決済関連

ZHD(ヤフー)とLINEの統合、両社のスマホ決済はどうなるのか?

Zホールディングス(以下、ZHD)とLINEの経営統合は、IT業界のみならず社会全体に大きな衝撃を与えました(※1)。

それもそのはずで、ZHDは国内最大級のポータルサイト・ヤフーを運営し、Eコマース、ネットオークション、ファッション、観光、飲食、ニュース配信、金融などの、日本人が必要とする多くのサービスを提供しています。ZHDはさらに、携帯会社のソフトバンクとも深い関係にあります。

一方のLINEは、国内最大級の無料通話アプリLINEを運営しています。

この2つのIT巨人の統合は多くの意味を持ちますが、この記事では両社のスマホ決済機能に着目してみます。ZHDのペイペイとLINEのLINEペイはどのようになり、それは利用者のメリットを増やすものになるのでしょうか。

(※1)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/09767/

ZHDとLINEの合体が持つ意味

ZHDとLINEの合体は、スマホ決済に大きな影響を与えるでしょう。日本のスマホ決済はまだ普及し始めたばかりで、これからサービスの質が向上することでさらに利用者を増やすはずです。ZHDとLINEは、スマホ決済の拡大に貢献するばかりか、日本のスマホ決済の覇者になる可能性すら秘めています。

なぜそのようなことが推測できるのかというと、ZHDとLINEの合体がとても大きな意味を持っているからです。スマホ決済の行く末をみる前に、ZHDとLINEの合体がどれほど大きな出来事であるかを確認しておきます。

3億、2兆、4割とすごい数字が並ぶ

ZHDとLINEの合体の衝撃の大きさは、3億、2兆、4割という大きな数字で説明できます(※2)。

ZHDのアカウント数とLINEのアカウント数を足すと3億になります。アカウントは、利用者がネットサービスの利用を始めるときに取得するものなので、アカウント数3億は「ZHDとLINEの利用者数は3億人」と読み替えることができます。

日本の人口が1.2億人で、そのなかには赤ちゃんもお年寄りも含まれているので、利用者数3億人が破格の数字であることがわかります。日本のデジタルユーザーは、1人で二重三重とZHD・LINEを利用しているわけです。

ZHDとLINEの売上高の総計は、2020年度は1兆4,000億円で、両社の経営者はこれを2023年度に2兆円にすると宣言しています。もし実現したら4割超の増加率となります。

ビジネスパーソンなら、3年で売上高4割増を達成することがどれだけ難しいことか理解できると思います。

(※2)https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00128/030100019/

なぜ「1+1=2.4」にできるのか

ZHDとLINEはなぜ、売上高を3年で4割増やすことができると考えたのでしょうか。なぜ「1+1」を「2.4」にすることができるのでしょうか。彼らの勝算は次の2点です(※2)。

  • 2社が統合すれば広告、販売促進、フィンテックの事業を拡大できる
  • 販売促進の領域だけでも15兆円の市場規模があり、デジタル化でシェアを拡大できる

ZHDもLINEも、物をつくって売る会社ではありません。両社が売っているものはサービスで、しかもその多くは無料です。ヤフーニュースの閲覧もLINEでのチャットも無料です。それでも両社が大きな利益を得ているのは、広告収入を得ているからです。
ZHDとLINEは、経営統合によってさらに多くの広告を獲得できると見込んでいるわけです。

もう1つのポイントはデジタル化です。ZHDとLINEは、どちらもデジタルを使ってサービスを提供しています。両社にとって「デジタルは経営資源」です。

ところが両社は、デジタルを使ってサービスを構築しているうちに、デジタル・スキルが向上し、新しいデジタル技術を生み出すことができる会社になりました。そして、デジタルを売ることができるようになりました。

現在の両社にとって「デジタルは商品」でもあります。

販売促進の領域をデジタル化するということは、新しいデジタル販売促進サービスを販売していくことにほかなりません。

そして新しいデジタル販売促進サービスの1つが、スマホ決済であるといえます。スマホ決済は、支払い方法をデジタル化する取り組みであると同時に、これによって支払いが格段に楽になって利用者が増えるので、販売促進サービス・ツールと考えることができます。

