決済関連

デジタル証券は新たな投資資産になることができるのか?

個人投資家のなかに「デジタル証券に投資している」という方はどれだけいるでしょうか。「何それ?」と感じる人のほうが多いのではないでしょうか。

知らないのは仕方のないことで、デジタル証券は2020年に、金融商品取引法が改正されて有価証券になったばかりです(※1)。

有価証券とは、株式や国債、社債などのそれ自体に財産的価値を持つもののことで、値上がりしたり値下がりしたりするので投資対象になります。デジタル証券は有価証券がデジタル化したものです。この「正体」について解説します。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD076G70X00C22A2000000/

何がデジタル証券なのか

何をもってデジタル証券なのか、は少し難しい話になります。

例えば株式という証券は、かつては株券という紙でできたものでした。それが2004年に株券の電子化が法律で定められ、株式を保有することで発生する株主の権利は、証券保管振替機構(通称、ほふり)と証券会社などの口座で電子的に管理されることになりました。2009年からは、紙製の株券は無効になっています(※2)。

したがって現代の株式も、すでにかなりデジタル化されているのですが、これは「デジタル証券」ではありません。

では何がデジタル証券なのかというと、金融商品取引法第2条で定められた「電子記録移転権利」のことであり「セキュリティトークン」このことです(※3、4)。

そしてデジタル証券には、ほふりが管理しているシステムとは別に発行、管理された有価証券という性質もあります。

※2:https://www.jsda.or.jp/shijyo/minasama/kessai/index.html
※3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025
※4:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/12671.pdf

難しく考えないで「デジタル証券も有価証券」

デジタル証券を難しく感じたら、「デジタル証券も有価証券の一種なので、要するに株式みたいなもの」と単純化して考えてもよいでしょう。

なぜ企業は株式という有価証券を発行するのか。それは、株式を買ってもらうことで、資金を調達できるからです。企業は株式を売って得た資金で投資をして事業を行います。

ではなぜ企業はデジタル証券という有価証券を発行するのでしょうか。これも、デジタル証券を買ってもらうことで、資金を調達できるからです。

「何かを売って資金を得る」ツールという点では、株式もデジタル証券も同じ。デジタル証券への投資やデジタル証券の取引も、株式投資や株式取引と同じです。

上場企業の株式は、証券取引所で売ったり買ったりすることができます。そして株式の価格は、株式市場という市場で常に変化します。株式の値段が上がったり下がったりするのは、株式市場での評価が上がったり下がったりするからです。

投資家は、値段が下がったときに株式を買って、値段が上がったときに保有している株式を売れば利益が出ます。また株式を売らなくても、株式を発行している会社が配当金を支払えば、株式保有者(投資家)は利益を得ることができます。

これと同じことがデジタル証券でも起きます。

ただ現在(記事執筆2022年3月)はまだ、株式の東京証券取引所に該当する、デジタル証券のデジタル証券取引所が日本にありません。そのため日本ではまだデジタル証券は、株式のように簡単に売ったり買ったりすることはできません。

しかし、デジタル証券という金融商品はすでに売りに出ているので、しかも先述のとおり法律上も有価証券になったので「れっきとした」投資対象になっています。

ブロックチェーンの技術を使う

デジタル証券がデジタルな所以(ゆえん)は、ブロックチェーンの技術を使っている点です。

デジタル証券の権利内容はトークンに記録され、ブロックチェーンで管理されます。一方、一般的な株式では、権利内容はほふりや証券会社などが管理しています。

トークンは「電子的な証票」のことで、「デジタルなお金」や「デジタルな株式」と考えてもよいでしょう。つまり、トークンを売って、円やドルなどの法定通貨を得ることができます。ビットコインなどの暗号資産もトークンです。

トークンは「電子的な」という名称のとおり、コンピュータ上のデータとして存在していますが、そのコンピュータが特殊な形態をしていて、それをブロックチェーンといいます。

ブロックチェーンの構造は複雑ですが、単純に、複数のコンピュータで取引履歴を管理するコンピュータ技術、と理解してもよいでしょう。

例えば、A銀行で入金したり出金したり振り込んだりすると、その取引履歴はA銀行の1台のコンピュータ(サーバー)で管理されます。しかしブロックチェーンは、複数のコンピュータで管理し、それぞれのコンピュータはネットワークでつながっています。

