決済関連

「キャッシュレスは不便」って声あるけど…実際はどうなのか?

キャッシュレス決済は、便利です。クレジットカードなら、多額の買い物もあの薄いカード1枚で済みますし、スマホ決済を使えば財布を持たずに外出できます。

国内の全決済に占めるキャッシュレス決済の割合は2010年の13.2%から2021年の32.5%へと2.5倍になっています(※1)。便利だから急増したのでしょう。

しかし、キャッシュレスは不便ということもできそうです。

なぜならキャッシュレスのツールがこれだけ普及しているにも関わらずキャッシュレス決済比率が32.5%(2021年)ということは、7割近くの人がいまだに現金を愛用していることを意味します。

なぜ、便利なものに対して不便と感じる人がいるのでしょうか。

この記事ではあえて、キャッシュレスのネガティブな部分にフォーカスします。

その点を改善できれば、キャッシュレスはもっと広がるかもしれません。

※1:https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220601002/20220601002.html

地方では出張ATMが新規に誕生するほど現金需要が高い

キャッシュレスの不便さと現金の便利さの両方を象徴しているのはATMの新設です。

――このように説明すると「ATMは減っているはずだ」と思う人もいるでしょう。例えば三菱UFJ銀行は2018年に、2023年度末までにATMを2割減らすと発表しています(※2)。ATMの運営には多額のコストがかかる一方で、キャッシュレスが普及したので減らしても不便さはそれほど減らない、と判断したようです。

令和の今でもATMを新設するのは、北海道苫小牧市の苫小牧信用金庫と、スーパーマーケットのコープさっぽろです(※3)。両者は普通にATMを増設するのではなく、移動販売車にATMを搭載するという、よりコストをかけた方法を採用しました。

移動販売車は、コープさっぽろのスーパーで売っている生鮮品や日用品を載せ北海道の地方を巡回します。

それに搭載したATMは預金の預け入れと引き出しができるだけでなく、通帳の記帳と繰り越しができる「アップグレード」版。

苫小牧信金は、この移動ATM事業に参画した理由として、支店を廃止した結果、顧客に不便をかけたことを挙げています。支店が減ればそこに併設されていたATMもなくなります。

ATMの減少による不便さを、キャッシュレスの普及による便利さで補えればよかったのですが、地方ではそうなりませんでした。

苫小牧信金は「買い物支援と金融サービスへのアクセス支援を同時に行える」と、移動ATM事業の意義を説明しています。ここでいう金融サービスへのアクセス支援とは、現金利用支援であり、つまりその裏にキャッシュレスはそれほど便利ではないという事実がありそうです。

※2:https://www.nikkei.com/
※3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC141UQ0U2A011C2000000/

キャッシュレス導入に消極的な事業者は案外「頑固」

経済産業省が2021年に行った、中小事業者を対象にしたキャッシュレス決済実態調査アンケートは「衝撃的」といえる結果となりました(※4)。

回答したのは全国の中小事業者1,189社です。

※4:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618002/20210618002-1.pdf

導入しても利用されない?

アンケートの結果、キャッシュレス決済を導入している事業者の割合(導入率)は約7割でした。

これは、冒頭で紹介したキャッシュレス決済比率約3割と、かなり乖離しています。キャッシュレス決済比率約3割は実際の利用の割合であり、アンケート結果のキャッシュレス決済導入率約7割は導入した店などの割合です。

つまり、多くの店がキャッシュレスの準備を進めているが、利用がなかなか広がらない現象がみられるわけです。

しかしこれが「衝撃的」だったわけではありません。

不便さとデメリットが際立つ

「衝撃的」だったのは、キャッシュレスを導入していない事業者の理由です。

■キャッシュレスを導入していない事業者の理由

1位:客からの要望がない
2位:手数料が高い
3位:導入のメリットが不明
4位:端末導入など初期費用が高い
5位:入金サイクルが遅い
6位:仕組みが難しい
7位:店でのオペレーション(作業)が増える

客からの要望がない、が1位でした。このことから、「キャッシュレスは便利だが、キャッシュレスが使えるかどうかで店を選んでいない」と考えている消費者が少なからず存在することがわかります。

