決済関連

JCBはインターオペラビリティで決済をどう変えようとしているのか?

クレジットカード大手の株式会社JCBは2021年8月、ITベンチャーの株式会社データチェーン(本社・東京都港区)と共同で、新しい決済の形を探る研究を開始すると発表しました(※1、2)。

決済とは売買を完了させることであり、コンビニで100円玉を渡しておにぎりを手に入れるのも、居酒屋でスマホをかざして支払うのも決済です。

両社は「決済において、複数の異なるブロックチェーン間の相互運用を実現する」ことを目標に掲げていますが、この研究が成功して実用化されると、どのような新決済が誕生するのでしょうか。

キーワードは、相互運用、つまりインターオペラビリティです。

※1:https://www.global.jcb/ja/press/2021/202108111130_others.html
※2:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000055051.html

インターオペラビリティとは

JCBとデータチェーンの共同研究を紹介する前に、インターオペラビリティについて解説します。インターオペラビリティはコンピュータ領域の用語で、一言で表すと、コンピュータの不便さを解消する技術となります。

コンピュータの不便さとは

コンピュータは便利な道具ですが、意外なところで不便さが露出します。その1つが、仕様が異なると使い物にならなくなること。

例えば、40年前の古いコンピュータで処理したデータの多くは、現代のコンピュータで使えません。また、マイクロソフトのウインドウズのデータとアップルのマックのデータも、かなりの頻度で互換性がありません。さらに暗号資産でも、ビットコインのシステムとイーサリアムのシステムはつながっていません。

これがなぜ不便なのかというと、システムAで使っているデータAを、システムBで使えないからだす。

システムAが古くなって処理スピードが落ちたので、データAを最新のシステムBで処理したくてもできない。システムAのユーザーとシステムBのユーザーの間でデータを交換することもできない。システムAの暗号資産を、システムBの暗号資産に換金しようと思っても、スムーズに進まない。

このような不便が起きるのは、システムAが、システムBやシステムCのことを考えながらつくられていないからです。それぞれのシステムは独立して開発されるため、このような不便な現象が起きてしまいます。

互換、相互運用、相互通信を実現して不便さを解消するのがインターオペラビリティ

この不便さを解消するのが、インターオペラビリティです。

インターオペラビリティでは、仕様が異なるコンピュータどうしで相互運用することを目指します。複数のデータベースを接続して利用したり、インターネット上で相互通信できるようにしたりします。

互換性を高めて、システムAでもシステムBでもシステムCでもシステムZでも同じデータを扱えるようにするのが、インターオペラビリティです。

データチェーンは何をしている会社なのか、JCBの狙いとは

データチェーンがどのような会社で、クレジットカード大手のJCBがなぜこの会社とタッグを組んだのかみていきましょう。

データチェーンはインターオペラビリティの会社

データチェーンは2018年に設立した資本金1億円の「さまざまなデータやプロセスを持つシステムをオープンにつなげて新たな価値を創出」しようとしているベンチャー企業です。

独立したシステムが独立したまま成長してしまい、今さらほかの新しいシステムに移行できない状態をサイロ化といいます。

サイロとは、牛に与える飼料を入れる円筒状の貯蔵庫で、牧場でよくみかけると思います。サイロが古くなったら、新しいサイロを建築して、古いサイロのなかの飼料を新しいサイロに移さなければなりません。

システムでは、牧場のサイロより深刻なサイロ化が起きます。牧場のサイロは勝手に大きくなりませんが、システムは増設することが可能なので、なかのデータがほぼ無限に増えていきます。そのため、古いシステムから新しいシステムにデータを移す作業は膨大なコストと労力が必要になります。

日本でも世界でも、自治体や企業のシステムや、暗号資産などのブロックチェーンのシステムがサイロ化してしまっていることが大きな問題になっています。

データチェーンはこの社会課題を、インターオペラビリティで解決しようとしているわけです(※5)。

※5:https://ja.datachain.jp/products

JCBはクレジットカードの機能を高めようとしている?