野村総研のデジタル証券

より具体的にデジタル証券の正体をとらえていきます。

野村総合研究所は2020年3月に、日本で初めてデジタルアセット債とデジタル債を発行した、と公表しました(※5)。日本初のデジタル証券タイプの社債といえます。

デジタルアセット債もデジタル債も社債で、どちらもブロックチェーンを利用して管理、運営しているのでデジタル証券です。

社債とは、企業が資金調達を目的として発行する債券のことで、社債を購入した人は企業から利息を得ることができ、さらに満期日になると社債を買ったときと同じ金額が払い戻されます。

したがって企業は、社債を発行すると利息の分だけ損することになりますが、一気に現金を手にすることができるので、それを資金にして投資することができます。つまり社債とは、企業が社債を買ってくれる人(投資家)からお金を借りる仕組みです。

野室総合研究所のデジタルアセット債もデジタル債も社債なので、投資家からお金を借りるツールであることには変わりありません。

ではデジタルアセット債とデジタル債は、どこがデジタルなのでしょうか。その特徴は以下のとおりです。

■デジタルアセット債のデジタルな特徴
●社債発行の手続きにおいて、アプリを利用した自己募集形態を採用した
●利息の支払いを金銭(円)ではなくデジタルアセットにした(社債を購入した投資家はデジタルアセットを得る)
●社債原簿と利息(デジタルアセット)を、ブロックチェーン技術を活用して管理し、事務負担の簡素化を図った

デジタルアセットとは、資産価値のあるデジタルデータのことで、例えば暗号資産がそれに該当します。

■デジタル債のデジタルな特徴
●証券引受形態を採用している点がデジタルアセット債と異なる
●利息が金銭(円)である点がデジタルアセット債と異なる

証券引受形態とは、証券会社が有価証券を取得して売買する形態のことです。

ここでは野村證券が引受会社となり、デジタル債の売買を取り仕切ります。証券引受形態を取ることで、デジタル債の売買がしやすくなり、つまり投資対象になりやすくなります。

ちなみにデジタルアセット債もデジタル債も、利息は年0.5974%でした。ただすでに販売は終了しています。

※5:https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/0330_1

投資家はデジタル証券をどこで買うのか

野村総合研究所以外もデジタル証券を売っています。投資家はこれらを買うことで「デジタル証券投資」を始めることができます。

例えばSBI証券は、「不動産のデジタル証券~神戸六甲アイランドDC~(譲渡制限付)」という不動産のデジタル証券を販売していました(※6)。

この実態は不動産投資で、これはそのデジタル化といえます。

投資対象になるのは神戸市にある「六甲アイランドDC(ディストリビューション・センター)」という食品用の倉庫です。

「不動産のデジタル証券~神戸六甲アイランドDC~(譲渡制限付)」を運用するアセット・マネージャーは三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社です。この商品の予想配当利回りは年率3.18%または3.19%でした。

野村総合研究所のデジタルアセット債とデジタル債の年率が0.5974%だったので、それよりはかなり有利です。ただしどちらも元本を保証したものではなく、下落リスクもあります。

これは通常の投資と同じです。

※6:https://www.sbisec.co.jp/ETGate/?_ControlID=WPLETmgR001Control&_DataStoreID=DSWPLETmgR001Control&burl=search_home&cat1=home&cat2=st&dir=st%2F&file=home_st_products_01_02.html

簡単に買える状況ではない

このデジタル証券「不動産のデジタル証券~神戸六甲アイランドDC~(譲渡制限付)」はすでに完売していて、さらに2022年3月現在、SBI証券はその他のデジタル証券を販売していません(※7)。まだ日本では、簡単にデジタル証券が買える状態にはなっていません。

※7:https://www.sbisec.co.jp/ETGate/?_ControlID=WPLETmgR001Control&_DataStoreID=DSWPLETmgR001Control&burl=search_home&cat1=home&cat2=st&dir=st%2F&file=home_st_products_01.html&getFlg=on&OutSide=on

まとめに代えて~デジタル証券取引所の設立がカギ

日本にもデジタル証券取引所をつくる動きがあります。

SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループなどは私設取引所を運営する、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社という会社を設立しました。ここでデジタル証券が取引される予定です(※8)。

このような民間金融機関の動きが活発化すれば、デジタル証券の売買がしやすくなるので販売されるデジタル証券の数も増えるでしょう。そうなれば株式や社債のように、投資家にとって魅力的な投資資産になるはずです。

ただそのような状態になるには、もう少し時間がかかりそうです。

※8:https://www.odx.co.jp/corporate/about/