3つの政府系金融機関はコロナ禍の企業をどう支えているのか?
政府系金融機関は、公益性が高い金融ニーズがありながら、民間の金融機関が対応しにくい案件において、融資や投資や保証などを行います。そんな中、パニック級の金融ニーズの急激な高まりをもたらした新型コロナウイルス感染拡大(以下、コロナ禍)で、政府系金融機関の存在感が増しています。
この記事では、日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、商工組合中央金庫の3つの政府系金融機関の「活躍ぶり」を紹介します。
日本政策金融公庫は無利子・無担保で中小企業などを支援
日本政策金融公庫は、主に中小企業や小規模事業者、農林漁業者向けに事業資金融資を行う政府系金融機関です。
日本政策金融公庫のコロナ禍対策では、実質無利子・無担保融資が2020年12月末までに約74万件に達しましたが、その約半数は新規融資でした。コロナ禍という未曽有の経済危機に直面して、初めて日本政策金融公庫を頼ることにした事業者が増えていることを物語っています。
日本政策金融公庫の総裁も、マスコミの取材に対し「民間金融機関が既存の融資先を支援して、日本政策金融公庫が新規を担うという役割分担ができた」と、自己評価しています(*1)。
公庫の具体的な支援策
日本政策金融公庫の具体的な支援策をいくつかみていきましょう(*2)。
「新型コロナウイルス感染症特別貸付」は、従来の実質無利子・無担保融資を拡充した内容になっています。
まず、中小企業向けの融資額の上限を、2億円から3億円に拡大しました。さらに、従来は直近1カ月の売上高の減少幅を融資の基準にしていましたが、それを直近2週間以上の減少幅に緩和しました。これにより、急激に売上が落ち込んだ中小企業などをスピーディに支援できるようになりました。
「資本性劣後ローン」は、中小機構が出資する投資ファンドの出資を受けている中小事業者などに対し、1社あたり最大7億2,000万円を融資する内容となっています。貸付利率は、当初3年間は0.5%という低利です。
劣後ローンは返済順位が低いため(劣後しているため)、融資を受けた企業が倒産したとき返済されない可能性が高くなり、そのため「資本に近い負債」と呼ばれ「企業にとって有利な借金」とみなすことができます。
コロナ禍対策で劣後ローンという手法を使う意義について日本政策金融公庫は「民間金融機関がリスクを負いきれないとき、公庫が劣後ローンで中小企業などを支える」としています。
(※2)新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者の皆様へ
日本政策投資銀行は未来志向でリーマン時より手厚く支援
日本政策投資銀行は、出資、融資、債務保証などの金融技術を使って、大企業や中堅企業を長期に支援する政府系金融機関です。
コロナ禍で日本政策投資銀行は、危機対応融資を積極的に行い、2020年9月までの半年間の融資額は計2兆円に達しました(*3)。これは2008年のリーマンショック時の1.4倍に当たる額です。
日本政策投資銀行の社長は「民間金融機関との協調融資を原則として、資金を行き渡りやすくした」と、危機感を持ってこの難局に立ち向かったことを強調しています(*4)。
日本政策投資銀行 新型コロナ「危機対応融資」半年間で2兆円超
アフターコロナも見据えている
そして日本政策投資銀行は、アフターコロナも見据えています。
コロナ禍は企業にとって、新事業創出のチャンスにもなります。日本政策投資銀行に相談する企業のなかには、ビジネスモデルを変革するための資金を求める声も増えているといいます。
日本政策投資銀行が取り組んでいる具体的なコロナ禍対策として、「中堅・大企業向け危機対応」を紹介します(*5)。
最近1カ月の売上高か、過去6カ月の平均売上高が、前3年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少している中堅・大企業に対し、限度額無制限で融資します。さらに、中堅企業に対して、当初3年間は通常金利より0.5%下げて融資します。そして、この中堅・大企業向け危機対応でも、一部で劣後ローンを使っています。
(※4)政府系3機関、苦境の企業支える(※5)新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者の皆様へ
商工組合中央金庫は一部で金利0%を実施
商工組合中央金庫は、中小企業と中小企業組合に対し、経営支援総合金融サービスを提供している政府系金融機関です。
コロナ禍対策として商工組合中央金庫は、「新型コロナウイルス感染症に関する特別相談窓口」を開設し、中小企業の経営者などからの相談を受け付けています。
商工組合中央金庫も「新型コロナウイルス感染症特別貸付」という名称の特別融資を行っています。コロナ禍で売上が5%以上減った中小企業に対し、最大20億円の運転資金融資または設備資金融資を行います(*6)。また、一定条件を満たすと、3億円を限度として当初3年間の利子を0%にします。
こうした心強い内容から、商工組合中央金庫のコロナ禍での危機対応融資は約2兆円に達しました。
まとめ~セーフティネットとしての存在感増す
3つの政府系金融機関の、コロナ禍対策を紹介しました。
多くの企業はコロナ禍によって厳しい資金繰りを強いられています。コロナ禍による経済危機は世界規模で同時多発的に起きているので、企業には逃げ場がありません。また、この経済危機の犯人は「見えざる敵」なので、根本的な解決策はすぐにはみつかりません。
コロナ対策では、政府、行政機関、日本銀行がフル稼働で支援策を打ち出していて、政府系金融機関はその実行部隊になります。企業は、この強固なセーフティネットを有効に活用して、目先の対策とアフターコロナを見据えた戦略を練っていきたいものです。