決済関連

BtoBキャッシュレス化は中小企業の生産性向上に寄与するのか?

クレジットカードVISAの日本法人であるビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社(以下、ビザ・ジャパン)が2021年9月、「中小企業の事業間決済におけるキャッシュレス化・デジタル化推進」というレポートを公表しました(※1)。

中小企業において、企業と企業の間の支払いをクレジットカードで済ます事業間決済のBtoBキャッシュレスの利用が進んでいないことを指摘しています。

生産性の向上を急がなければならない中小企業こそ、業務の効率化が期待できるキャッシュレス化を実施したいところですが、実際はまったくそうはなっていないというわけです。

この記事では、中小企業の事業間決済の現状を確認したうえで、そのソリューションを考えていきます。

※1:https://www.visa.co.jp/partner-with-us/info-for-partners/smallbusiness-usable.html#3

そもそも事業間決済とは、BtoBキャッシュレスとは

事業間決済は、企業間決済と呼ばれることもあります。

例えば、完成品メーカーA社が部品メーカーB社から部品を買ったとき、A社がB社に代金を支払います。これが事業間決済です。したがって事業間決済も、基本的な構造は、コンビニでおにぎりを買うときに行なわれる決済と同じです。

ただ事業間決済の場合、商品やサービスの受け渡しと決済(支払い)の間に数カ月以上のタイムラグが生じることは珍しくありません。そうです、売り掛け・買い掛けです。

売り掛け・買い掛けがあることで、資金繰りに困ったり、請求業務や経理業務が煩雑になったりします。

こうした問題をデジタルの力で解決するのが、事業間決済のキャッシュレス化です。企業対企業なのでBtoBキャッシュレス決済と呼ばれることもあります。

h2 中小企業間のクレジットカード決済は1%でしかない:何が問題なのか

ビザ・ジャパンによると、中小企業は日本の企業数の99%を占め、全労働者の7割を雇用するという経済規模を持つにも関わらず、支払総額に占めるクレジットカード決済の割合は1%にすぎません。

したがってビザ・ジャパンは、中小企業が抱える構造的な問題の解決に、ビジネス・クレジットカードが貢献する、と考えています。

もちろん、ビザ・ジャパンはクレジットカードの会社なので、中小企業にビジネス・クレジットカードをたくさん使わせたいのだろう、と邪推することはできますが、同社の問題提起には一定の合理性がありそうです。

中小企業の無駄とは

中小企業が抱える構造的な問題の1つに、恒常的に生み出される無駄があります。ビザ・ジャパンの調べでは、中小企業が事業間決済に費やしている人的・時間的コストは次のとおり。

<中小企業が事業間決済に費やしている人的・時間的コスト>

業務内容人的・時間的コスト (単位:月平均時間)
伝票・帳簿の入力8.5時間
月次報告書などの資料作成6.8時間
遅延先への督促・債権管理2.1時間
領収書の発行と送付3.1時間
顧客からの集金3.7時間
売掛金の消込3.7時間
請求書の作成と発送5.2時間
手許現金の管理4.5時間
振込や手形小切手の振出手続き3.0時間
受け取った請求書の内容の確認4.7時間
従業員の経費請求と精算5.2時間

中小企業の経営者や経理担当者のなかには「確かにこれくらいの時間はかかっている」と感じている人もいるのではないでしょうか。ビザ・ジャパンは、ビジネス・クレジットカードを使って事業間決済を行えば、この無駄の多くを解消できるだろうとしています。

クレジットカード事業間決済が中小企業にもたらした効果

ビザ・ジャパンは、ビジネス・クレジットカードを使った事業間決済が中小企業にもたらす効果を数字で示しています。

<ビジネス・クレジットカード事業間決済が中小企業にもたらす効果>
●クレジットカードを業務の決済手段に使っている中小企業の8割が、業務の削減効果を実感
●支払いのキャッシュレス化が進むと、月平均3.6時間の労働を削減できる
●公私の支払いの振りわけを自動でき月平均4.7時間の労働を削減できる

