硬貨は厄介者?ゆうちょ銀行の有料化やキャッシュレスなど欠点露呈
ゆうちょ銀行は2022年1月から、ATMで硬貨を入金(預け入れ)するときに手数料を徴収することにしました。極端な例を紹介すると、ゆうちょ銀行の自分の口座に10円入金するのに、110円のコストがかかります。
消費者からすると「一方的だ」と感じるかもしれませんが、ゆうちょ銀行としては苦肉の策だったようです。実は他の銀行も硬貨には手を焼いています。
どうも硬貨はお金としては厄介者のようで、その欠点はキャッシュレス化によって露呈しました。
ゆうちょ銀行の言い分「経営が厳しくてやむをえず」
ゆうちょ銀行のATMで硬貨を使うと、次のような手数料(硬貨預払料金)を徴収されます(※1)。
●自分の口座にお金を預け入れるときの手数料
・硬貨1~25枚:110円
・26~50枚:220円
・51~100枚:330円
●自分の口座からお金を引き出すときの手数料
・硬貨1枚以上:110円
手数料以下の入金はできないので、例えば100円硬貨1枚をATMで預け入れることはできません。
利用者がATMを使って自分のゆうちょ銀口座に硬貨で120円(=100円硬貨×1枚+10円硬貨×2枚)入金すると、110円徴収され、10円しか入金できません。
自分の口座に10円入金するのに、その11倍(110円)のコストがかかることになります。自分の口座からお金を引き出すときも、そこに硬貨が1枚でも含まれると110円徴収されます。
ゆうちょ銀行はATMだけでなく、窓口での硬貨の取り扱いも有料にしています。
窓口では硬貨の枚数が1~50枚であれば無料ですが、51~100枚は550円、101~500枚は825円、501~1,000枚は1,100円、1,001枚以上は500枚ごとに550円加算、の手数料がかかります。預け入れでも振り込みでも、この手数料が発生します。
さらに貯金を払い戻すときも、金種を指定すると(紙幣や硬貨の種類や枚数を指定すると)、51枚以上は有料になります。
ゆうちょ銀行は硬貨入金の有料化に踏み切った理由について「経営環境が厳しくなっており一定の負担をお願いせざるをえない」と説明しています(※2)。
つまり経営が厳しくなってきたから、それまで無料で行っていたサービスを有料にする、というわけです。
庶民感覚からすると「お金を扱う公共的な性質を持つ金融機関なのだから、硬貨の扱いくらい無料でやって欲しい」となるかもしれませんが、ゆうちょ銀行を責めることはできないでしょう。ゆうちょ銀行では、硬貨の取り扱いコストが年数億円に達するといいます(※3)。
※1:https://www.jp-bank.japanpost.jp/news/2021/uemgm1000002qopu-att/news_id001686_1.pdf
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD076VU0X01C21A0000000/
※3:https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20220118.html
銀行にとって硬貨は面倒
実は三菱UFJ、三井住友、みずほのメガバンクも硬貨の取り扱いを有料にしています。いずれの銀行の本店・支店でも、窓口で大量の硬貨を入金すると手数料を徴収されます(※2)。
硬貨は金属なので、物理的な取扱いがとても面倒です。銀行には、利用者から大量の硬貨が持ち込まれますが、その処理は次のようになります。
●集まった硬貨を専用機械でビニール巻きする→麻袋に詰める→現金輸送車で銀行の外に運んでもらう
似た作業は紙幣でも行なわれますが、紙幣は紙製なので軽いので硬貨よりはましです。また、10万円を扱う場合も、紙幣なら1万円札10枚で済みますが100円硬貨なら1,000枚も処理しなければなりません。硬貨は数える工数が増えます。
重いうえに多くの枚数が必要な硬貨は、銀行の人たちに重労働を課す厄介者なのです。
両替も手数料が取られる
ちなみに、両替はかなり以前から有料になっています。両替とは、1,000円札を100円硬貨10枚に替えたり、100円硬貨10枚を1,000円札に替えたりすること。
例えば三菱UFJ銀行は、両替のときに硬貨と紙幣の合計枚数が1~500枚になると、550円の手数料を徴収しています(※4)。ここでの「枚数」は、両替前の枚数と両替後の枚数のいずれか多いほうです。
三菱UFJ銀行に口座を持っている人は、1~50枚は無料ですが、51~500枚は550円かかります。
