納税もスマホでピッ「8割超の市と区がキャッシュレス化」が意味するもの
もうこのような時代になっていることを知っていましたか。
- 税金を支払うときにスマホでピッ
- 住民票を発行してもらったらクレジットカードで支払い
納税や行政サービスの料金などの自治体への支払いを、スマホ決済やクレジットカードなどのキャッシュレスで行える機会が増えています。
日本経済新聞が全国の792の市と東京23区の計815市区にキャッシュレスの導入状況を尋ねたところ、「キャッシュレス導入済み」と「2022年度内に導入する」の合計が8割を超えました(※1)。
8割超ということは「キャッシュレス市役所・区役所」はもう珍しくないといえます。
この現象はコンビニがやっていることを市役所・区役所でもやっているだけなのですが、実はそれ以上の意味を持ちます。
自治体のキャッシュレス化を深読みしてみました。
※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC198X80Z10C22A5000000/?unlock=1
3つの大きな可能性
日経新聞の調査では、キャッシュレスをすでに導入済みの市区が70.4%、2022年度内に導入が14.2%、2023年度以降に導入予定が1.7%という結果になりました。合計で86.3%(=70.4%+14.2%+1.7%)となりました。
藤沢市(神奈川県)では住民票の写しなどの各種証明書の交付、マイナンバーカードの再交付、火葬場の使用許可申請の支払いにキャッシュレスを使うことができます。
青森市では納税、上下水道料金、各種証明書の交付で、インタネットバンキングとクレジットカードとコード決済(スマホ決済の一種)が使えます。
コンビニのキャッシュレスも自治体のキャッシュレスも、お金の支払いが便利になるという点は共通しています。
しかし自治体のキャッシュレスの普及には、さらに次の3つの可能性があります。
■自治体への支払いのキャッシュレス化の可能性
- キャッシュレスの普及がさらに加速する可能性がある
- 自治体の住民サービスが向上する可能性がある
- 税収が増える可能性がある
これらの可能性が持つ意味を1つずつ考えていきます。
なぜ自治体の積極姿勢がキャッシュレス化を加速させるのか
多くの国民、住民は、政府や自治体が行うことを「よいこと」と考える傾向にあります。もちろん政府も自治体もときどき問題を起こして国民から叱られますが、しかし行政業務や法の執行の在り方まで非難する人はまれです。
そのため市区がキャッシュレスを使うようになると、住民たちは、キャッシュレスがスタンダードな支払いスタイルであると感じるようになるのではないでしょうか。国民のこの感覚はキャッシュレスの普及を後押しするはずです。
キャッシュレス化はよいことといえそう
では日本国中にキャッシュレスが広がることはよいことなのでしょうか。政府はよいことと考えているようです。
経済産業省は日本のキャッシュレスについて次のように考えています(※2)。
■経済産業省が考える日本のキャッシュレス
- 日本のキャッシュレス比率は決済全体の20%台にとどまり、主要各国の40~60%台と比べると見劣りする
- 日本は2025年までに40%程度を目指し、将来的には世界最高水準の80%を目指す
国はキャッシュレスを単に増やすだけでなく世界最高水準にしようとしています。ではなぜキャッシュレスはよいことなのか。その理由は3つあります。
■キャッシュレスをよいこととする理由
- 消費者の利便性が増す
手ぶらで買い物ができる、買い物履歴を簡単に管理できる
- 店舗が効率化、売り上げ拡大を図ることができる
現金管理が要らなくなって手間が省ける、インバウンド需要を取り込める
- データを活用できる
消費者の購買データを分析、活用すれば高度なマーケティングを展開できる
キャッシュレス化は消費者にも企業にもよいことをもたらしそうです。
※2:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf
キャッシュレスへの抵抗感が減って普及するのではないか
電通が2022年に興味深い調査を行っています(※3)。
キャッシュレスが使える場所でも、現金の比率が比較的高いことがわかりました。コンビニでの利用決済1位はモバイル決済(51.7%)でしたが、2位は現金(46.9%)でした。スーパーやショッピングモールの利用決済でも1位はカード(56.4%)で2位はやはり現金(54.7%)でした。
キャッシュレスを使える人がキャッシュレスを使える場所に行っても、必ずキャッシュレスを使うわけではないようなのです。
この結果には電通も「コンビニやスーパーなどは現金決済はほとんどなく、大半はキャッシュレスになっているに違いないと思っていたが、調査結果は想定外のものだった」と振り返っています。繰り返しますが、これは2022年の調査です。
電通は、日本人は現金決済に抵抗がないので、なかなかキャッシュレス化が加速しないのではないか、とみています。現金決済への抵抗感の低さは、キャッシュレスへの違和感を残してしまうでしょう。
したがって自治体のキャッシュレス化が進み、キャッシュレス決済への抵抗がなくなれば、キャッシュレス化は一気に拡大するかもしれません。
※3:https://dentsu-ho.com/articles/8187#%E5%B0%8F%E8%A6%8B%E5%87%BA%E3%81%975
なぜ自治体の住民サービスが向上するのか
なぜ自治体がキャッシュレス化を進めると行政サービスが向上するのでしょうか。
最近すっかりIT企業として認知されてきた日立製作所は「自治体のキャッシュレス化は住民サービスを向上させる」とみています(※4)。
なぜならキャッシュレス化が拡大すれば、お釣りの授受がなくなり行政サービスがスピーディになるからです。またキャッシュレス化は、住民に支払いの選択肢を増やすことになります。
さらに、自治体職員はお釣りの準備や受け取った現金の管理が要らなくなります。現金の紛失・盗難事故も減り、自治体職員は本業である住民サービスに集中できるようになります。
経済産業省も自治体のキャッシュレス化を応援しています(※5)。
※4:https://cgs-online.hitachi.co.jp/contents/477_1.html
なぜ税収が増える可能性があるのか
なぜ自治体のキャッシュレス化が進むと、税収が増える可能性が高くなるのでしょうか。
キャッシュレスで支払うと、誰がいつ何をいくらで買ったのかがデジタルデータとして残ります。したがって店側は売上高を「ごまかす」ことができなくなります。売上高は納税額を計算するときの要素の1つなので、売上高が増えれば納税額も増える可能性があります。
個人事業主も、キャッシュレス化によるお金のデータ化が進めば、事業の経費と個人の買い物が明確に区別されるようになり、事業経費の総額が減る可能性があります。事業経費が減れば利益が増えるので所得税の額が増える可能性があります。
キャッシュレス化が拡大すると脱税しにくくなると指摘する税理士もいます(※6)。
この税理士は「昔から税金をごまかす悪い人は現金を使っている」といいます。キャッシュレスでは通帳やインターネット上に記録が残るのでごまかしにくくなります。「キャッシュレス化では架空の領収書は発生しない」というわけです。
まとめ~トレンドが一気に変わる可能性も
自治体はよい意味でも悪い意味でも慎重です。そのため、市区の8割がキャッシュレスを導入するというニュースを聞いた人のなかには「自治体もようやくそこまで動き始めたか」と感じた人もいるでしょう。
そして慎重姿勢の自治体が動くとき、トレンドが一気に変わる可能性があります。キャッシュレスに漠然と不安を感じていた人も「市役所や区役所で使えるなら安心なのだろう」と感じるようになるかもしれないからです。