金融全般

恒大はリーマンになってしまう?新しくて古い中国不動産バブル問題

「中国の時限爆弾」「世界も共犯」

このおどろおどろしい言葉は、日本経済新聞の2021年10月3日付け記事の見出しに使われました(※1)。冷静沈着な日経にしては珍しく過激な言葉です。

この記事は、中国の不動産大手、中国恒大集団(以下、恒大)の債務不履行懸念問題を解説しています。

恒大問題は、この記事の少し前から第2のリーマンショックになるのではないかと噂され、同年9月21日の日経平均株価の終値は、前営業日より660円も安い29,839円となり、ようやく到達した3万円台を割り込んでしまいました(※2)。アメリカのダウ平均もこのせいで乱高下を繰り返しました。

恒大問題は新しいニュースとして注目されましたが、中国の不動産バブル問題は10年以上くすぶったままです。そこでこの記事では、恒大問題の本質を探りながら、中国の不動産市場が抱える闇を紹介します。また日本経済への影響もみていきます。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD277II0X20C21A9000000/
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00003_R20C21A9000000/

恒大問題の本質はどこにあるのか

恒大は中国最大規模の不動産開発会社です。

中国は共産主義国なので、土地はすべて国のものです。中国政府は、土地の使用権を地方政府経由で不動産開発会社に販売し、不動産開発会社はその使用権を使って不動産ビジネスを展開し、地方政府は使用権収入で行政を行います。

恒大の借金は2021年6月現在、有利子負債だけでも約5,718億元(約9.7兆円)に膨らみ、その借金体質は以前から知られていました。負債総額は33兆円にのぼるという報道もあります。

今回、恒大問題として世界を震撼させたのは、恒大が同年9月下旬に米ドル債の利払いを見送ったことから、債務履行に陥るのではないかという懸念が広がったためです。

恒大は中国不動産バブルの元凶とみなすことができるのですが、その一方で中国不動産バブルは窮地に陥った世界経済を何度も救っています。

世界経済は中国経済に頼っている部分が大きく、恒大問題が顕在化すれば中国経済が打撃を受け、それが世界経済に波及することは間違いありません。

中国の不動産バブルは弾けていない?

恒大問題では、中国の不動産バブルの行方がフォーカスされていますが、大和総研はまだ弾けていないとの見方を示しています(※3)。

大和総研がそのようにみる根拠は、マネーが不動産に流れているからです。中国政府が2021年9月に公表した統計によると、同年1~8月に不動産投資に流れたマネーは前年比約11%増で、住宅価格も上昇を続けているといいます。

では何が恒大問題の火種になっているのでしょうか。

※3:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6142e0f8e4b07ad8c8db3d46

電気自動車、ヘルスケア、映画制作も

中国の不動産バブルが当面弾けないのであれば、なぜ恒大が危機に陥ったのでしょうか。

無謀な経営が混乱を招いたのではないか、という指摘があります。恒大は電気自動車事業、ヘルスケア事業、果ては映画制作事業にまで手を伸ばしました。そして恒大の創業者である許家印(きょ・かいん)氏は、アメリカのフォーブス誌の中国版で、長者番付の1位になったこともあります(※3)。

事業の多角化には莫大なマネーが必要ですが、恒大はそれを銀行やノンバンクから借り、さらに海外で社債(米ドル債)を発行して調達しました。その借金が積もり積もって30兆円以上に達し返済が困難になった、というのが恒大問題の本質のようです。

つまり恒大問題は、不動産バブル問題ではなく、単なるバブル問題と考えてよさそうです。

なぜ消えぬ中国不動産バブル問題

恒大問題は単なるバブル問題である、と解説しましたが、しかし有事には違いありません。

それは、仮に放漫経営が原因だったとしても、中国最大級の不動産開発会社が破綻することになれば世界経済に大きな影響を及ぼすからです。さらに、中国の不動産バブル問題は、恒大だけが引き起こしているわけではないからです。リーマンショックが、リーマン・ブラザーズだけのせいではないのと同じです。

●「世界経済」と「中国経済と中国不動産バブル」の関係
●くすぶり続ける中国不動産バブル問題

この2点について深掘りしていきます。

世界経済は中国経済、ひいては中国不動産バブルに助けられてきた

日本人が「バブル」と聞くと、景気のよさに浮かれて土地と株を買いまくり、それが暴落して20年以上の景気低迷を招いた、世界的に恥ずべき経済運営の大失敗を連想するかもしれません。

しかし中国不動産バブルには、確かに日本のバブルの要素もゼロではありませんが、世界経済の救世主となった面のほうが重要です。

2008年にリーマンショックが起きて世界経済が危機的状況に陥ると、中国政府はすぐに4兆元(約6.8兆円)の景気刺激策を発動し経済を下支えしました。

無論中国は、自国のために景気刺激策を打ち出したわけですが、当時すでに世界経済の牽引役となっていた中国経済が落ち込まなかったことは、結果としてリーマンショックの暗闇のなかの唯一の光でした。

