3位(16.7%)でauPAYが4位(13.5%)でしたが、携帯電話・スマホ業界シェアでは楽天7.8%、au陣営26.2%と逆転現象が起きています。

ここから次の傾向を読み取ることができます。

■「携帯電話・スマホ業界」と「スマホ決済業界」の逆転現象(その2)

  • 純粋な携帯キャリア会社に近いNTTドコモとauは、本業の携帯電話・スマホ事業では健闘しているが、スマホ決済事業では苦戦している
  • インターネット・ビジネスを手広く展開しているソフトバンクと楽天は、携帯電話・スマホ事業では後発組だが、スマホ決済事業では健闘している

金融サービスの名称をペイペイに統一

さて、話をペイペイを運営するZホールディングス(ソフトバンク陣営)に戻します。

ペイペイがスマホ決済業界で頭角を現したのは、特典を乱発してユーザーを獲得して、広告を大量に出して認知度を高めたからです。その投資額は巨額となり、ペイペイの2019~2021年の3カ年の最終赤字の累積額は1,931億円に達します(※4)。

Zホールディングスが赤字を垂れ流してでもスマホ決済のシェアを取りにいったのは、金融事業を強化するためといわれています(※1)。

Zホールディングスはクレジットカードの名称もペイペイカードに変え、さらに傘下の銀行もジャパンネット銀行からペイペイ銀行に変えています(※5)。

つまりこれまでは「ペイペイ」はスマホ決済のブランド名でしたが、これからはZホールディングスの金融事業全体のブランド名になっていると考えることができます。

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC087H80Y1A900C2000000/?unlock=1

※5:https://www.paypay-bank.co.jp/namechange/index.html#:~:text=2020%E5%B9%B49%E6%9C%8815,%E3%81%AE%E5%95%86%E5%8F%B7%E5%A4%89%E6%9B%B4%E3%82%92%E6%B1%BA%E5%AE%9A

アマゾンを巻き込む「無鉄砲」ぶり?

Zホールディングスの猛進は、ネット通販(EC)の巨象であるアマゾンも巻き込んでいます。

スマホ決済のペイペイは2022年5月から、アマゾンで購入したときにペイペイで決済すると、ペイペイのポイントとアマゾンのポイントが同時に獲得できるようにしました(※1)。

Zホールディングス自身、ヤフーショッピングやペイペイモールというネット通販を展開していてアマゾンとは商品が競合することもあります。アマゾンとペイペイのポイントがダブルで貯まるなら、ペイペイユーザーはヤフーショッピングではなくアマゾンで買おうとするでしょう。

つまりZホールディングスは、身内のネット通販に多少損害が及んでもスマホ決済の利便性を高めようとしているわけです。

まとめ~大きな野望に向けて着々と進む

Zホールディングスがなりふり構わず(とみえるくらい力強く)スマホ決済事業や金融事業を強化するのは壮大な野望があるからです。

  • 世界に類をみない多様なアセットを活用し、日本・アジア発のメガプラットフォーマーへ

これはZホールディングスの成長戦略のキャッチコピーです(※6)。

Zホールディングスを含むソフトバンク陣営にはポータルサイト(ヤフージャパン)、SNS(LINE)、金融(銀行やスマホ決済)、ECサイト(ヤフーショッピング)、通信(インターネット、携帯電話)などさまざまな資源があります。

ソフトバンク陣営はこれらの事業を拡大させて、GAFAMやBATHに対抗する第三局のメガプラットフォーマーになろうとしています(※6)。

GAFAMとはアメリカのグーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アマゾン、マイクロソフトのことで、BATHとは中国のバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイのことです。

この野望がどれだけ「どでかい」ものかわかると思います。

ペイペイ戦略とペイペイの強さは、大きな野望の1コマにすぎないのかもしれません。

※6:https://www.z-holdings.co.jp/integrated-report/vision/growth/