進化するクラファン「株式投資型」は資金の集め方を変えるのか?

クラウドファンディングはもちろんビジネスツールなのですが、それでも「善意のお金を集めて夢をかなえる」といった非ビジネス要素もあります。

ところが最近、ビジネス色が強くなる傾向がみられます。その一例が、株式投資型クラウドファンディングの規制緩和です。投資額の上限を年間50万円にするルールが撤廃され、条件はあるものの無制限となりました。

ビジネスに必要な資金の新たな集め方として注目されている新クラウドファンディングを紹介します。

規制緩和された株式投資型クラウドファンディングとは

インターネット上に公開されているクラウドファンディングの案件をみると、個人が「キャンプ用の寝袋をつくりたいので資金応援お願いします」と呼びかけるといった、ほのぼのしたものが散見されます。

しかし株式投資型クラウドファンディングには、そのようなほのぼの性はなく、金融商品取引法の規制対象になります。

そして、株式投資型クラウドファンディングの規制が緩和され、つまり投資家が投資しやすくなるのでマネーが集まりやすくなり、ますますビジネス色が強くなります。

非上場株式を発行してリスクマネーを呼び込む

株式投資型クラウドファンディングが解禁になったのは2015年。この時点では投資額の上限が50万円でした。そして2022年、金融商品取引業等に関する改正内閣府令によって、特定投資家になれば、無制限に投資できるようになりました。

特定投資家はいわばプロの投資家です。証券会社に申請するなどして審査に合格すれば特定投資家となり、一般投資家より幅広く投資ができるようになります。

特定投資家になるには、投資歴を1年以上持ち、次の3条件のいずれかを満たす必要があります。

■特定投資家になる条件(いずれか1つを満たすこと)
●純資産1億円以上
●有価証券などの資産1億円以上
●年収1,000万円以上

株式投資型クラウドファンディングの仕組みはこうです。

株式投資型クラウドファンディング業者が上場していない企業の株式(非上場株式)を販売し、それを特定投資家などが買います。非上場企業が上場すればその株式は値上がりするはずなので、そのとき特定投資家などが保有している株式を売却すれば利益が得られます。

これまで投資額に上限が設けられていたのは、非上場企業は一般的に上場企業より破綻リスクが大きく投資リスクが高すぎるからです。

ではなぜ今回、上限が撤廃されたのかというと、リスクマネーを、成長が期待できる企業への投資に回したかったからです。

リスクマネーとは、高いリスクを取って高いリターンを狙う投資家の資金のことです。

株式型クラウドファンディング業者「ファンディーノ」の狙い

株式型クラウドファンディングがどのような投資形態であるのかを、ある株式型クラウドファンディング業者の例をとって解説します。

株式会社ファンディーノ(本社・東京都品川区)は自社のことを「厳正な審査を通過した将来性あるベンチャー企業に投資ができる日本初の株式投資型クラウドファンディング業者」と名乗っています(※1)。

つまりファンディーノは、非上場株式を売却する、株式投資型クラウドファンディング業者です。
このほど株式型クラウドファンディングの規制緩和を受け、特定投資家の要件を満たす個人投資家に対して年50万円の上限を超える投資枠を提供することを決めました(※2、3)。

※1:https://fundinno.com/
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB308WC0Q2A830C2000000/?unlock=1
※3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000171.000021941.html

「将来性のあるビジネスを応援して、楽しみながらリターンを期待する」

ファンディーノは株式投資型クラウドファンディングの意義について、「新しい社会に必要とされる将来性のあるビジネスを応援・成長を楽しみながら、IPOやM&Aなどイグジットした際にはリターンが期待できる投資」としています(※1)。

投資対象の企業がIPO(新規上場)したりM&A(合併と買収)したりすれば、その企業の株価が上昇する確率が高くなります。したがって株式投資型クラウドファンディングは純粋な投資であり純粋なビジネスといえます。

しかしファンディーノは、株式投資型クラウドファンディングには将来性のあるビジネスを応援して、成長を楽しむ要素もある、としています。というのも、ファンディーノが扱う案件のなかには、IPOなどを目的にしてない非営利の株式会社も含まれているからです。

この点は、いくら純粋な投資であっても、そこはやはりクラウドファンディングなので「みんなで応援していこう」という要素は残しておいた、といえそうです。

手術トレーニング用品企業に9千万円、畜産AIに2千万円

ファンディーノが取り扱っている案件を2つ紹介します。

コトブキメディカル株式会社(本社・埼玉県八潮市)は、手術トレーニング用品の開発、製造、販売を行っている会社で、資本金は8,000万円、2018年に設立したばかりの医療ベンチャーです。