IMF(国際通貨基金)は2008年11月に、景気刺激策を打ち出した中国に対し「世界経済が金融危機を乗り切る助けになる」と謝意を示したほどです(※4、5)。

そして、このときの景気刺激策に使われたマネーが不動産事業に流れ、中国不動産バブルにつながったとみられています。もしくは、従来から存在した不動産バブルを膨らましたといったほうが正確かもしれません。

そのマネーが恒大に流れ、事業を多角化する資金となり、今回の債務不履行危機へと進んでしまったとみるのが自然です。

※4:https://jp.reuters.com/article/breakingviews-evergrande-idJPKBN2GQ0I6
※5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD277II0X20C21A9000000/

最悪なシナリオとよりましなシナリオ

ここまでの流れから、中国がリーマンショックから自国を守るために不動産バブルを起こし、世界経済がそれにすがった、という構図がみえてきます。しかし、バブルは劇薬なので、必ずバブル崩壊というツケを支払わされることになります。日本のバブル崩壊もリーマンショックもバブルに浮かれたツケです。

2021年現在、中国の深セン市のマンション価格は中国人の平均年収の57倍、北京市のマンション価格は55倍という水準です。バブル期の1990年の東京ですら、マンション価格は日本人の平均年収の18倍でしかありませんでした(※6)。

恒大問題が引き金となり、中国の不動産市場が冷え込めば、中国企業や中国人たちがこぞって不動産の投げ売りを始めバブル崩壊が始まってしまいます。

そうなれば、日本のバブル崩壊やリーマンショックを上回る衝撃を世界経済に与えるはずです。しかもそのときは、頼みの中国に頼れない状態になっているわけです。ただこれは最悪のシナリオであって、もう少しましなシナリオも用意されています。

中国の中央銀行である中国人民銀行は、恒大問題を受けて「不動産市場の健全な発展と住宅消費者の合法的な権利を守る」という声明を発表しました(※7)。

「恒大を守る」とは言わないものの「国民(住宅消費者)を守る」と言っています。またロイターは、恒大が抱える大きな不動産開発プロジェクトは、国営企業や地方政府などが引き継ぐだろうとの見方を示しています(※8)。

つまり、中国政府はその威信にかけて不動産バブルを崩壊させることはないだろう、という見立てです。したがって、恒大問題よりもはるかに大きな問題は次の2点になります。

●中国の不動産バブルはいつか崩壊するものなのか、それともだましだまし継続するのか、それとも大恐慌を起こさず収束させることができるのか
●中国経済を不動産バブル以外で支えることができるのか

この2点についてはまだ、答えはおろか、その見通しすら立っていないようです。

※6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL261PG0W1A920C2000000/
※7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB24AKJ0U1A920C2000000/?unlock=1
※8:https://jp.reuters.com/article/breakingviews-evergrande-idJPKBN2GQ0I6

日本経済への影響は

話しが世界経済に飛んでしまったので、それを狭めて日本経済について考察していきます。

恒大問題の日本への影響では、冒頭で確認したとおり日経平均株価が9月21日に大幅に下落しました。その後の日経平均株価は、再び30,000円台を回復したり、27,000円台に下落したりしましたが、この乱高下は日本の政権の不安定さがもたらしたもので、中国の影響は小さいとみられています。

マスコミ報道にも「恒大問題は日本の投資家に大きな影響が出るとは思っていない」「日本の建設業に問題があるという話は聞いていない」といった楽観ムードが漂っています(※9)。

日本銀行も「中国の不動産セクターの動向を注視し、必要であれば迅速に対応すべき」という意見があるものの、中国に関する関心事は依然として、経済の減速感や規制強化の行方です(※10)。

恒大問題が日本経済に悪い影響をもたらすことは確実なものの、それがリーマン級になるかどうかは不透明で、ましてや日本のバブル崩壊ほどの危機になるかどうかは未知数といえます。

※9:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021092700811&g=eco
※10:https://jp.reuters.com/article/boj-opinions-idJPKBN2GR2KW

まとめ~急ぐ必要はないが防衛策は必要では

恒大問題は、中国政府や中国の金融当局が必死に火消しに走っているお陰で、世界経済のレベルではボヤ程度で済んでいるようです。ただ、この火種は簡単に消えるとは考えられず警戒は必要です。

日本の一般消費者の目線で恒大問題をみると、持っている株式をすぐに売却しなければならないほどの緊急性はないものの、分散投資に切り替えたり、大きな買い物を控えたりするなどの防衛策は講じたほうがよい、といえるかもしれません。