3大メガバンクは何を考えている?激動の時代をどう進むのか
●株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)
●株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)
●株式会社みずほフィナンシャルグループ(以下、MHFG)
この3つの会社は国からも3大メガバンクグループと呼ばれ、名実ともに日本を代表する銀行グループであり、バンク・オブ・バンクといえる存在です(※1)。
MUFGだけフィナンシャルとグループの間に「・」が入りますが、3社にはそれ以外にも違いがあります。企業規模もビジネスモデルも企業カラーもかなり異なります。
新型コロナのパンデミック、ヨーロッパでの戦争、米中貿易摩擦の長期化、世界同時株安と世界同時景気後退懸念――今は激動の時代といえます。
日本経済の牽引役となっている3大メガバンクグループの今を知ることは、多くのビジネスパーソンや経営者の参考になるはずです。
※1:https://www.fsa.go.jp/news/29/Report2017.pdf
3つを並べて比べてみる
1つひとつの個性を確認する前に、3社を並べて比較してみます(※2、3、4)。
※2:https://www.mufg.jp/dam/ir/report/security_report/pdf/yu_mufg21.pdf
※3:https://www.smfg.co.jp/investor/financial/yuho/2021_pdf/2021_fy_fg.pdf
※4:https://www.mizuho-fg.co.jp/investors/financial/report/yuho_202103/pdf/fg_fy.pdf
規模はMUがズバ抜けているが稼ぐ力は同等
銀行の会計は特殊な用語が使われていますが、ここでは一般的な経理用語である「売上高」「経常利益」「純利益」を用います。
以下はいずれも2020年度の連結決算の内容です。
2020年度 | 売上高(百万円) |
MUFG | 6,025,336 |
SMFG | 3,902,307 |
MHFG | 3,218,095 |
MUFGの売上高約6兆円はSMFGとMHFGの3兆円台をはるかにしのいでいます。日本最強の銀行はMUFGといえます。
ただ、別の数字を確認すると違った見方ができます。
2020年度 | 売上高(百万円)再掲 | 従業員(人) | 1人当たり売上高(百万円) |
MUFG | 6,025,336 | 138,161 | 44 |
SMFG | 3,902,307 | 86,781 | 45 |
MHFG | 3,218,095 | 54,492 | 59 |
従業員数はMUFGが138,161人、SMFGが86,781人、MHFGが54,492人と、こちらもMUFGが断トツですが、売上高を従業員数で割った1人当たり売上高は5,900万円/人のMHFGが光っています。そしてMUFGは4,400万円/人で3位になっています。
そしてさらに興味深いのが以下の数字です。
2020年度 (百万円) | 売上高(再掲) | 経常利益 | 経常利益÷売上高 | 純利益 | 純利益÷売上高 |
MUFG | 6,025,336 | 1,053,610 | 17% | 777,018 | 13% |
SMFG | 3,902,307 | 711,018 | 18% | 512,812 | 13% |
MHFG | 3,218,095 | 536,306 | 17% | 471,020 | 15% |
売上高に占める経常利益の割合はMUFG17%、SMFG18%、MHFG17%。売上高に占める純利益の割合は同13%、13%、15%。
3社で大きく違うわけではなく、稼ぐ力はあまり変わらないといえそうです。
このようなところに「横並び」がみられたのは意外な印象を与えるのではないでしょうか。
新型コロナの傷が浅いMUと深かったSMとMH
続いて、3社の経営が新型コロナ禍でどれくらい傷ついたのかみてみます。
売上高(百万円) | 2018年度 | 2020年度(再掲) | 2018年度比 |
MUFG | 6,697,402 | 6,025,336 | -10% |
SMFG | 4,804,428 | 3,902,307 | -19% |
MHFG | 3,925,649 | 3,218,095 | -18% |
最新の2020年度の売上高と、新型コロナ前の2018年度の売上高を比較すると、上記のようになりました(2022年5月現在)。
MUFGの2020年度の売上高は、2018年度比10%減で済みましたが、SMFGは19%減、MHFGは18%減となりました。SMFGとMHFGは新型コロナの被害をモロに受けた格好です。