手術トレーニング用品とは、さまざまな素材を使って人の臓器に似せてつくった器具のことで、医学部生や新人医師たちがこれを使って練習します(※4、5)。

ファンディーノがコトブキメディカルの案件を取り扱ったところ、591人の投資家から89,300,000円の調達に成功しました(※6)。

株式会社コーンテック(本社・熊本市)は、養豚場の豚の体重をAIカメラで測定する技術などを開発しています。

豚の体重測定は、成長ぶりや出荷タイミングを図るうえで重要な情報ですが、100kgを超える豚を体重計にのせて測るのは大変な労力です。AIカメラは豚を撮影するだけでコンピュータが体重を推定。その的中率は98%になります。

ファンディーノがコーンテックの案件を取り扱ったところ、115人の投資家から17,500,000円の調達に成功しました(※6、7)。

※4:https://www.tech-kg-shop.com/hpgen/HPB/entries/10.html
※5:https://www.tech-kg-shop.com/SHOP/179520/list.html
※6:https://fundinno.com/
※7:https://corntec.jp/pigi/

投資される「うまみ」と投資する「うまみ」

クラウドファンディングには、資金提供先にリターンを求めない寄付型や、資金提供先からグッズやサービスを提供してもらう購入型がありますが、これらは善意や楽しみによって成立している部分が少なからずあります。

しかし善意や楽しみでは多額の資金提供を期待できません。したがって多額の資金を必要としている企業には、寄付型クラウドファンディングや購入型クラウドファンディングは使いづらかったり足りなかったりする欠点があります。

それで投資型や融資型のクラウドファンディングが有効になるわけです。

株価を気にせず事業運営できる

多額の資金を必要としている企業は上場によってその目的を達成できますが、上場するには上場できるだけの企業に成長しなければならず、それにも資金が必要になります。

これでは優れた非上場企業は成長できません。

株式投資型クラウドファンディングは、実質的に純粋な投資です。したがって非上場企業も上場企業のように自社株を売って資金を得ることができます。

ただ通常の株式投資(証券取引所で行う上場企業への投資)と異なるのは、株式投資型クラウドファンディングには日々の値動きや頻繁な売り買いがないという点です。そのため株式投資型クラウドファンディングで資金を調達した企業は、株価を気にせず事業運営することができます。

もちろん非上場企業であろうと経営破綻すれば株価がゼロ円になるので、経営者はまったく株価を気にしないわけにはいきませんが、しかし上場企業の社長と比べると、自社株の価値に神経質にならずに経営できます。

長期投資ができる

投資家にとっても、株式投資型クラウドファンディングには「うまみ」があります。株価が目まぐるしく変わることがなく、頻繁な売買が行われないことは、投資家にとってもメリットになります。

上場企業の株式を扱う株式市場では、景気が低迷すると値動きが小さくなり、投資家は利益を得にくくなります。

しかし投資型や融資型のクラウドファンディングのなかには、年利数%のリターンが期待できるものもあります(※8)。そうなると、株式市場での投資より運用成績がよくなる可能性があります。

また、株式投資型クラウドファンディングであれば、時間はかかりますがIPOまで到達できれば莫大な利益を獲得できるかもしれません。

リスク分散を考える投資家であれば、短期での利益を狙うときは株式市場を使い、長期での利益を狙うときは投資型・融資型クラウドファンディングや株式投資型クラウドファンディングを使う、といった選択ができます。

※8:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2689C0W2A820C2000000/

リスクは信頼性も透明性も低いこと

さて、ここまで投資型・融資型クラウドファンディングや株式投資型クラウドファンディングの魅力を紹介してきましたが、そうとはいえ「投資は投資」なのでリスクがあります。

株式投資型クラウドファンディングでも、投資先の企業が経営破綻したら注ぎ込んだお金は戻ってきません。これは株式市場で上場企業の株式を購入したあと、その企業が破産すればその株式が0円になるのとまったく同じです。

また、上場企業は、経営や決算に関する情報を提供することが会社法や金融商品取引法によって義務づけられていますし、さらにマスコミに紹介される機会も多いので、投資家はかなり信頼性の高い情報を得ることができます。

一方の株式投資型クラウドファンディングでは、投資家は、株式投資型クラウドファンディング業者が提供する情報や、投資先企業の公式ホームページの内容を信じるしかなく、それらの情報は信憑性の裏づけが乏しく、上場企業に関するものより情報の質は劣ります。

つまり、株式投資型クラウドファンディングを使った投資は「質が高くない情報」を元に行うことになります。

さらに、上場企業の株はすぐに換金できますが、株式投資型クラウドファンディングではそれができません。

まとめ~「おいしい投資先の登場」ではなく「選択肢が増えた」と考えるべきか

クラウドファンディングが投資色を強めることは、投資する人にも投資を受ける企業にもよいことといえるでしょう。しかし株式投資型クラウドファンディングはもう、善意で楽しいクラウドファンディングではありません。

そういった意味では、株式投資型クラウドファンディングは「おいしい投資先」でも「簡単な資金調達法」でもなく、投資と資金調達の選択肢の1つ考えたほうがよいのかもしれません。