注文も支払いも「スマホだけ」のカレー屋がすごいマーケティングをしている

スマホで料理を注文できてスマホで支払いができる飲食店は、すでに珍しくありません。最近はさらに、注文も支払いも「スマホだけ」という飲食店も登場しました。

スマホが注文ツールとしても支払いツールとしても優れていることは周知の事実なので「スマホだけ飲食店」があっても驚かれないと思いますが、驚くべきことをしているカレー店があります。

このカレー店は「スマホだけ飲食店」で高度なマーケティングを展開して業績を伸ばしているのです。

東京ミックスカリーはテイクアウト専門

そのカレー店は、株式会社フードコード(本社・東京都文京区)が都内に展開している東京ミックスカリーです(※1)。赤坂、日本橋、渋谷、恵比寿などに100店以上出店しています。あの日本経済新聞から「すごい販促」と褒められました(※2)。

東京ミックスカリーは、テイクアウト専門の店です。

東京ミックスカリーのカレーを食べるには、スマホに専用アプリをダウンロードする必要があります。注文は原則、アプリのみで行います。

アプリでカレーやトッピングの種類を選び、店に取りに行く時間を入力すると、その時間にカレーができています。デリバリーを頼むこともできます。支払いはクレジットカードかペイペイだけで、こちらもスマホで完結します。

※1:https://tokyomixcurry.com/index.html
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC063TS0W2A400C2000000/?unlock=1

何がすごいのか?コストダウンがすごい

スマホ注文、スマホ決済、テイクアウトの3つだけならマクドナルドなどの巨大チェーン飲食店も行っています。では東京ミックスカリーのシステムはどこが優れているのでしょうか。

それはコストダウンです。

東京ミックスカリーに大きなコストダウンをもたらしたのは、主に次の4つです。

  • テイクアウト専門にすることで小さな店舗でも開業できる
  • ランチをやっていない他の飲食店の厨房を昼食時だけ借りて営業することができる
  • 現金を扱わないので店員が「お金まわり」の業務をしなくてよい
  • デリバリー専門なので接客スキルがある人材を採用しなくてよい

1つずつみていきましょう。

テイクアウト専門にすることで小さな店舗でも開業できる

テイクアウト専門であれば客を店内に入れて座らせる必要がないので、狭い店でも開業できます。狭い店は家賃が安いので家賃コストを下げることができます。

では他社のカレー店がなぜテイクアウト専門にしないのかというと、普通の方法ではテイクアウト専門では儲からないからです。入店とテイクアウトの両方を行えば両方のニーズを取り込むことができます。また、客に店内に座ってもらえば、カレーの他に飲み物を売ることができます。

そのため東京ミックスカリーのように効率的にカレーを「どんどん」売っていかないと、テイクアウト専門で成功することは難しいでしょう。

では東京ミックスカリーはどのように「どんどん」売っているのでしょうか。

ランチをやっていない他の飲食店の厨房を昼食時だけ借りて営業することができる

東京ミックスカリーのビジネスモデルはカレーを「どんどん」売ることで成立します。そのため同社は、ランチをやっていない他の飲食店の厨房を昼食時だけ借りてカレーをつくって販売しています。

テイクアウトの客はカレーのクオリティは重視しますが、店の雰囲気は気にしません。そのため、昼食時だけ厨房だけを貸してくれる店をみつければ、次々出店することができます。

店が増えれば来店しやすくなるので、客の利便性が向上してリピーターになってもらえます。しかも他店を時間限定で借りるだけなので、家賃コストはさらに下がります。

現金を扱わないので店員が「お金まわり」の業務をしなくてよい

「スマホ決済もできる」と「完全スマホ決済」は全然違います。東京ミックスカリーのビジネスモデルは、後者の完全スマホ決済だから成立します。

完全スマホ決済にすると、カレー店の店員は現金を扱わなくて済みます。店員が客からクレジットカードを預かって機器を操作することすら必要ありません。したがって東京ミックスカリーの店員は「お金まわり」の仕事を一切せず、カレーづくりに集中できます。

現金を管理するスキルや経理知識を持っている人材には高い給料を支払わなければならないので、そのような人材を店舗に置かなくてよい東京ミックスカリーは人件費を抑えることができます。

デリバリー専門なので接客スキルがある人材を採用しなくてよい

デリバリー専門店の店員には、高い接客スキルは要りません。もちろん客商売なので最低限の接客スキルは必要ですが、普通の飲食店のホール係ほどのテクニックは必要ないでしょう。

したがって東京ミックスカリーは、給料が高い接客スキルを持つ人材を雇用しなくてよくこれも人件費を抑制します。

マーケティングへの応用がすごい

コストダウンはいわば、守りの経営です。経費をかけないことで利益を増やすことができますが、大元の売上高を増やさないことには利益の上昇はいずれ頭打ちになります。

東京ミックスカリーは攻めの経営も見事です。「注文も支払いもスマホだけ飲食店」の機能をマーケティングに使っています。

人材を有効活用できる

先ほど、東京ミックスカリーの店員には経理スキルも接客スキルもそれほど必要ないと説明しましたが、これはもちろん、能力が低い人材でやりくりできる、という意味ではありません。能力が低い人材だけで成長できる会社はありません。

東京ミックスカリーでは店員の負担が減るので、デリバリーに出る余裕が生まれます。同社は出前館やウーバーイーツなどの外部のデリバリー・サービスも使っていますが、自前のデリバリー業務にも力を入れています。

外部のデリバリー・サービスはカレーを運んでもらうだけですが、自社の従業員がデリバリーをすれば、例えば営業することもできますし市場調査をすることもできます。

アプリを使って顧客を囲い込む

東京ミックスカリーでは、定期的にまとめて発注してくれる企業に、東京ミックスカリーのアプリ内にその企業の専用ページを設定しています。

企業専用ページから注文できるのはその企業の従業員だけなので、東京ミックスカリーは受注したカレーを一気に運ぶことができます。

これはデリバリーの効率化にもつながりますが、それ以上に顧客囲い込み効果のほうが大きいでしょう。一度に複数のカレーを頼むと割り引くサービスも行っていて、常連さんに客を集めてもらう仕組みにしています。

そして、まとめ発注をしてくれた企業には配達料金を無料にしています。上顧客を優遇することは、マーケティングの基本です。

まとめ~スマホだからできること

スマホが優れたマーケティング・ツールであることは周知の事実です。顧客に自社のスマホ・アプリを使ってもらえば、顧客情報や購買情報などを効率よく回収できるのでマーケティング分析ができます。

また多くの人はほとんど毎日スマホに触れているので、アプリやSNSを使ったマーケティング・キャンペーンの効果が出やすい状態にあります。

同社のコンセプトはこのようになっています(※1)。

■東京ミックスカリーのコンセプト

アプリで事前注文、待ち時間なく「あなたの好きなカレー」を提供します。日本人はみんな、カレーが大好きです。そして一人ひとり「好きなカレー」へのこだわりがとても強い。

それを「ストレスない時間や適切な価格で実現する」ためには、アプリを利用することが最善だと考えました。

最初に手間はあるのですが、2回目以降の注文や支払いの簡単さ、そして何より「自分ぴったりのカレーを食べる感動」を味わっていただけるものと信じています。

スマホ活用へのこだわりが強いことがわかります。東京ミックスカリーは、スマホの注文機能と決済機能とマーケティング機能を合体させることに成功しました。