JCBは日本で唯一の国際クレジットカード・ブランドで、24の国・地域の3,500万店で利用でき、国内シェアはVISAに次ぐ2位です(※6)。

JCBはデータチェーンと協業する狙いについて「両社の資産やノウハウを融合することで、革新的なサービスの創出を目指す」としています(※7)。クレジットカードは日本で最も使われているキャッシュレスサービスですが、成長はやや鈍化しています。

スマホ決済が少しずつ増え始めているからです。

日本の決済のシェアは、2019年はキャッシュレス26.8%、現金73.2%となっています(※8)。キャッシュレスの26.8%の内訳は、クレジットカード24.0%、デビットカード0.56%、電子マネー1.9%、QRコード0.31%です。電子マネーやQRコードなどがスマホ決済になります。

クレジットカードはキャッシュレスのなかで圧倒的なシェアを占めていますが、2018年からの伸び率は鈍化しています。

 

2017年

2018年

2019年

クレジットカード

19.2%

21.9%

24.0%

前年比

2.7ポイント増

2.1ポイント増

デビットカード

0.37%

0.44%

0.56%

前年比

0.07ポイント増

0.12ポイント増

電子マネー

1.7%

1.8%

1.9%

前年比

0.1ポイント増

0.1ポイント増

QRコード

データなし

0.05%

0.31%

前年比

データなし

0.26ポイント増

キャッシュレス計

21.3%

24.1%

26.8%

前年比

2.8ポイント増

2.7ポイント増

クレジットカードの前年比をみると、2018年は2.7ポイント増でしたが、2019年は2.1ポイント増に低下しています。キャッシュレス計も、2018年の2.8ポイント増から2019年の2.7ポイント増に低下していますが、落ち幅はクレジットカードのほうが大きくなっています。クレジットカードの成長の鈍化は、デビットカードの増加やQRコードの登場によるものと考えられます。

JCBとしては、クレジットカードの優位性を高めて、キャッシュレス王者の地位を盤石なものにしたいところでしょう。JCBがデータチェーンと組んでクレジットカードの決済機能の強化するのは、理にかなっているといえます。

※6:https://www.veritrans.co.jp/tips/column/card_share.html
※7:https://www.global.jcb/ja/press/2021/202108111130_others.html
※8:https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626014/20200626014-3.pdf

プレスリリースから読み解く

JCBとデータチェーンの共同研究がどのようなものになるのか、両社が発表したプレスリリースから、キーワードやキーセンテンスを抜き出して読み解いていきます。

キーワード1:DVPとPVP

両社は今回の研究は「DVP(Delivery Versus Payment)決済とPVP(Payment Versus Payment)決済への応用を見据えたものである」としています。

Vは「対、vs」なので、DVPはデリバリー対ペイメント、PVPはペイメント対ペイメントという意味になります。デリバリーは証券の引き渡しのことで、ペイメントは支払いのことです。

DVPは、デリバリーが行われない限り、ペイメントも行なわれないようにすること、です。これで取引の安全が保たれます(※9)。

PVPは、異なる通貨の取引を同時に決済することで、対象が異なるだけで考え方はDVPと同じです(※10)。例えば外為決済の安全性を保つには、PVPが確立している必要があります。

つまりDVPもPVPも、取引の安全性を高める技術と考えることができます。

※9:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/kess/i17.htm/
※10:https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/yougo_kensaku/kaisetsu/en_p/en_p_002.html

キーセンテンス2:決済領域におけるインターオペラビリティの在り方の整理

今回の研究の目的その2は、「決済領域におけるインターオペラビリティの在り方の整理」です。決済システムは今、おびただしい数の「サイロ」が林立している状態ですが、徐々にインターオペラビリティが進行しています。

例えば、セブンイレブンは独自にナナコというキャッシュレスサービスを運用していますが、セブンイレブンのコンビニでは、ソフトバンクグループのペイペイも使うことができます。

これが実現しているのは、セブンイレブンのなかでインターオペラビリティ的な処理が行われているからです。ただ、ナナコの金銭的価値とペイペイの金銭的価値は、まだ直接交換できるわけではないので、本当の意味でのインターオペラビリティは達成できていない、ということもできます。

