「スマホ決済も止まった」KDDIの最悪級の通信障害でわかったこと

auを展開するKDDIの音声通話とインターネット通信(以下、通話・通信)が2022年7月2日、大規模障害を起こしました。復旧まで86時間かかりました。

電話またはインターネットができなくなった回線は3,915万回線で、国内の通話・通信事故としては過去最大か、少なく見積もっても過去最大級です(※1、2)。

自然災害で起きたのではなく、KDDI側の操作ミスと準備不足が原因でした。KDDIの過失は大きく大問題です(※3)。

さらに深刻な問題も発覚しました。

それは通信が途絶えるといろいろなサービスや営みが止まることがわかったことです。

auのスマホで電話ができなくなることは「仕方ない」と思ったユーザーも、スマホを使った支払いができなくなったことは想定外だったのではないでしょうか。

現代の通信障害は買い物をも不可能にします。

今回のKDDI事故は「インターネット頼みの社会」のもろさを露呈されました。

※1:https://www.chunichi.co.jp/article/500779
※2:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/13250/
※3:https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001145.html

事の経緯「たった1つの普通の工事が始まりだった」

今回のKDDI通話・通信障害を端的に説明すると、日常業務にすぎない1つの普通の工事のミスがドミノ倒しのように広がって過去最大級の事故に発展した、となります。

事の経緯を紹介します。

メンテナンスで部品を交換しただけ

事の発端になった「1つの普通の工事」とは、ルーターという部品の交換でした。これはメンテナンスの一環であり珍しい作業ではありません。

ところが何らかの不具合が起き、一部の音声通話が不通になりました。ただこれも珍しいことではなく、アラームが鳴ったので担当者が復旧作業に取りかかりました。

ここから事が大きくなっていきます。

輻輳が起きて通信制限、データ処理が追いつかず大規模障害へ

音声通話が止まったのはわずか15分。しかしこの間、携帯ユーザーのデータベースに対し、ある信号が送られました。

ところが信号とデータベース内のデータが一致しないため、自動でもう一度データベースに信号を送る動作が発生しました。これが複数の回線で無限に繰り返され、データベースに過剰な信号が送られる状態になったのです。

この現象を「輻輳(ふくそう、寄り集まること)」といい、回線がパンクする前触れと考えられています。

回線をパンクさせるわけにはいかないので、KDDIは通信量を強制的に半減させるという処置を取りました。

KDDIはその間、データ処理を行って正常運転に戻そうとしましたが、そのデータ処理が追いつかず今回の大規模通話・通信事故へと発展してしまったのです(※4、5)。

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK05E2K0V00C22A7000000/?unlock=1
※5:https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220704a.html

2021年のドコモ障害でも1,000万台だった「業界で予防策に取り組むべき」

KDDIの高橋誠社長は今回の大規模障害について「我々の会社の歴史上一番大きな障害ととらえている」と認めていますが、KDDI史上最大どころか日本史上最大の疑いがあります(※6)。

2021年10月にあれだけ世間を騒がせたNTTドコモの通話・通話障害でも影響が出たのは1,000万人でした(※7)。今回のKDDI通話・通信事故の影響が3,915万回線だったので、ドコモ事故はこの4分の1にすぎなかったのです。

2018年にはソフトバンクも通話・通話障害を起こしていて、このときの影響も3,060万回線でした。

※6:https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/86829?display=1
※7:https://www.chunichi.co.jp/article/500779

通信業界全体で対策を

日本経済新聞は、KDDIは再発防止に万全を期す一方で、他の通信事業者と協力して通信業界全体で予防策を打つ出すべきであると主張しています(※8)。

今回のKDDI事故の特徴は、大きな変革時期に起きたわけではない、ということです。

2010年前後も重大な通信事故が多発しましたが、このころはガラケーからスマホに変える人が急増し通信されるデータ量が飛躍的に増えました。押し寄せる洪水に防波堤が耐えきれなかった状態です。

しかし今回のKDDI事故は、洪水が押し寄せたわけではなく、1件の工事が発端でした。つまり、5Gが急激に普及してデータ量が飛躍的に増えて故障したわけではないのです。

だから通信業界全体の問題として対策に乗り出す必要があるわけです。

※8:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK044YI0U2A700C2000000/

何ができなくなったのか

今回のKDDI事故は、現代の日本に通話・通信障害が起きると何が起きて、何ができなくなるのかを教えました。

「電話ができない」「インターネットにつながらない」以外に起きたことは以下のとおりです(※9、10、11、12、13、14)。

■今回のKDDI事故で起きたこと、できなくなったこと

  • JR貨物は荷物の行き先をリアルタイムで把握するシステムを使っていた。KDDIの通信を使っていたこのシステムが使えなくなり列車の遅延が発生し、休みの社員を呼び出して対応した
  • JR貨物の遅れで日本郵便の配達が遅れた
  • トヨタの「つながる車」のサービスがストップした
  • ヤマト運輸は配送車の運転手との音声通話ができなくなった
  • 保健所が自宅療養中の新型コロナ感染症の患者さんとの連絡が取れなくなり、職員が自宅訪問をした
  • 医療機関で医師との連絡に支障が出た
  • 窓口を閉鎖した行政機関もあった
  • 水道の検針システムが使えなくなった
  • 山のなかで遭難した登山者が警察や消防と通話できなかった(ただデータ通信は使えたのでLINEで通話して警察などに連絡できて救助された)
  • 気象庁はアメダスの観測データを配信できなくなった
  • テークアウト飲食店は注文が半減した
  • 銀行のATMが使えなくなった
  • 空港のスタッフ間の無線連絡ができなくなった

※9:https://www.chunichi.co.jp/article/500779
※10:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL0488D0U2A700C2000000/
※11:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/701774
※12:https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20220704/7000048184.html
※13:https://www.htb.co.jp/news/archives_16554.html
※14:https://japan.zdnet.com/article/35189873/

国も怒り心頭

国もKDDIに対して強い不満を持っています。

総務大臣が事故発生翌日の7月3日に緊急記者会見を開き、KDDIに対して「速やかに早期の完全復旧に向けて全力で取り組むとともに、利用者に対しては、きめ細かい情報の周知広報を丁寧に行うなどの要請をした」と表明しました(※15)。

総務大臣はさらに、「事態の改善がみられなかったため、総理からの指示を受け、昨晩から、当省の幹部をKDDIとの連絡要員として、同社の新宿KDDIビルに派遣し、対応に当たらせました」「国民の生命・財産を守るための、消防・救急などの緊急通報に支障を生じさせたことは、総務省として、事態を深刻に受け止めております」とも述べています。

総理大臣を引き合いに出したり、国民の命に関わる事態であると指摘したりして、KDDIに猛省を促しています。

※15:https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001145.html

まとめ~もっと恐ろしい想定ができる

今回のKDDI通話・通信障害は「まだまし」と考えることができます。なぜなら日本ではまだそれほど5Gが普及していなかったからです。これは不幸中の幸いといえます。

5Gが普及すれば、もっと便利なインターネット・サービスが生まれるはずなので、通話・通信障害でもっと恐ろしい不具合や事故が起きると想定されます。

例えば、自動運転車が普及したときに今回のような大規模通信障害が起きたら、そこらじゅうの道路に走行できない車が停車しているかもしれません。VR(仮想現実)を使った遠隔医療が行われていたら、治療がストップして患者さんの命を危険にさらします。

より便利になるということは、より不便になる可能性を膨らませることなのかもしれません。

そうならない通信体制が望まれます。