金融全般

日銀の金融緩和政策によって国内のメガバンクが変わる

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱)、三井住友フィナンシャルグループ(以下、三井住友)、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)のことをメガバンクグループといいます。

時価総額は、三菱は8兆円、三井住友は5兆円、みずほは4兆円と、間違いなく超一流企業といえます。自分の子供がメガバンクに就職すれば安心できる企業でしたが、世間のイメージとは裏腹に、メガバンク自身は危機感を募らせています。大規模リストラが長年の懸案事項になっているほどです(※1)。

例えば三菱の株価は、2015年には900円を超えたことがありましたが、2021年は600円に届かない日が続いています(※2)。600円は900円の33%減なので、企業価値が3割以上落ちているとみることができます。三井住友とみずほも同様の傾向がみられます。

もちろんメガバンクは、この状況に手をこまねいているばかりではありません。この記事では、メガバンクの危機感を紹介したうえで、三菱、三井住友、みずほが、それぞれどのように起死回生を図ろうとしているのか探ります。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22847550Y7A021C1EA3000/
※2:https://finance.yahoo.co.jp/quote/8306.T/chart?styl=lne&frm=mnthly&scl=stndrd&trm=10y&evnts=volume&ovrIndctr=sma%2Cmma%2Clma&addIndctr=

メガバンクの危機感とは

メガバンクが危機感を覚えるほどの状況に陥ったのは、日本銀行の金融緩和政策が原因とされています。金融緩和では金利を低下させたり、ときにマイナス金利を導入したりしています。銀行は、企業や個人などにお金を貸して金利を得ることで利益をあげているので、金利が低下すると経営が厳しくなります。

解散したほうがまし?

メガバンクの2021年のPBRは大体0.4倍で推移しています(※3)。PBRは株価純資産倍率といい、「PBR=株価÷1株当たり純資産」で算出します。PBRでは、株価が、1株当たり純資産の何倍になっているかがわかります。

株価は、投資家が「買ってもよい」と考える企業の値段といえます。1株当たり純資産は、企業の解散価値であり、つまり今解散したときの価値となります。

したがってPBRが1倍より低い場合、株主としては、会社にこのまま事業を継続してもらうより、会社を解散させて資産を分配してもらったほうが「得」といえます。PBR0.4倍というのは、100万円持っている会社が40万円で売りに出ているようなものです。つまり100万円持っているのに40万円「でしか」売れない会社といえます。

それくらい市場はメガバンクに厳しい目を向けていることになります。

※3:
https://finance.yahoo.co.jp/quote/8306.T
https://finance.yahoo.co.jp/quote/8316.T
https://finance.yahoo.co.jp/quote/8411.T

経常収益、経常利益、純利益ともに2期連続減少

「リアルなお金の厳しさ」を確認するため、三井住友の2021年3月期の連結決算をみてみましょう(※4)。

経常収益は約3.9兆円で前期比15%減、経常利益は7,110億円で同24%減、純利益は5,128億円で同27%減と、トリプル減に見舞われてしまいました。前期もトリプル減でしたので、2期連続の厳しい結果です。この敗因について同社は次のように分析しています(※4、5)。

●アジアの出資先でクレジットコストが増加した
●コロナ禍で国内の与信関係のコストが増価した
●コロナ禍で海外ビジネス関連の営業経費が増えた
●国内の消費低迷で決済・コンシューマーファイナンスが減った
●政策保有株式の売却益が減った
●先物取引で損失を出した

これは三井住友の事例ですが、その他の2つのメガバンクも楽観できる状態でないのは同じです。ではメガバンクはどのような対策を講じようとしているのでしょうか。

※4:https://www.smfg.co.jp/investor/financial/latest_statement/2021_3/2021_fy_01.pdf
※5:https://www.smfg.co.jp/investor/financial/latest_statement/2021_3/2021_fy_setumei.pdf

三菱はこう変わる

三菱は海外で稼ぐことを鮮明に打ち出しています。

2018年には、国際部門を廃止して国内外一体の営業体制にしました(※6)。なぜ海外で稼ごうとしているのに国際部門を廃止したのかというと、国際ビジネスを特別視しないためです。「営業といえば国際営業のこと」と考えるのであれば、部門の名称にわざわざ「国際」の文字を入れる必要はありません。

世界最大の銀行であるHSBCは自国外ビジネスが7割に達し、三菱はこのHSBCを目指すと宣言しています(※6)。

しかしこれは無謀な野望ではありません。三菱の国際化は確実に進んでいて、国内ビジネスと海外ビジネスのそれぞれの営業純益は次のように推移しています(※7)。

<三菱の国内と国外の営業純益の推移>

 