MUFGの特徴
ここからは3社の特徴をみていきます。まずはMUFGからチェックしていきます(※2)。
銀行、信託銀行、証券、クレジットカード、貸金、リース、資産運用、その他
MUFGのビジネスは、三菱UFJ銀行の銀行業を筆頭に、信託銀行、証券、クレジットカード、貸金、リース、資産運用、その他になります。MUFGはこれらのビジネスを約300社の子会社やグループ会社で運営しています。
MUFGの事業セグメントと「やっていること」は次のとおりです。
●法人・リテール事業本部
国内の中堅企業、中小企業、個人へのサービス提供
●コーポレートバンキング事業本部
国内外の日系大企業へのサービス提供
●グローバルCIB事業本部
非日系大企業へのサービス提供
●グローバルコマーシャルバンキング事業本部
海外の出資先商業銀行へのサービス提供
●受託財産事業本部
国内外の投資家、運用会社などへのサービス提供
●市場事業本部
顧客に対する為替、資金、証券サービスの提供、市場取引・流動性・資金繰りの管理業務
●その他
3年計画のキーワードはDX、強靭性、エンゲージメント、そして脱炭素
MUFGは2021年度からの3年計画で、キーワードに1)デジタルトランスフォーメーション(DX)、2)強靭性、3)エンゲージメントの3つを据えました。
MUFGはあらゆる顧客にDXサービスを提供し、商品やサービスのデジタル化を進めていくとしています。
MUFGの社長は東京大学理学部数学科を卒業し同理学系修士課程を修了した理系の人で、デジタル事業に明るい人です。それでDXが1番に置かれているのでしょう。
MUFGは少子高齢化や人口減少、新型コロナ禍、異業種の金融事業への参入といった危機を通じ、金融機関としての健全性を確保しながらも、経営資源を自社の強みを発揮できる領域に重点配置していくことにしました。これが強靭性です。
そしてエンゲージメントは、顧客や社会が直面している変革にMUFGの従業員が共感して関与していくこと、と考えています。
また、カーボンニュートラル(脱炭素化)にも力を入れていて、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量ネットゼロという目標を掲げています。温室効果ガスを排出しないビジネスに投融資をしていきます。
モルガン・スタンレーとの関係
アメリカの名門投資銀行であるモルガン・スタンレーと深く提携していることは、MUFGの大きな特徴になります。
MUFGのCEOが公式サイトでわざわざ「モルガン・スタンレーの貢献利益の増加を主因に、親会社株主に帰属する中間純利益は前年同期比3,806億円増加の7,814億円となりました」と表明しているほどです(※5)。
MUFGは2021年3月末現在、モルガン・スタンレーの普通株式を20.2%保有し、同社に2人の取締役を派遣し、MUFG傘下には三菱UFJモルガン・スタンレー証券という会社があるくらいです。
MUFGはモルガン・スタンレーが持つ世界41カ国のネットワークを活用できます。ただ、外資との提携は簡単には進みません。
MUFGは「モルガン・スタンレーとの戦略的提携関係が解消された場合には、当社グループの事業戦略、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性がある」と考えています(※5)。
モルガン・スタンレーの経営が悪化すればMUFGも損失を被ります。
※5:https://www.mufg.jp/profile/message/index.html
SMFGの特徴
続いてSMFGの特徴を確認していきます(※3)。
資産運用に最も力を入れる
SMFGは2022年5月現在、2020年度からの3カ年の中期経営計画のなかにあります。この計画では次の7項目を重点戦略にしています。
1)資産運用ビジネスの成長
2)国内法人ビジネスの生産性向上
3)海外のCIBビジネスの高度化
4)決済・コンシューマーファイナンスビジネスでNo.1になる
5)グローバルベースでの資産効率の向上
6)アジア事業の強化
7)法人向けデジタルソリューション
7つを並べてみましたが、このようなものには大抵、順番に意味があります。すなわちSMFGは今、1)資産運用ビジネスの成長に最も力を入れていると考えてよいでしょう。
その証拠に、資産運用ビジネスに関与するリテール事業部門には従業員が31,285人いて、これは全従業員86,781人の36%にもなります。
SMFGは「リテール事業部門において、デジタル技術の活用や大口富裕層への対応力強化などを通じて資産運用ビジネスの収益性を高めるとともに、決済・コンシューマーファイナンスビジネスにおけるシェア拡大及び収益力の向上に努める」と述べています。