なぜこれだけの効果が、事業間決済のキャッシュレス化によって生まれるのでしょうか。

事業間決済のキャッシュレス化が中小企業にもたらすソリューションとは

企業にとっての事業間決済のキャッシュレス化は、お金まわりの事務作業のデジタル化に他なりません。

企業がデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるのは、事務作業を自動化したり、事務担当者の省人化を図ったりして、効率化や生産性の向上を実現するためです。

事業間決済のキャッシュレス化が進んでいないということは、その業務のデジタル化が遅れていることを意味し、生産性が低いということになります。これを解消するのが、事業間決済のキャッシュレス化が中小企業にもたらすソリューションです。

事業間決済のキャッシュレスのメリット

事業間決済をキャッシュレス化すると、次のようなメリットを期待することができます。

<中小企業が得られるメリット>
・公私の支払いの分離が明確になる
・キャッシュフローの管理が楽になる
・照合作業を効率化できる
・オンライン化で非対面、非接触を増やせる
・支出を見える化できる
・時間を削減できる

なぜビジネス・クレジットカードの利用で、これだけのメリットが得られるのか。

例えば、VISAのビジネス・クレジットカードには、決済と連動した電子請求書システムがあり、これを使えばすべての請求業務と支払業務をWeb上で完結できます。また、ビジネス・クレジットカードは利用者を限定できるので、支出管理がしやすくなります。

当然、すべての取引が電子データとして残るので、経理担当者は記録とチェックの作業から解放されます。

またビジネス・デビットを利用すれば、銀行口座の残高をすべて利用することができるので、高額な支払いが急遽必要になったときに現金を集められないといったことが起きません。

事業間決済のキャッシュレスのデメリット

事業間決済のキャッシュレスのデメリットは次のとおりです。

●コスト
●業務フローの変更による担当者の一時的な負担増

ビジネス・クレジットカードを決済に使えば、クレジットカード会社に手数料や利子などを支払わなければならず、コスト増になります。ただこのクレジットカード・コストは、事業間決済のキャッシュレス化によって人的・時間的コストが解消できるので相殺できます。

経営者が「これから業務上の決済にはビジネス・クレジットカードを使う」と決めると、従業員たちの業務フローが変わります。多くの労働者は、仕事内容が変わることを嫌うので、これは小さくないストレスになるでしょう。

しかしキャッシュレスは簡単な手続きが売りなので、担当者がビジネス・クレジットカードに慣れればそのストレスは次第に消えていきます。そして「もう前の方法に戻ることはできない」と感じる従業員も現れてくるでしょう。

総じて、デメリットは少ないといえるのではないでしょうか。

事業間決済を外注化する動き

クレジットカードを使ったキャッシュレス化以外にも、企業向けの決済サービスがあります。

東証マザーズ上場の株式会社ロボット・ペイメント(本社・東京都渋谷区)は、事業間決済サービスを企業に提供しています。つまりロボット・ペイメントは、事業間決済業務の外注先になっているわけです。

このサービスを利用すると企業の経理担当者は、請求、集金、消込、催促の作業を自動化できます。さらに、会計データを作成できるので、日々の経理業務も決算資料づくりも楽になるはずです。

企業間決済業務を外注すると、担当者の業務軽減だけでなく、売掛金回収率の向上や、内部統制の強化も期待できます。作業が自動化されるので、請求ステータス、決済ステータス、入金ステータスが明確になり、回収忘れや回収漏れのチェックが容易になるからです。

また各ステータスが明確になることによって、「なあなあ」な取引や「なあなあ」な関係がなくなり、内部統制が働くようになるでしょう。
どれも中小企業の事務作業の生産性向上に寄与するはずです。

まとめ~これこそDXの第一歩

事業間決済のキャッシュレス化が日本で進まないのは、日本人の現金信奉が背景にあると考えられます。経理担当者が代金の支払いや支払いの受け取りを銀行口座を使ってダイレクトに行うことは、「現金がちゃんと動いている」実感が得られて安心できます。

しかし、銀行口座間で現金を動かしているだけでは、デジタル化しているとはいえません。デジタル化が生産性向上をもたらすことは疑いようのない事実なので、事業間決済の非デジタル、つまり事業間決済の非キャッシュレスは無駄が多いと考えたほうがよいでしょう。

事業間決済のキャッシュレス化は、ビジネス界も政府も推奨しているデジタルトランスフォーメーション(DX)の確実な第一歩になります。