このような現象は多くの決済サービスで起きているので、決済はインターオペラビリティのニーズが高い領域といえます。

キーセンテンス3:エンタープライズの商用サービスに適したインターオペラビリティ方式の比較評価

今回の研究では、「エンタープライズの商用サービスに適したインターオペラビリティ方式の比較評価」も行う、としています。
エンタープライズとは、要するに企業のことです。商用サービスは広い概念ですが、要するにビジネスのことを指していると思われます。
したがってJCBとデータチェーンは、一般企業の一般的なビジネスに適したインターオペラビリティを探していくことになります。
決済でインターオペラビリティを実現できれば、一般企業の一般的なビジネスで役立つサービスを構築できるはずです。

キーワード4:BSNとUbin

中国のBSNとシンガポールのUbinも研究対象になります。

ブロックチェーン・サービス・ネットワーク(BSN)は中国政府が主導するブロックチェーンに関する国家プロジェクトです。ブロックチェーンは、暗号資産などで使われているコンピュータ技術です。

中国は世界に先駆けて、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の社会実装を進めています(※11)。そしてBSNでは、さまざまなシステムで、デジタル人民元を使えるようにしていきます。

Ubinは、シンガポールのプロジェクトUbinのことです。シンガポールの中央銀行であるシンガポール金融管理局は、ブロックチェーンによる決済システムの構築を進めていて、それをUbinと呼んでいます。Ubinの取り組みについては、日本銀行や会計事務所のデロイトトーマツなども調査に乗り出しています(※12、13)。

デジタル通貨や最新の決済システムに関心を寄せているのは、JCBだけではないことがわかります。JCBとデータチェーンは、BSNやUbinを研究することで、基盤となるインターオペラビリティ・システムを理解しようとしています。

※11:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36405
※12:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/data/rel180214a2.pdf
※13:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/financial-services/articles/bk/blockchain-projectubin.html

キーワード5:IBC

プレスリリースには「コスモスのIBCプロトコルなどの活用を検討する」とも書かれてあります。

インター・ブロックチェーン・コミュニケーション・プロトコル(IBCプロトコル)は、アメリカのオール・イン・ビッツ社が進めているコスモス・プロジェクトで用いられている概念です。

暗号資産のビットコインやイーサリアムで使われているブロックチェーン技術は、画期的である反面、開発しづらかったり使いにくかったりします。
その反省から、コスモス・プロジェクトでは、ブロックチェーンの開発をシンプルにしていくことにしました。

IBCはコスモス・プロジェクトで使われる技術で、複数のブロックチェーン・システムの間でデータや暗号資産(トークン)を転送できるようにします。したがってこれもインターオペラビリティといえます。

JCBとデータチェーンは、このIBCを決済に活用しようと考えています。

まとめ~コスト安のインターオペラビリティをつくれるか

決済領域におけるインターオペラビリティは、古くて新しい概念といえます。

例えば銀行はすでに、複数の銀行間で資金移動できる仕組みをつくっていますし、客の利便性を高めるATMのシステムと銀行自身のシステムを合体させています。これらもインターオペラビリティの一種ですが、コストがかかりすぎるという欠点があります(※12)。

銀行に預金をしても利子が0.001%しかつかないのに、ほかの銀行の口座に1万円振り込むだけで220円(2.2%)も手数料が取られます(※13、14)。インターオペラビリティ・コストを、消費者が負っている形です。

そのため金融分野では、コスト安のインターオペラビリティが求められます。JCBとデータチェーンも、究極的にはコスト安の決済システムの構築を目指していると推測できます。

新しいインターオペラビリティ技術によってさまざまな決済システムをスムーズにつなぎ合わせることができれば、支払いがスムーズに進みます。支払い手続きをしている間は取引が一時的に中断するので、支払いがスムーズに進めば取引がスムーズに進みます。取引がスムーズに進めば、経済が効率よく回るので経済成長に寄与します。

JCBとデータチェーンの共同研究は、大いに期待できます。

※12:https://blog.global.fujitsu.com/jp/2019-07-23/02/
※13:https://www.bk.mufg.jp/ippan/kinri/yen_yokin.html
※14:https://www.bk.mufg.jp/info/20107_tesuuryou.html