つまずき
3大メガバンクグループの公式サイトには、すべてCEOの挨拶文が掲載されていますがSMFGは異例の内容になっています。その一部は以下のとおりです(※6)。

出典:SMFGの公式サイト
SMFGの証券事業の要となるSMBC日興証券の役員らが金融商品取引法違反の疑いで逮捕・起訴され、同社も法人として起訴されたことを詫びています。
3大メガバンクグループに限ったことではありませんが、しかし3大の一角を担う金融機関ではなおさらのこと、このような事件を起こすことは許されません。
しかし、このようなつまずきをフィナンシャルグループの公式サイトでトップ自ら謝罪している点は評価できると思います。
ちなみに次に紹介するMHFGは、社会問題といえる規模のシステム障害を何度も起こしていますが、公式サイトのCEOの挨拶ページではそのことに触れていません(※7、8)。
もちろん犯罪(疑い)と社会問題という違いはありますが、それでもSMFGのCEOの詫びには誠意を感じる人が多いのではないでしょうか。
※6:https://www.smfg.co.jp/company/message.html
※7:https://www.mizuho-fg.co.jp/company/t_message/fg_message.html
※8:https://www.mizuho-fg.co.jp/company/t_message/bk_message.html
MHFGの特徴
最後にMHFGの特徴をみていきましょう(※4)。
システム障害対応推進委員会を設置
先ほど「MHFGのCEOの挨拶のページでシステム障害について触れていない」と紹介しましたが、同社がシステム対策を行っていないわけではありません。2021年3月期の有価証券報告書には「対処すべき課題」として、システム障害の原因究明・再発防止への取り組みを挙げています(※4)。
そこで、MHFG社長とみずほ銀行頭取を委員長とするシステム障害対応推進委員会を設置したことを報告しています。さらに社外取締役だけで構成するシステム障害対応検証委員会もあります。
特徴が薄い?
MHFGは2022年5月現在、2019年度からの5カ年経営計画のなかにあり、そこでは次の3つを重点取り組み領域としています。
■5カ年計画における3つの重点取り組み領域
1)ビジネス構造の改革
2)財務構造の改革
3)経営基盤の改革
2)と3)は主に社内向けのものといえます。3大重点領域のうち2つが内向きの内容になっているのは気になるところですが、ここでは1)ビジネス構造の改革に着目します。
MHFGが改革するビジネスは次の9項目です。
■ビジネス構造改革、9項目
●人生100年時代のための資産形成のサポート
●事業承継ニーズへのソリューション
●コンサルティング中心の店舗展開
●テクノロジーの活用とオープンな協業
●イノベーション企業への資金供給
●事業リスクをシェアするパートナーシップの構築
●アジア事業の強化
●「投資家と投資家」「発行体と投資家」をつなぐ多様な仲介機能の発揮
●ALM(資産・負債の総合管理)ポートフォリオ運営の高度化
MUFGにはDX、SMFGには資産運用といった一丁目一番地がありましたが、これをみるとMHFGにはそのようなものが見当たらないと感じるのではないでしょうか。
1番目に置かれた人生100年時代のための資産形成のサポートは、個人の顧客を大切にするという意気込みなのかもしれませんが、しかしこれだけではどの顧客層をターゲットにしているのかわかりません。
2番目の事業承継ニーズへのソリューションは、信用金庫も同様の事業を行っていて、3大メガバンクグループらしいという印象は薄いでしょう。
しかしこれがMHFGの狙いなのかもしれません。
大上段に大きなビジネスを構えるのではなく、市井の人々に寄り添う金融機関を目指している、ということなのでしょう。
MHFG社長は「私どもは2021年5月、営業店を個人と法人のお客さま別の体制に再編し、お客さま固有のニーズに今まで以上に専門的にお応えする体制を整えました」と述べています(※9)。
まとめ~1,000万円選手がどう日本経済を牽引するか
3社の平均年間給与は以下のとおりです。
●MUFG、10,707,000円(平均年齢41.1歳)
●SMFG、11,424,000円(平均年齢40.0歳)
●MHFG、9,934,000円(平均年齢41.4歳)
3社とも40代で年収が1,000万円に到達します。
日本で1,000万円ビジネスパーソンは高給取りの部類に入るでしょう。そして3大メガバンクグループの社員でもあるので間違いなくエリートです。金融業は経済の血管であり、3大メガバンクグループは大動脈といえます。
日本経済を牽引していってもらいたいものです。