進化する地銀の企業支援ビジネス!DX化やベンチャーを助ける
地方銀行の存在意義は地方経済を発展させることにあります。
大和総研は「地方銀行は、それぞれの地域に密着した金融サービスを提供しており、地元企業の活動や住民の生活に欠かせない存在」と指摘しています(※1)。
そして地方経済を発展させるには地場の企業を強くする必要があるので、地方銀行が地域密着の金融サービスを強化することは重要業務になります。しかし最近の地方銀行による企業支援は、単にお金の工面にとどまりません。
中小企業のデジタル化を後押ししたり、ベンチャー企業を支援したりしています。
地方銀行の進化した企業支援ビジネスをみていきましょう。
※1:https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/financial/regionalbank/20170307_011800.pdf
地銀がマネーフォワードと連携して「中小企業の業務をデジタル化」
株式会社マネーフォワード(本社・東京都港区)は、クラウドで(インターネット経由で)企業に会計業務や経理業務のシステムを提供しているネット企業です。
そのマネーフォワードと19の地方金融機関が、中小企業の業務のデジタル化を支援するサービスを始めます(※2)。
<マネーフォワードと連携する19の金融機関(50音順)>
●池田泉州銀行●伊予銀行●群馬銀行●佐賀銀行●四国銀行●静岡銀行●常陽銀行●第四北越銀行●多摩信用金庫●千葉興業銀行●中国銀行●徳島大正銀行●富山第一銀行●長野銀行●西日本シティ銀行●八十二銀行●ひろぎんホールディングス●福邦銀行●横浜信用金庫
新サービスは「DXF」といい、この名称からデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のサービスであることがわかります。DXとはITやインターネットなどを駆使してイノベーションを起こしていく取り組みのことです。
※2:https://corp.moneyforward.com/news/release/service/20220224-mf-press-2/
DX化したい中小企業とDX化させてあげられない地方金融機関
マネーフォワードがDXF事業に乗り出したのは、地方の中小企業と地方金融機関だけでは解決できない問題があったからです。
企業の業務や事務をデジタル化、IT化、インターネット化するDX化は、仕事の効率を高めて生産性を上げることができることから、厳しい経営環境に置かれている地方の中小企業ほど必要とされています。新規事業を立ち上げるのにもDX化は欠かせません。
しかし地方にはIT人材が少なく、その結果、地方の中小企業はIT人材を雇用することができません。
それで地方金融機関には、地元の中小企業からDX化に関する相談が多く寄せられているといいます(※2)。
ところが地方の中小企業に起きていることが、地方金融機関にも起きています。つまり地方金融機関も自社のDX化が進んでいない状態であり、中小企業のDX化を手伝うことができません。
そこでDXのノウハウを持つマネーフォワードが力を貸すことにしました。
DXF事業は、マネーフォワードが地方金融機関にDXのツールを提供し、地方金融機関が中小企業のDX化を手伝うスキームになっています。
DXFの概念図
マネーフォワード →
DXツールを提供 地方金融機関 →
DX化を手伝う 中小企業
DXを導入
DXFで提供するDXとは
DXFで提供されるDXは次のとおりです。つまり中小企業は、DXFを活用することで以下のようなデジタル技術を導入することができます。
<DXFで提供されるDX>
●コミュニケーション・ツール
●ワークフロー管理システム
●タスク管理システム
●勤怠管理システム
●スケジュール管理システム
●社員名簿管理システム
DXF事業のポイントは、「マネーフォワード→地方金融機関→地方の中小企業」という順番で進んでいくところです。
ではなぜマネーフォワードは、自社で直接、地方の中小企業に上記のDXツールを提供しないのでしょうか。なぜ地方金融機関を経由させているのでしょうか。
マネーフォワードは全国展開を視野に入れている
マネーフォワードはDXF事業の狙いについて次のように述べています(※2)。
<マネーフォワードのDXF事業の狙い>
当社は、顧客である中小企業のDXを支援する全国の地方金融機関とのDXFに関する連携の拡大を進めていくとともに、DXFをはじめとした「マネーフォワードFintechプラットフォーム」のプロダクトの拡充により、地域金融機関が顧客である中小企業に向けてワンストップで幅広い経営支援を構築できる仕組みづくりを進めてまいります
マネーフォワードは中小企業のDX化支援事業の全国展開を考えています。そしてDXFは、さらに大きな事業である「マネーフォワードFintechプラットフォーム」の一部にすぎません。
大きな事業を全国展開するには、すべて自前で準備するよりも地方金融機関とタッグを組んだほうが効率がよいわけです。
