環境債(グリーンボンド)がなぜ今注目?地球によいものなのか?
環境債(グリーンボンド)は社債の一種で、企業が資金調達するときに、資金の使途を環境事業に限定して発行します。投資家が環境債を買うことで、企業も投資家も環境対策に貢献できます。
今、さまざまな企業が環境債を発行していて、日本銀行も積極的に購入する姿勢を示しています。
環境債とは何なのか、企業はなぜ今これに力を入れているのか、どのような「よいこと」が期待できるのか、懸念はないのか、などについて解説します。
環境債とは何なのか
社債は、企業が発行する有価証券で、投資家がこれを購入することで、企業は資金を得ます。償還期日が到来したら、企業は投資家に、利息をつけて投資したお金を返済します。
環境債は、集めた資金の用途を限定して発行する点が、普通の社債と異なります。その目的には次のようなものがあります。
<環境債の資金用途になりうる主な事業>
・再生可能エネルギー事業
・温室効果ガスの排出量削減につながる事業
・空気、水、土の汚染を除去することにつながる事業
企業以外でも、政府、地方自治体、金融当局、国際機関などが環境債を発行することがあります。
なぜ企業は環境債を発行するのか
企業が環境債を発行するのは、主に3つの理由があります。
●資金調達に便利だから
●環境問題に取り組まなければならないから
●環境ビジネスが有望だから
1つずつみていきましょう。
日本だけで8,200億円
環境債の発行額は、日本だけで2019年に約8,200億円に達しました。その規模は年々大きくなっています。環境省は、企業が環境債で資金調達する狙いの1つに、社債投資に関心が薄かった投資家を掘り起こせることを挙げています(※1)。
企業の資金調達方法には株式の発行もありますが、株主が多くなると経営者の経営の自由度が狭まるという欠点があります。社債はその心配がありませんが、普通の社債では投資家の関心を集めることは難しいでしょう。
環境債なら、自社の環境事業をPRできるうえに資金調達もできます。
※1:http://www.env.go.jp/press/files/jp/113511.pdf
環境対策は待ったなし、企業の責任も重大
環境債はいわば、志が高い資金調達手法といえます。
環境省は、企業には、持続可能な経済を構築するために、環境的なインパクトを生み出すポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組む責務があるとしています(※1)。つまり、お金を絡めて(ファイナンスに取り組みながら)環境問題に取り組むよう、要望しているわけです。
日本では台風や豪雨に伴う水害や土砂災害が年々深刻化し、世界に目を向ければ、プラスチックごみによる海洋汚染や気温上昇による森林火災が問題になっています。これらの原因となっている異常気象や気候変動を引き起こしている者に、間違いなく企業も含まれています。
資金調達が必要になったときに、環境事業に結びつくかどうかを考え、さらに環境債の発行を検討することは、企業が今すべきことの1つでしょう。
環境ビジネスに参画するチャンス
環境債の検討は、環境ビジネスに参画するチャンスになります。「環境ビジネスに新規参入するなら環境債を発行しよう」と考えることもできますし、「資金調達が必要だから環境ビジネスに関わって環境債を発行しよう」と考えることも可能です。
国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の平均気温を2度下げるためには、電力部門だけでも2016年から2050年までに約990兆円必要です。また、建物、産業、運輸で十分な省エネ対策を講じるには、同期間で330兆円かかります(※1)。
環境領域には、巨大なビジネスチャンスが眠っています。
この企業がこういう環境債を発行している
環境債の具体例をみていきましょう。
トヨタは5,000億円の調達を目指す
トヨタは2021年3月に、環境事業や社会貢献事業に使途を限定した「ウーブン・プラネット債」を発行すると発表しました。環境債の一種です。目標調達額は5,000億円です(※2)。
トヨタは2021年2月、静岡県裾野市の同社系列の工場跡地71万平方メートルで、スマート・シティの「トヨタ・ウーブン・シティ」の造成に着手しました。これが社債の名称の由来です(※3、4)。
5,000億円の内訳は次のとおりです。
・1,000億円:個人投資家向けの円建て社債、償還期間5年
・4,000億円:機関投資家向け円建て社債と外貨建て社債、償還期間は5年または10年
トヨタは5,000億円の資金で、次のようなことに取り組みます。
・ウーブン・シティの開発
・安全技術、電気自動車、燃料電池車の開発と製造
・再生可能エネルギーの開発
このウーブン・プラネット債は「環境債+アルファ」になっていますが、トヨタはこれまでに純粋な環境債を2019年に600億円分、2020年に300億円分発行しています。
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD028VP0S1A300C2000000/
※3:https://www.woven-city.global/jpn
※4:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31170943.html
三菱UFJフィナンシャル・グループも5,000億円規模
三菱UFJフィナンシャル・グループはすでに2020年9月までに、約5,400億円規模のグリーンボンド(環境債)・ソーシャルボンド・サステナビリティボンドを発行しています(※5)。
ソーシャルボンドは社会課題向けの社債で、サステナビリティボンドは環境と社会の両方の課題に向けた社債です。
三菱UFJフィナンシャル・グループは、各ボンド集めた資金を傘下の三菱UFJ銀行に融資して、三菱UFJ銀行がそのお金を、各ボンドの目的に合致した事業を行う企業に融資します。
三菱UFJ銀行の融資先としては、グリーン的確不動産事業や再生可能エネルギー事業、低所得者向け医療事業、教育事業、災害復興事業などとなっています。
※5:https://www.mufg.jp/ir/fixed_income/greenbond/index.html
環境債はよい世界をつくる、という期待
日本銀行は2021年に、保有資産の運用手段として、環境債の購入を進める方針を固めました。日本銀行が購入するのは、アジアの政府や公的機関が発行する環境債です。アジアの国の中央銀行と共同で購入していきます(※6)。
世界銀行は2021年から日本で、400億円規模の環境債を発行します(※7)。環境債を購入するのは、第一生命保険、日本生命保険、住友生命保険、富国生命保険の4社です。この環境債は最初から買い手が決まっているところが特徴的です。買い手を広く募る公募形式は時間がかかるため、今回、先に買い手を決めてしまいました。
世界銀行の環境債の償還期間は15年と長いのですが、これは途上国での再生可能エネルギー事業に投資するためで、長期のプロジェクトになるからです。
環境対策は最早、企業やボランティアや市民などの民間で「なんとかなる」レベルではなくなっています。中央銀行や金融市場が動いて大量のマネーを確保して、大がかりな環境対策に取り組まなければなりません。しかも経済を回しつつ、です。
金融当局が環境債の循環をよくしようとしているのは、環境債が「地球によいこと」を起こすと期待できるからです。
温室効果ガスの排出量を削減して脱炭素社会に移行するには、莫大な資金を必要とします。そのため環境債は、日本全体で、かつ世界全体で解決していくためのツールになりえます。
※6:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021071200652&g=eco
※7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA271M80X20C21A9000000/
まとめ~グリーンウォッシュにならないようにしなければならない
環境債には懸念もあります。それは、環境に資する事業の定義があいまいであることです。
例えば、省エネの仕組みをふんだんに取り入れた空港を新設する事業です。空港の運営が省エネ化されるのは環境にプラスですが、世界に空港がまた1つ増えるのは環境負荷を増やすことにつながります。
このように、企業の事業やビジネスに「環境」の冠をつけることは意外に簡単です。そのような行為は「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、環境債の悪用と考えられています。そのため環境債が正当なものかチェックする国際機関もあります。
もし企業が安易に環境債を増発すれば、投資家から見透かされ、この取り組みは一時的な流行で終わってしまうでしょう。企業などの環境対策への本気度が試されているともいえます。