自分が死んだら家族にはお金がいくら必要か」フィンテックが教えます

自分の人生に、お金はいくら必要か――。

この質問には「多いほどよい」という答えが思い浮かぶかもしれませんが、お金を増やし続けるには労働時間を増やしたりスキルを増やしたり投資をしたりしなければならず、限界があります。

人生に必要なお金の額は、「自分が死ぬまでに、自分や家族が必要とするお金」と「自分が死んだあとに家族が必要とするお金」の合算額と考えることができます。

この金額を、金融とコンピュータ・テクノロジーを融合したフィンテックで割り出そうとしている取り組みを紹介します。

家族構成や現在の収入などから割り出す

人生に必要なお金の額をフィンテックを使って算出しようとしているのは、東京海上日動火災保険(以下、東京海上)と金融系システム開発のマネーフォワードです(※1、2)。

東京海上の保険に加入している人や見込み客に向けたサービスにする予定で、Web上にシステムをつくって利用してもらいます。

使い方は、対象者に、家族構成や家計収支、職業、居住形態、保有資産などのデータをシステムに入力してもらいます。

するとシステムがそれらのデータから、その人が死亡したときや、病気などで働けなくなったときに必要になる金額を割り出します。

家族が多くなると必要な金額が多くなり、また、現在の家計収入が多く生活水準が高い場合も金額は大きくなります。

※1:https://corp.moneyforward.com/news/release/service/20220613-mf-press/
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB196BW0Z10C22A5000000/?unlock=1

保険選びに使ってもらう狙い

東京海上がこのシステムづくりに着手したのは、客が保険金の額を決めやすくするためです。死亡したり働けなくなったりしたときに必要になる金額の目安がわかれば、保険金を決めやすくなります。

例えば、自分の死後に家族は2,000万円必要になるという結果が出たら、「半分の1,000万円は貯金でまかなえるので保険金1,000万円の保険に加入しよう」と判断できます。

ご存知のとおり、毎月の保険料は保険金を高く設定するほど高くなり、低く設定すると安くなります。そのため保険料と保険金のバランスが重要になりますが、その見極めは簡単ではありません。

保険金を高く設定すると万が一のときには助かりますが、保険料が高額になって毎月の家計を圧迫します。かといって保険金を少なく設定すると家計は助かりますが万が一のときのお金が不足してしまいます。

したがって最適な保険金の額がわかると、無駄なく無理なく保険料を支払えるようになるというわけです。

生活レベルをどうするかで決まる

死亡したり働けなくなったりしたときに必要になるお金は、そのあとに想定される生活のレベルによって異なります。

死亡後または働けなくなったあとも家族や自分がこれまでと同じ生活を送るのであれば必要なお金は相当な額になるので準備が大変になります。生活レベルを落とすことができれば必要額は少なくて済むので準備はそれほど要らないでしょう。

希望する生活レベルから逆算する

死亡したり働けなくなったりしたときに必要になるお金は、希望する生活レベルに必要な額から逆算して算出することになります。

生活レベルのコストは、住宅、衣食、趣味、子供の教育、貯金などの余裕資金などによって変わってきます。

世帯主が死亡したり働けなくなったりしても今の持ち家に住み続けたい場合は、住宅ローンを支払い続ける必要があります。しかし世帯主からの収入が途絶えるわけなので、住宅ローンを継続して支払うことは難しくなります。

そのため、世帯主が死亡したり働けなくなったりしたら住宅ローンを一括返済するためのまとまった現金が必要になります。

遺族年金なども考慮に入れて

世帯主が死亡したり働けなくなったりしても、遺族年金や障害年金が受け取れる場合は、必要額からその分を差し引くことができます。

このように「自分が死んだり働けなくなったりしたときに必要なお金」の額は、さまざまなケースを想定して算定していくことになります。

東京海上とマネーフォワードは、こうした「ややこしい」計算をフィンテックで解いていこうとしているわけです。

東京海上とマネーフォワードはフィンテック連携をしている

万が一のときに必要になるお金の額を出すシステムは、東京海上とマネーフォワードが共同で開発するのですが、両社の提携はこれが初めてではありません。

両社はフィンテック事業で以前から連携していました。

家計簿アプリが両者をつなげた

東京海上日動火災保険株式会社と東京海上日動あんしん生命保険株式会社、株式会社マネーフォワードは2019年10月、API連携を開始しました(※3)。

アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)は、複数のアプリやシステムなどをつなぐ技術です。例えば、ECサイトで買い物をして支払いをするときにクレジットカードで使う場合、ECサイトのシステムとクレジットカードのシステムの2つのシステムを使っています。

しかし、ECサイトのシステムはECサイトの会社がつくっていて、クレジットカードのシステムはクレジットカード会社がつくっているので、そのままでは2つのシステムを1回の手続きで済ませることができません。

しかしAPIの技術で2つのシステムをつなげば、1回の手続きで2つのシステムを連動させて動かすことができます。

東京海上とマネーフォワードのAPI連携では、マネーフォワードの「マネーフォワードME」というサービスを使います。

マネーフォワードMEは個人向け家計簿アプリです。銀行、クレジットカード、ECサイト、証券などの2,600以上の金融関連サービスから、ユーザーの入出金履歴や残高のデータを取得して自動で家計簿を作成します。

東京海上はマネーフォワードMEが自社の顧客サービスの向上につながると考えました。

※3:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/191010_01.pdf

保険情報がすぐに簡単にわかる

なぜ保険会社の東京海上が家計簿アプリに魅力を感じたのでしょうか。

東京海上には顧客から「加入している保険の内容を一目でわかるようにして欲しい」「どの保険に月々いくら支払っているのか知りたい」という要望が寄せられていました。もちろん東京海上はこれらの情報を顧客に提供しているわけですが、顧客は「わかりにくい」と不満を持っていたわけです。

そこで家計簿アプリがソリューションになると考えました。

マネーフォワードMEに保険情報を反映させれば、東京海上の顧客はマネーフォワードMEを使うことで「加入している保険の内容が一目でわかるようになり」「どの保険に月々いくら支払っているのかを知れる」ようになります。

東京海上のデータとマネーフォワードのアプリをつなげているので、これもAPIになります。

金融サービスをテクノロジーで進化させたので、これはまさしくフィンテックです。

まとめ~フィンテックはこうして生まれる

東京海上とマネーフォワードの連携は、報道されているものだけでも1)死亡するときに必要になるお金の額を知らせるサービスと、2)家計簿アプリに保険情報を載せるサービス、の2つのフィンテック・サービスを生み出しました。

フィンテックは金融をテック化していく取り組みですが、東京海上などの金融機関の多くはテックを得意にしていません。

そのためフィンテックを推進するにはテック企業のサポートが欠かせず、東京海上の場合それがマネーフォワードでした。

両社の連携は「フィンテックはこうして生まれる」ということがわかるよい事例であるといえるでしょう。