地方金融機関と地方の中小企業のメリットは
DXF事業は地方金融機関にもメリットがあります。
地方金融機関が中小企業のDX化を手伝えば、中小企業の経営が見える化されるので与信管理がしやすくなります。
また、中小企業がデジタル化に慣れれば、地方金融機関が展開するネットバンキングを利用してもらいやすくなります。ネットバンキングはコスト安に金融サービスを提供できるので、ネットバンキングの利用が増えれば地方金融機関の生産性が上がります。
そして地方の中小企業は、DXFによって早く安くDXツールを入手でき、業務の効率化を進めていくことができます。
福岡銀行、西日本シティ銀行は大学発ベンチャーを支援
地方経済がなかなか盛り上がらない原因の1つに、シーズやソースが乏しいことがあります。つまり東京や大阪や名古屋には「儲かるビジネスの種」がたくさんありますが、地方にはそれがありません。
種(ビジネス・シーズやソース)がないところに水や肥料(マネーや人材)をまいても芽が出ることはありません。
しかし日本の地方には優秀な大学がいくつもあり、そこが持っている治験や技術は「儲かるビジネスの種」になる可能性があります。
大学発ベンチャーを支援することは、大学が持つビジネスの種に水や肥料をまくことになります。これに力を入れているのが九州の地方銀行である、福岡銀行と西日本シティ銀行です。
九州・大学発ベンチャー振興会議への参加
九州大学や九州経済連合会などは2017年に、九州・大学発ベンチャー振興会議を立ち上げました(※3)。
同会議の目的は、大学と経済界とベンチャーキャピタル(投資会社)の3者をつなぐことです。大学が発明やアイデアを使ってベンチャー企業をつくり、経済界が経営支援を行い、ベンチャーキャピタルが投資をしたり株式公開を支援したりします。
同会議のメンバーは、九州大学、九州工業大学、佐賀大学、長崎大学、熊本大学、大分大学、宮崎大学、鹿児島大学、琉球大学、福岡工業大学、久留米大学、福岡大学の学長の他、西日本シティ銀行と福岡銀行の幹部、TOTO、トヨタ自動車九州、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングなどの経営陣らとなっています。
同会議から2018年に、九州大学の農学部教授と工学部教授たちが立ち上げたKAICO株式会社が生まれました。同社はカイコを使った遺伝子研究を手がけていて、新型コロナウイルス向けのワクチンを開発しています(※4)。
2021年までの実績は、KAICOを含む10社が創業し、そのうち7社が資金調達に成功しました。
※3:https://www.kyukeiren.or.jp/files/release/170215155219432.pdf
※4:https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/5_discassant2.pdf
九州オープンイノベーションセンターへの参加
一般財団法人九州イノベーションセンターは、自らを「将来目指すべき機能特化型支援機関の連携体」と位置づけています(※5)。要するに、九州地方のビジネスに関係するあらゆる法人、機関、大学が連携して地元経済を振興させていく組織です。
同センターの業務の3本柱は、イノベーション支援、産業技術振興支援、新事業創出支援です。この業務のなかに大学発ベンチャーの育成も含まれていて、先ほど紹介した九州・大学発ベンチャー振興会議とも連携しています。
イメージとしては、九州・大学発ベンチャー振興会議がベンチャー企業を生んで育てて、九州イノベーションセンターが成長を支える、といった内容になります。
同センターの支援の特徴は、ビジネスに直結していることです。例えば、企業のDX化を支援して生産性向上を図ったり、広告や市場調査を手伝ったり、流通や営業の効率化をサポートしたりします。
同センターのメンバーには、福岡銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループと西日本シティ銀行のそれぞれの執行役員が名を連ねています。
※5:https://www.koic.or.jp/outline/
まとめ~地方銀行にとっては生き残り策でもある
超低金利の長期化は地方に限らず国内すべての金融機関にとって氷河期を意味しますが、海外に打って出ることができるメガバンクと異なり、地方銀行は稼ぎにくい国内で商売していくしかありません。しかもその国内は、少子高齢化による構造的な経済低迷に見舞われています。
したがって地方銀行などの地方金融機関は、地方経済を活性化させることでしか生き残ることができません。しかしそれは悲観することではなく、国も国民もそして地域経済も地方銀行などを頼りにしています。
ここで紹介した地方銀行などが、地方の中小企業やベンチャー企業への支援を高度化させているのは、地域振興のためだけでなく、自らの生き残り策も兼ねているわけです。