金融全般

日本はキャッシュレス後進国の汚名を返上できるか?

国内のキャッシュレス決済比率は2020年に29.7%となり過去最高を記録しました(※1)。キャッシュレスとは、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコードのことで、スマホを使った支払いも含まれます。

29.7%は、多いとも少ないともいえます。10年前は13.2%でしたので、2.25倍(=29.7÷13.2)にもなっているので多いといえます。しかし韓国は2016年にすでに96.4%に達し、イギリスも同年に68.6%になっていて、これら比べると全然少ない状態です。

日本は明らかにキャッシュレス後進国で、日本政府は現状に満足していません。日本はこの汚名を返上できるのでしょうか。そして、なぜ、キャッシュレス社会になったほうがよいのでしょうか。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA174R50X10C21A6000000/

過去最高の29.7%も政府目標には遠い

キャッシュレス決済比率とは、個人消費(民間最終消費支出)額に占めるキャッシュレス決済額の割合です。2020年のキャッシュレス決済比率29.7%の内訳は次のとおりです。

  • クレジットカード25.8%(前年比1.8ポイント増)
  • 電子マネー2.1%(0.2ポイント増)
  • QRコード1.1%(0.8ポイント増)
  • デビットカード0.8%(0.2ポイント増)

全体で前年より2.9ポイント(=1.8+0.2+0.8+0.2、誤差あり)増加し、増加幅も伸びています(※2)。直近のキャッシュレス決済比率の推移は以下のとおりです。

  2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
決済比率(%) 16.9 18.2 20.0 21.3 24.1 26.8 29.7
前年比   1.3 1.8 1.3 2.8 2.7 2.9

2014年からの比較では、2020年は前年比の増加率も過去最高になっています。

政府は2025年までに40%を目指し、最終目標は80%です(※3)。年3ポイントのペースで増えていけば、2024年に40%を超え、2025年には44.7%になります。計算式は以下のとおりです。

●2020年29.7%+3ポイント×5年=2025年44.7%

ただ、年3ポイントのペースでは、80%に達するのは2037年になり、まだまだ時間がかかる印象があります。諸外国は次のようになっています(※3)。データは2016年のものです。

<2016年の諸外国のキャッシュレス決済比率>

1位、韓国96.4%
2位、イギリス68.6%
3位、中国65.8%
4位、オーストラリア58.2%
5位、カナダ56.3%
6位、スウェーデン51.5%
7位、アメリカ46.0%
8位、フランス40.7%
9位、インド34.8%
10位、日本19.9%
11位、ドイツ15.6%

日本より下回っているのは、やはり現金支払いが好まれるドイツだけです。

なぜ日本政府はキャッシュレス化を進めたいのでしょうか。その理由は後段で解説します。先に、キャッシュレスが進まない理由を考えていきます。

※2:https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626014/20200626014-3.pdf
※3:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf

なぜ進まぬキャッシュレス

キャッシュレス社会がよい状態であると仮定して、なぜキャッシュレス化が日本で進まないのか考えてみます。

手数料の高さがネック

キャッシュレス化のブレーキになっているのは手数料の高さです。手数料といっても、消費者はピンとこないはずです。クレジットカードをはじめ、ほとんどのキャッシュレスは利用するときに手数料を徴収されません。

手数料を徴収されているのは、加盟店、つまり小売店や飲食店です。

消費者がいくらキャッシュレスを使いたいと思っていても、小売店・飲食店がキャッシュレス・システムを導入しないと利用することはできません。日本経済新聞によると、クレジットカードの場合、加盟店はクレジットカード会社に3.25%の手数料を支払っています(※4)。

3.25%とは、売上高に対する比率です。つまり、加盟店の客が全員クレジットカードを使ってしまったら、その店の売上高は自動的に3.25%減ってしまうわけです。

ペイ系のキャッシュレス会社には、ペイ系キャッシュレスを普及させるため手数料を徴収していないところがありますが、いずれ有料化されるでしょう。

これでは「キャッシュレスで支払えなくてもよい」と考えている顧客を多く持っている小売店・飲食店は、キャッシュレス・システムを導入する動機が強まりません。キャッシュレス推進の旗振り役である経済産業省も、手数料の高さを問題にしています(※4)。

