金融業界の環境問題への取り組みが本気モードに入ったか?
金融業界の環境問題対策が本格化しています。
三井住友フィナンシャルグループは、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭火力発電事業への投融資を縮小することを表明していましたが、さらにギヤを1段あげて縮小スピードを加速させています。
世界に目を向けても、投資マネーは脱炭素の流れを強めています。金融機関の動向や投資マネーの動きは企業の経営に影響を与えるので、すべての企業がこの流れをしっかり見極めて、環境対策やCO2削減策に取り組むことになるでしょう。
日本の3メガバンクの脱石炭発電の取り組み
三井住友だけでなく、三菱UFJフィナンシャル・グループや、みずほフィナンシャルグループも”脱石炭火力発電”にシフトしています。
3大メガバンクの取り組みを紹介します。
三井住友は脱石炭火力発電を加速
銀行が、石炭火力発電所をつくる電力会社に投資や融資をすると、それは間接的に石炭火力発電所の増加とCO2の増加に手を貸していることになります。石炭火力発電は、環境問題では「悪者」とされているので、このままでは銀行も汚名を着せられることになります(*1)。
三井住友は2021年3月、新設の石炭火力発電所への投資と融資をやめる検討に入りました(*1)。ポイントは、明確に「やめる」方向に舵を切ったことです。
三井住友は以前から、石炭火力発電所への投融資を「原則」やめるとしていました。しかし「原則やめる」は「例外的に行う」と解釈できてしまうので、脱石炭発電の取り組みはそれほど強いものとはいえませんでした。そこで三井住友は方針から「原則」を落とすことを検討し始めたわけです。
ただ、新設の石炭火力発電所への投融資をやめるということは、稼働中の石炭火力発電所を持っている電力会社への投融資をやめることを意味していません。
しかし、電力会社はそれでもなお、資金繰りに困ったときに銀行の融資が受けられないと困るので「石炭火力発電所の新設はやめよう」という方向に動きやすくなります。
(※1)石炭火力縮小、現実路線の日本はなぜ批判されるのか
(※2)石炭火力への新規投融資、三井住友FGが停止を検討
三菱UFJとみずほも同様の取り組み
三菱UFJは2020年、石炭火力発電所向けの融資の残高を、2040年度をめどにゼロ円にすると宣言しています(*3)。三菱UFJの石炭火力発電所向け融資の残高は、2019年度末に約36億ドルあったので、これは大きな決断といえます。
みずほも、石炭火力発電所向けの投融資に加えて、資金の借り換えにも応じないとしています(*4)。みずほは、石炭火力発電所向けの融資残高ゼロを2050年度までに達成するとしていますが、2040年度に前倒しできる可能性を示しています(*4、5)。
(※3)40年度に石炭火力融資残高ゼロ 三菱UFJが目標、3メガそろう
(※4)MUFG:40年度に石炭火力向け融資残高ゼロ、見通し明示へ-関係者
(※5)みずほ、石炭火力の新規融資の残高、2050年度までにゼロに
身を削る行為
融資とはお金を貸すことです。したがって、3大メガバンクの石炭火力発電対策といっても「お金を貸さないだけ」と映るかもしれません。
しかし、メガバンクにとってこの決断はとても大きなものです。なぜなら、銀行は、お金を貸して、利子をつけて返済してもらうことで利益をあげているからです。しかも、石炭火力発電所を新設するには多額の資金が必要なので、電力会社向け融資は銀行にとって「ドル箱」になっています。
つまり、銀行の脱石炭火力発電の取り組みは、稼げるのに稼がないことに等しい行為といえます。
例えば、みずほなら脱石炭火力発電対策を取ることで、2050年までに1,200億~3,100億円のコストがかかると見込んでいます(*5)。それは売上高や利益を強く押し下げます。3大メガバンクの脱石炭火力発電対策は、身を削る取り組みです。
石炭火力発電のCO2はどれほど深刻なのか
石炭火力発電が「悪者」であることは、国際社会では常識になっています。
もちろん、最新の高効率化した省エネタイプの石炭火力発電所は、従来の低効率の石炭火力発電所よりは環境に配慮しているといえます。したがって、日本政府も世界的に石炭火力発電をやめる動きが活発化していることを承知しながら、必要な分だけ石炭火力発電に頼るとしています(*6)。
石炭火力発電がやり玉にあがるのは、CO2の排出がそのほかの発電方法より圧倒的に多いからです。
石炭火力発電で1kWhの電力をつくるときに発生するCO2の量は、発電燃料燃焼分だけで864gになります(*7)。石油火力発電のCO2排出量は695gで、石炭火力発電より19.6%も少ない量です。
天然ガス火力発電のCO2排出量は476gで、石炭火力発電より44.9%も少ない量です。さらに、太陽光発電、風力発電、原子力発電については0gです。いずれも発電燃料燃焼分だけで測定した場合です。
(※6)なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?
(※7)発生する二酸化炭素量
「どのようなマインド」で環境対策に臨んでいるのか
3大メガバンクはなぜ、身を削ることになっても、大きなビジネスチャンスを失うことになっても、環境対策に取り組んでいるのでしょうか。その理由の1つは、ビジネスになるから。
三菱UFJは、再生可能エネルギーによる発電や水素発電などの普及を目指し、1,000億円規模のファンドを設立します(*8)。将来的には1兆円規模にまで増やす予定です。
ファンドとは投資をしてリターンを得るビジネスなので、三菱UFJは環境対策には1兆円の「ビジネス・ポテンシャル」があると見込んでいるわけです。三菱UFJ銀行の担当者は「この分野に金融機関が資金を投入するのは世界的な流れ。ビジネスチャンスの側面をしっかりとらえたい」とコメントしています(*8)。
(※8)脱炭素の電力普及へ 1000億円規模のファンド設立 三菱UFJ銀行
世界の投資マネーも脱炭素の流れ
お金を脱炭素(脱温暖化ガス)事業に流すトレンドは、世界でも顕著です。
NHKによると、世界の資産運用会社は2050年までに、温暖化ガス排出ゼロ・ビジネスに、約2,000兆円を投じるだろう、と報じています(*9)。約2,000兆円は、世界全体の投資マネーの2割に相当します。
これが意味することは、どの企業も、温暖化ガス排出削減に消極的では、経営に悪影響を及ぼす、ということです。
(※9)世界の投資マネー、2割が脱炭素へ 投資先の選別厳しく
まとめ~金融機関の本気度は伝染する
お金は経済の血液です。血液が届かないと細胞が死ぬように、お金が途絶えると企業は倒産してしまいます。その為、お金を流している金融機関は、経済の心臓のような存在です。
その金融機関が「環境対策に熱心に取り組む企業にお金を流す」「環境対策に無関心な企業にお金を流さない」といっています。3大メガバンクや世界の投資マネーの環境意識は、さまざまな企業に伝染していくはずです。