どうなる2つのスマホ決済、利用者への影響は

ZHDはペイペイというスマホ決済ツールを持ち、LINEはLINEペイというスマホ決済ツールを持ちます。

両社はこれを、2022年4月をめどにペイペイに統合します(※3)。ペイペイが残り、LINEペイが消えることになります。
これはどのような意味を持つのでしょうか。

(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ016LS0R00C21A3000000/

ペイペイはさらに強い1位になる

流通ニュースによると、2021年1月現在のスマホ決済のシェアは次のとおりです(※4)。

1位:ペイペイ、43.1%
2位:d払い、18.2%
3位:楽天ペイ、15.4%
4位:auペイ、12.1%
5位:LINEペイ、4.6%
6位:メルペイ、3.6%
7位:Famiペイ、1.5%
8位:QUOカードペイ、0.9%
9位:ゆうちょペイ、0.4%
10位:その他、0.3%

1位のペイペイと5位のLINEペイが合体するとシェアは47.7%となり、利用者の約半数が新ペイペイを使うようになると見込まれます。

1つのデジタルサービスの領域で、1つのブランドが47.7%ものシェアを獲得するのは偉業といっても言い過ぎではありません。
例えば携帯・スマホでは、ドコモ37%、au28%、ソフトバンク22%となっています(※5)。

ZHDは、LINEペイと合体する新ペイペイを「拡大するキャッシュレス市場をけん引する」サービスにすると意気込んでいますが、それは大袈裟な表現ではなさそうです。

※4:https://www.ryutsuu.biz/promotion/n012017.html
※5:https://iphone-mania.jp/news-336907/
※6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ016LS0R00C21A3000000/

スマホ決済への期待高まる

政府は2022年から、所得税や贈与税などの税の支払いを、スマホ決済で行なえるようにします(※7)。すでに東京都などは、地方税をスマホ決済で納付できるようにしていて、それが拡大することになります。

さらに、会社員の給与がスマホ決済に振り込めるようになります(※8)。これまでは、給与として得たお金をスマホ決済で支払おうとしたら、給与が振り込まれる銀行口座からお金を引き出して、スマホ決済に入金する必要がありました。

しかし給与がスマホ決済に振り込まれるようになると、その手間が省けるので、利用者はさらにスマホ決済を利用するようになるでしょう。

スマホ決済のサービス向上は、消費者にとって歓迎できることです。

※7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF059NK0V00C21A2000000/
※8:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF266MB0W1A120C2000000/

新ペイペイに懸念されることとは?

1つのデジタルサービスが拡大し、質が向上し、利便性が高まることは、社会にとってよいことです。また、1つのデジタルサービスのなかで、抜きんでて強いサービスが1つ存在することもよいことといえるでしょう。

なぜなら、消費者は、どのサービスを使おうか迷ったら、とりあえず1位のサービスを選んでおけば外れないからです。ペイペイとLINEペイが合体した新ペイペイは、消費者に新たな価値を提供するでしょう。

しかし、新ペイペイにも懸念されることがあります。それは強くなりすぎることです。

公正取引委員会は注視する

1強状態は競争を弱め独占を招く可能性があります。そして独占は、1)利用料の上昇や2)サービスの停滞や3)イノベーション・チャンスの喪失といったリスクをはらみます。

ZHDとLINEの経営統合では、公正取引委員会が1強誕生への懸念を強めています(※9)。公正取引委員会は両社の経営統合を認めたものの、スマホ決済については「定期的な報告を求める」という条件をつけました。デジタル市場が寡占状態になることを警戒しているわけです。

※9:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62282110U0A800C2916M00/

まとめ~利便性と公正な競争のバランス

スマホ決済に慣れた人が、スマホ決済を使えない店に行くと、強く「不便だな」と思ってしまいます。この利便性の高さこそデジタル化の魅力です。

ただスマホ決済の手段が多すぎると、こちらのスマホ決済は使えるが、あちらのスマホ決済は使えない、ということが起きてしまいせっかくの利便性が低下してしまいます。ペイペイとLINEペイが統合するニュースは、ペイペイとLINEペイの両方を使っている人にとって朗報となったでしょう。もう2つを使いわける必要がなくなるからです。

そして、新ペイペイの利用が拡大すれば、これまでスマホ決済を使っていなかった人も「使ってみよう」と思うようになるかもしれません。

消費者の願いは、公正な競争が維持されながら利便性がさらに向上することです。