千円札1枚の価値は千円であり、100円硬貨10枚の価値も千円ですが、千円札1枚と100円硬貨10枚を交換(両替)するとコストが発生します。
これは当然のことといえます。なぜなら紙と金属を交換するには物理的な作業が必要で、それは労働になるので賃金が発生するからです。金融機関が「お金を変える」コストを負担しきれなくなったので、消費者の負担が増えたわけです。
※4:https://www.bk.mufg.jp/tesuuryou/sonota.html
国も硬貨は厄介者と思っている
通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律の第7条に次のように書かれてあります(※5)。
●貨幣は、額面価格の20倍までを限り、法貨として通用する
ここでの貨幣は硬貨のことで、法貨とは国が価値を認めた貨幣のことです。この条文は「20枚までなら硬貨で支払ってよい」といっています。この条文から、受け取るほうが拒否したら、大量の硬貨で支払いをすることはできない、と解釈されています。
例えば、コンビニで100円のおにぎりを買うときに1円玉を100枚渡そうとした場合、コンビニ側はそれを拒否して「別の硬貨、紙幣で支払ってください」という権利がある、というわけです。
財務省は「硬貨は20枚まで」ルールを設定した理由を次のように説明しています(※6)。
●貨幣(硬貨)は、小額の取引に適しているものの、あまりに多くの数が使用された場合、保管や計算などに手間を要し、社会通念上、不便となることから、(1回の支払いに利用できる枚数に)上限を設けています
国も硬貨は厄介者であることを承知しています。
ではなぜ国は硬貨を発行し続けるのでしょうか。それは「小額の取引に適している」からです。硬貨の利便性はこれしかないのかもしれません。
もちろんコンビニ側がちょうど1円玉を切らしていて、1円玉100枚での支払いがありがたい場合は、客は1円玉100円で支払うことができます。
1円玉10,000枚の価値はあくまで1万円であり、この性質も硬貨の厄介さを増しています。実際のビジネスや生活のなかでの1円玉10,000枚の価値は1万円より低いのに、ルールとしては1円玉10,000枚を1万円として扱わなければならないのです。
※5:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=362AC0000000042_20150801_000000000000000
※6:https://www.mof.go.jp/faq/currency/07ab.htm
まとめに代えて~硬貨レスはキャッシュレスで進むか
国は2021年11月に、新しい500円硬貨をつくりました。また2024年度には、新しい千円札、5千円札、1万円札が登場します。
では国は、国民に硬貨や紙幣をたくさん使って欲しいと考えているのかというとそうではありません。
国は、硬貨や紙幣がなくても決済ができるキャッシュレスを推進しようとしています(※7)。国がキャッシュレス化を後押しするのは、硬貨と紙幣は管理に手間がかかり、日本に来る外国人にとって不便だからです。国は2025年6月までにキャッシュレス決済を、決済全体の4割程度にしたいと考えています(※8)。
また野村総合研究所は、1万円札を廃止する議論があってもよいと指摘しています(※9)。高額紙幣がなくなれば、消費者は低額紙幣を多く使わなければならず、それを面倒に感じればキャッシュレス化が進むからです。
実際にユーロ圏では、最高額紙幣の500ユーロ紙幣(約62,000円)を廃止しています。
国民や消費者も、特に硬貨に対して不便と感じているようで、2022年1月の硬貨流通高は10年ぶりに減少しました。日本経済新聞は「銀行が窓口での硬貨受け入れに手数料を取り始めた影響が色濃く出た」と分析しています(※10)。
※7:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/index.html
※8:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf
※9:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43534360Z00C19A4MM8000/
※10:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB185550Y2A210C2000000/