そして2位(手数料が高い)、4位(初期費用が高い)、5位(入金サイクルが遅い)は、キャッシュレスの経済的なデメリットの大きさ示しています。

これは1位(客の要望なし)と関連しているのでしょう。多額のコストを負担してキャッシュレスを導入しても客からそれほど歓迎されないのであれば、コストが高く感じます。

そして6位(仕組みが難しい)、7位(オペレーションが増える)も致命的な欠点といえるのではないでしょうか。なぜならキャッシュレスは便利なもののはずだからです。

キャッシュレスを普及させようとしている国などは、キャッシュレス化をビジネスのデジタル化ととらえ、データを活用した経営やマーケティングが可能になるとしています。

しかし、それほど高度なデータ経営やデータ・マーケティングを必要としない事業者はたくさんあり、そのような事業者にとってはキャッシュレスのメリットは減ります(※5)。

キャッシュレスの便利さが減ると、事業者には手数料の高さ(2位)が際立つはずです。

キャッシュレスを導入していない事業者は、案外頑固にキャッシュレスを拒んでいるのかもしれません。

※5:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/cashless_sub/cashless_data_utilization_report.pdf

客単価が高い事業者がキャッシュレスを敬遠するという事実

このアンケートでは、客単価が1,000~10,000円未満の事業者でキャッシュレス導入比率が高い一方で、客単価が低い事業者と客単価が高い事業者で導入比率が低くなるという傾向が現れました。

■客単価別のキャッシュレス導入比率

  • 1,000円未満:70.8%
  • 1,000円以上、10,000円未満:80%台
  • 10,000円以上、50,000円未満:72.3%
  • 50,000円以上、100,000円未満:59.2%
  • 100,000円以上:19.7%

客単価5,000円未満の事業者に導入しない理由を尋ねたところ、1位は手数料が高い、でした。客単価が低いと薄利多売を強いられコストの重さが増すので、キャッシュレス手数料が重くのしかかります。

一方、客単価50,000円以上の事業者に導入しない理由を尋ねたところ、1位は客からの要望がない、でした。

キャッシュレスを利用すると多くの場合ポイントがつくので、高額買い物客ほどキャッシュレスを好みそうですが、アンケート結果は逆の現象を示していました。

キャッシュレスの決済スピードは現金より遅い

先ほどの事業者アンケートで、キャッシュレス未導入の理由に「店でのオペレーション(作業)が増えて困る」(7位)がありました。

この点について電通がさらに深掘りした調査を行っています(※6)。

ここでも「衝撃的」な事実がありました。キャッシュレスは遅いというのです。

※6:https://www.asahi.com/ads/start/articles/00400/

利用ストレスが遅くさせている

電通が事業者に、キャッシュレス決済が増えることへのストレスを尋ねたところ「決済が完了するスピードが現金より遅い」が26.6%で1位でした。

もちろん「本当は」そうではありません。「客から現金を受け取って、レジを開いて釣銭を計算して客に渡して、現金をレジにしまう」作業のほうが、「スマホでピッ」より遅いに決まっています。

しかし「実際は」キャッシュレスのほうが遅いのです。

なぜなら、キャッシュレスという新しい決済方法が追加されたことでレジ業務が煩雑になり、使い方がわからない客に説明する必要があり、キャッシュレス用の端末が増えてレジ周りが狭くなって作業効率が落ちるからです。

これは飛行機と電車の関係に似ています。移動距離が短くても飛行機のほうが目的地に速く到着しますが、飛行機の場合、機体に乗り込むまでに時間がかかります。一方、電車は乗るための準備がほとんど要りませんし、大抵の場合、電車の駅のほうが空港より自宅に近い場所にあります。

近距離移動では「本当は」速い飛行機のほうが「実際は」遅くなってしまうのです。キャッシュレスは飛行機といえるでしょう。

キャッシュレスは「本当は」速いのですが、諸々の準備や環境などが悪影響を及ぼし「実際は」遅くなってしまうようです。

これは不便です。

まとめ~宝を腐らせないように

キャッシュレスを多用している人や事業者は、これがもたらすメリットが、デメリットをはるかに上回ると感じていると思います。

それは間違いのない事実のようで、それで国も強力にキャッシュレスをバックアップしているわけです。

この記事ではあえてキャッシュレスの不便さを集めてみました。そうすることで便利なはずのキャッシュレスがなかなか急拡大しない理由がみえてきました。

キャッシュレスは、これを使いこなさないと「宝の持ち腐れ」になる可能性がありますが、それを克服できれば便利さだけが残るのではないでしょうか。