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB14F4X0U1A510C2000000/

手数料が増える仕組みを問題視する経済産業省

経済産業省内で、インターチェンジフィー(IRF)に上限規制をかけるべきではないかという議論がなされています(※4)。IRFとは、加盟店を管理するクレジットカード会社が、クレジットカード発行会社に支払う手数料です。

これも日本経済新聞の調べですが、加盟店が加盟店管理クレジットカード会社に支払う3.25%のうち、2.3%はIRFといわれています。加盟店が支払っている手数料の29%(=(2.3÷3.25-1)×100)がIRF分ということになります。

この説明だけを聞くと「IRFは高すぎる」「IRFを減らせば手数料を減らすことができ、加盟店の負担が減り、キャッシュレス・システムの導入が進む」と感じるかもしれません。経済産業省の会議でも、だからIRFが議論の俎上にのったのでしょう。

しかしクレジットカード発行会社はIRFを財源にして、消費者にポイント付与などを行っています。ポイント還元は消費者のメリットが大きいので、キャッシュレス推進の大きな原動力になります。

つまり現状のキャッシュレス・ビジネスは、消費者のメリットを増やそうとしすぎたあまり、加盟店に負担を強いている構造になっているわけです。

入金までの時間も支障になっている

小売店や飲食店にとっては、キャッシュレスの、入金までの時間の長さも支障になっています。

客が現金で支払えば、小売店・飲食店は、物やサービスを売ったと同時に現金を手にすることができます。しかし客がキャッシュレスで支払うと、キャッシュレス企業から入金されるまでに時間が空いてしまいます。

ところが小売店・飲食店では、物やサービスを売る前に、原材料や商品の支払いを済ませなければならないことがあります。つまり、出ていくお金は早く出ていき、入ってくるはずのお金はなかなか入ってこない状況に陥ります。これでは資金繰りに困る小売店・飲食店が出てきてしまいます。

なぜ世界に追いつくべきなのか?

なぜ日本はキャッシュレス社会を目指したほうがよいのでしょうか。キャッシュレスの普及は、国民や企業などにどのようなよいことをもたらすのでしょうか。

●非接触のメリット
コロナ禍では、非接触のメリットがあります。紙幣や硬貨という物体は感染拡大に寄与してしまうので、読み取り機にカードやスマホをかざすだけでよいキャッシュレスは有利です。

●お金の流れをデータにできるメリット
お金の流れがデータ化されることもキャッシュレスの利点です。キャッシュレスで支払えば、誰が、いつ、何を、何個、いくらで買ったかがデータになります。これはマーケティングの重要資料になるでしょう。また、お金の流れが透明になれば、公平な税徴収にも寄与するはずです。

●紙幣と硬貨を数えなくてよいメリット
そして小売店や飲食店は、紙幣や硬貨を数えなくてよくなります。現金支払いは、小売店や飲食店のレジに紙幣と硬貨をどんどんためていきます。ほとんどの小売店・飲食店では、毎日業務終了後に紙幣と硬貨を数えているはずです。それを毎日、銀行の夜間金庫に預けている企業もあるでしょう。キャッシュレスが進めば、この業務を大幅に軽減できます。

経済産業省はキャッシュレスを普及させる意義を次のようにまとめています(※5)。

<消費者の利便性が向上する>
・手ぶらで買い物ができる
・大金を持ち歩かなくて済む
・消費履歴を管理しやすくなる
・現金の紛失リスクが減る

<小売店・飲食店の利便性が向上する>
・現金管理の手間が省ける
・現金の搬出入が減る
・インバウンド需要を取り込みやすくなる
・購買データをマーケティングや新サービスの開発に役立てることができる

大きな経済効果が期待できそうです。

※5:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf

まとめ~現金信奉をどう崩していくか

すでに、ほとんど現金を使っていないという人もいるのではないでしょうか。もしくは、キャッシュレスが使えない小売店や飲食店には入らないという人もいるはずです。キャッシュレスを頻繁に使っている人は、現金主体の生活に後戻りできないと感じています。

キャッシュレスが便利であることは明白で、潜在能力が高いこともわかっています。それでも爆発的な普及につながらないのは現金信奉が強いからです。

「なんとなく現金のほうがよい」と思っている人を、キャッシュレスに向かわせるには、さらなる工夫が必要でしょう。