事業名

2019年度

2020年度

2019年度比

国内ビジネス

法人、リテール、受託財産

3,609

3,424

-5%

海外ビジネス

コーポレートバンキング、グローバルCIB、グローバルコマーシャルバンキング

6,208

6,713

8%

(市場事業は国内と海外にわかれるのでここでは除外)

国内ビジネスは5%減っているのに、海外ビジネスは8%増えています。さらに2020年度でみると、海外ビジネスは国内ビジネスの2倍近くになっています。

※6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22127780R11C17A0EE9000/
※7:https://www.mufg.jp/dam/ir/presentation/2020/pdf/slides2103_ja.pdf

三井住友はこう変わる

三井住友も海外シフトを強化していて、なかでも特筆すべきはベトナム進出です。

三井住友は2021年4月、ベトナムのノンバンク最大手、FEクレジット社に最大1,500億円を出資すると発表しました(※8)。FEクレジット社はベトナムの消費者ローン市場で5割のシェアを持ち、スマホで操作できるデジタル銀行を立ち上げるなどフィンテックにも力を入れています。

ベトナム経済はコロナ前まで年7%台で成長していました。経済が強くなって好景気にわけば人々の消費意欲が強まり、消費者ローンの利用者も増えます。三井住友はその波に乗ろうとしています。

また、三井住友自身のDX(デジタルトランスフォーメーション)化も急いでいます(※9)。

グーグルが開発したAI(人工知能)を使って、コールセンターの紹介応答支援業務を効率させます。顧客からの電話やメールを受けた担当者がこのシステムを使うと、顧客に回答すべき内容が書かれた資料が現れ、的確かつ短時間で情報を提供できます。コールセンターの担当者の負担が減るうえに、顧客へのサービスの質が向上します。

このAIコールセンター事業が軌道にのれば、これを社外に販売していく方針を示しています。つまり、コストダウンと顧客満足度の向上にDXを使い、新規ビジネスの立ち上げにもDXを使うということになります。

これは、アマゾンが自社用に開発したクラウド・システムを外販しているのと似ています。三井住友は、銀行らしからぬビジネススタイルでこの難居を乗り切ろうとしているわけです。

※8:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB282LU0Y1A420C2000000/
※9:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK044ZJ0U1A300C2000000/

みずほはこう変わる

みずほの場合、三菱や三井住友とは異なる危機があります。それはコンピュータ・システムの弱さです。

2002年と2015年に大規模システム障害を起こし、さらに2021年2月には、全国のみずほのATMの8割が使えなくなるというトラブルが起きて社会問題になり、金融庁から処分されました。

みずほのシステムは大体10年に一度のペースで問題を起こしていることになります。みずほ社内には「(自社に)事なかれ主義を感じる」という声があり、みずほ銀行の頭取は「縦割りで内向きの発想が残っている」と認めざるを得ませんでした(※10)。

「システムトラブルのみずほ」の汚名を返上すべく、みずほは2021年7月、日本IBMの幹部社員を社内に招きました。その他にもIT人材を幹部に登用し、強固なシステムを構築していきます。

みずほのポジティブな動きとしては、脱炭素戦略の1つであるトランジションファイナンスが注目できます(※11)。

トランジションは移行という意味で、脱炭素に向けた取り組みをする企業に資金的な支援(ファイナンス)をします。経済産業省は、脱炭素を含む環境関連の市場はアジアだけでも300兆円になると試算しています(※12)。

脱炭素ビジネスは、太陽光発電でも風力発電でも水素エネルギーでも、莫大な資金を必要とします。大きなお金を集めて有力市場の後押しをするのはメガバンクを得意とするところなので、トランジションファイナンスは「みずほらしい」新ビジネスといえそうです。

※10:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73113060R20C21A6EE9000/
※11:https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2020/1223.html
※12:https://www.env.go.jp/council/06earth/y0611-12/mat03-2.pdf

まとめ~日本経済の牽引を託されている

日本は人口減少と高齢化という大きな問題を抱えています。スマホ、半導体、ネットサービス、家電、再生可能エネルギーなどのビジネスでは海外勢に押されっぱなしです。GDPで中国に追い抜かれてから久しく、インドにも追い抜かれるのも時間の問題といわれています(※13)。

日本経済の凋落を食い止め、V字回復を果たすには金融機関の力は欠かせません(※14)。そして特にメガバンクグループには、金融業界を牽引する立場にあるので、最も「頑張って」もらわなければなりません。

メガバンクの変化はこれからも注視していく必要があります。

※13:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_2_15.html
※14:https://www.fsa.go.jp/news/30/For_Providing_Better_Financial_Services.pdf