何が問題なのか?暗号資産を規制する動きが加速している

便利であることがわかっているサービスでも、さまざまなしがらみから普及しないことがあります。ビットコインなどの暗号資産もその1つです。

暗号資産は世界中でお金として使われ、または投資商品として取引されていますが、各国政府は規制の動きをみせています。暗号資産は何が問題で、各国政府はどのように規制しようとしているのでしょうか。

この分野には中央銀行デジタル通貨(CBDC)も絡んでくるため、複雑な構図になっています。

アメリカの規制:ビットコインETFは誕生するのか

アメリカ政府が暗号資産の規制を強化する動きをみせています(※1)。米政府は、マサチューセッツ工科大学で暗号資産について教えていた人物を証券取引委員会のトップに据えることにしました。その人物は「規制のプロ」の異名を持つほど、金融市場に厳しい目を持っています。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL151DM0V10C21A4000000/

ビットコインはまだリスキーか

アメリカにおける暗号資産規制の大きな目玉は、ビットコインの上場投資信託(ETF)を認めるかどうかです。規制当局は消極姿勢を貫いています(※1)。

ビットコインETFが承認されれば、株式や投資信託のように、機関投資家も個人投資家も簡単に市場で取引できるようになります。ETF化されるとビットコインの価値がさらに高まるため、暗号資産業界はETF化を悲願としています。

また、ビットコインのETF化は金融市場にとってよいことでもあります。

ビットコインETFが実現すれば空売りが可能になり、投資家たちによって値下げ圧力を強めることができるからです。ビットコインの価格はこれまで、失望売りで一時的に急落することはあったものの、長期的なトレンドとしては急上昇してきました。それは「儲かる」という思惑が強かったからです。

つまりビットコインは、市場のメカニズムにしたがった値動きをしているわけではなく、暴走気味な部分があります。ETF化されればビットコイン価格は市場によってコントロールされることになり、より健全な投資商品になることができます。

ではなぜアメリカの規制当局は、ビットコインETFの実現に慎重なのでしょうか。

理由の1つは、ビットコインが投機的すぎることです(※2)。アメリカの証券取引委員会は、ビットコインを取引する投資家は自分たちが認識している以上のリスクを負うことになる、と警告しています。

「自分たちが認識している以上のリスク」はとても恐ろしい存在です。投資にはリスクがつきものですが、想定をはるかに超える大きなリスクを持つ投資商品は最早博打になってしまい、市場を揺るがす存在になりかねません。

つまり、ビットコインはまだ、通常の投資商品と認定するには危険な存在であるということになります。

※2:https://www.coindeskjapan.com/108426/

ETFと原資産の価格をどう近づけるか

ビットコインは今、1)ETF化すれば健全な投資商品になるのに、2)ビットコインが持つ大きすぎるリスクのためにETF化することができない、という複雑な状況下にあります。

では、この状況を打開するには何が必要なのでしょうか。どうなれば、ビットコインをETFにでき、健全な投資商品にすることができるのでしょうか。

その答えは、ETFの価格と原資産の価格の連動性を高めることです。

ビットコインETFが誕生したときに、その価格がビットコインの原資産の価格と連動するようになればよいわけです。「ビットコインの原資産の価格」とは、ビットコインそのものの価格のことです。

例えば金(ゴールド)のETFの値動きは、金の原資産(金そのもの)の価格にほぼ連動して動いています。日経平均のETFの値動きも、日経平均の金額にほぼ連動しています。しかしビットコインは依然として「思惑」で激しい値動きをすることがあるので、ビットコインETFの価格とビットコインの原資産の価格が著しく異なる可能性があります。

この状態を打破するには、暗号資産を取り扱う市場を整備したり、取引に参加する者たちの財政基盤を強化したり、コンプライアンスを徹底したりする必要があります。

暗号資産を「普通のまっとうな投資商品」にできなければ、暗号資産という「稚魚」がいつ「モンスター魚」に変身するかわからないので、危なくて市場という「海」に放流することはできない、ということです。

日本政府の懸念

続いて、日本の規制をみていきます。

日本の金融庁も暗号資産を強く警戒していて、国民に「価格が急落して、損をする可能性がある」と呼び掛けています(※3)。

政府が特定の投資商品の名前を挙げて「損をする」と言うことは極めて異例です。その投資商品を扱う企業からすると、営業妨害を受けているようなものです。いくら「可能性」という言葉で語気を弱めていても「損」というワードは強烈なインパクトがあり、「国が、暗号資産は買わないほうがよいと言っている」と曲解する人もいるでしょう。

金融庁は株式や投資信託などの一般的な投資商品については、むしろ国民に推奨しているので、暗号資産への警戒はより際立ちます(※4)。

金融庁が懸念しているのは暗号資産の急落ですので、これはアメリカの証券取引委員会が、ビットコインに想定をはるかに上回るリスクが存在していることを警告しているのと同じです。

※3:https://www.fsa.go.jp/news/r2/virtual_currency/20210407_1.pdf
※4:https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/knowledge/basic/index.html

金融庁が実際に行った行政処分

金融庁は警戒を呼び掛けるだけでなく、実際に行政処分も下しています(※5)。

名古屋市の暗号資産関連企業A社が、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」などへの対応が不十分であることから、金融庁は同社に対して、経営管理態勢とマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係るリスク管理態勢を構築するよう、業務改善命令を出しました。

金融庁はさらに、大阪府の暗号資産関連企業B社は、経営陣の法令遵守の認識が欠けているとして、同社に9項目もの業務改善命令を出しました。

9項目のなかには、帳簿書類の管理態勢の構築といった、極めて基本的な事柄も含まれていました。

※5:https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency02/index.html#sintyaku02-list4

中国政府の規制

中国政府は、民間の暗号資産を規制する一方で、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を推し進めるという戦略を持っています。CBDCは、政府と中央銀行の裏づけがある公的なデジタル通貨です。

中国インターネット金融協会と中国銀行業協会、中国支付清算協会の3者は2021年5月に、金融機関が暗号資産サービスを提供することを禁じました。さらに中国国民に対しても、暗号資産への投機的な取引を行わないよう警告しました(※6)。

暗号資産を規制する理由は、1)価格が急騰、急落している、2)国民の財産の安全性を侵害する、3)経済秩序と金融秩序を乱している――の3点です。

一方で中国のCBDCであるデジタル人民元は、世界で最も進んだCBDCと考えられています(※7)。

中国政府は数千万人民元分のデジタル人民元を国民にプレゼントするなどして、その普及に力を入れています。1元は17円ほどなので、数千万人民元は数億円規模になります。

デジタル人民元が世界に先駆けて中国国内で広く流通するようになれば、それが世界基準になるかもしれません。また、デジタル通貨は政府がお金の流れを把握するのに便利なので、「中国国内のあらゆる取引が中国人民銀行(中央銀行)の管理下に置かれるだろう」と推測する金融関係者もいます(※7)。

うがった見方をすると、中国政府は、デジタル人民元を流通しやすくするために、そのライバルとなる暗号資産を規制していると考えることができます。

※6:https://jp.reuters.com/article/crypto-currency-china-idJPKCN2CZ23L
※7:https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/world/00333/

日銀のスタンスをみると違った見方あできる

先ほど、日本政府は暗号資産を警戒していると紹介しましたが、日本銀行のスタンスをみると違った見方ができます。

日本の中央銀行である日本銀行は2021年4月に、CBDCの実証実験を開始しました(※8)。実験の目的はCBDCの基本的機能の実現可能性を探ることで、CBDCの発行、送金、環収を調べます。環収とは、日銀が発行したCBDCが日銀に戻ってくる現象のことです。

※8:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel210405b.pdf

日銀は明確なビジョンを持っている

では、日銀が近い将来、CBDCを発行するのかというとそうではないらしく、わざわざ「現時点でCBDCを発行する計画はない」と断言しています(※9)。

では、単なる探求心からCBDC実験を行うのかというともちろんそのようなことはなく、日銀はデジタル通貨の可能性を、次のように高く評価しています。

  • CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性がある
  • 決済システム全体を安定させるためにCBDCの準備が重要
  • CBDCは現金と並ぶ決済手段としての役割を担い得る
  • CBDCは、民間企業がイノベーションを発揮する基盤になり得る

日銀はさらに、日本版CBDCについて明確なビジョンを持っていて、それは民間銀行と日銀の2層構造です。

個人や企業:CBDCユーザー  
↑ CBDC ↓  
民間銀行:具体的なサービスを提供する ここが、民間銀行と日銀の2層構造になる
↑ CBDC ↓
日銀:サービスの土台や材料を設計する

日銀はCBDCサービスの土台や材料を設計して、民間銀行に提供します。民間銀行は土台や材料を使って具体的かつ便利なサービスにして、個人や企業などのCBDCユーザーに提供します。

※9:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel210326b.pdf

暗号資産にブレーキ、CBDCにアクセルの構図は同じ

ここまで具体的なビジョンを持っているので、「日銀の頭のなか」に日本版CBDCの実施が存在しないとは考えづらいでしょう。

そうなると、金融庁が暗号資産を規制して日銀がCBDCを検討する構図は、中国が暗号資産を牽制しながらデジタル人民元を推し進める姿と重なります。

まとめ~まだしばらくは攻防が続きそう

暗号資産は将来性のある金融システムであり、決済手法であり、優れたコンピュータ・サービスです。これらの要素は大きなビジネスチャンスを生みます。それだけにビットコインをはじめとするさまざまな暗号資産に今、大量のマネーが集まっています。

こうした流れは政府や中央銀行にとって、歓迎できる反面、危険です。

ビジネスが活発になって国の経済が回ることは歓迎できますが、金融市場や金融システムや金融サービスが不安定になる事態は回避しなければなりません。そのため、どの国も強弱の差はあれど、暗号資産を規制する動きをみせています。

そして、デジタル通貨の将来性を吸収するために、各国中央銀行はCBDCに強い関心を示しています。デジタル通貨分野で覇権を争う「暗号資産とCBDCの攻防」はしばらく続きそうです。