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決済とはそもそもなに?支払いの形はどうなるの?【金融基礎知識】

スマホ決済や電子決済、キャッシュレス決済といった言葉を頻繁に耳にするようになりました。スマホ決済は、スマホを持っていれば買い物ができるサービスで、スマホで「支払い」を済ますことができます。

ではなぜ「スマホ支払い」とはいわずに「スマホ決済」と呼ぶのでしょうか?そのように考えると、そもそも決済とは何か、という疑問が湧いてきます。

分かりやすいように解説していくので、この機会に決済の基本知識をアップグレードしましょう。

決済の定義

決済の定義は明確で、日本銀行は次のように説明しています(※1)。

決済とは、実際にお金の受け払いをして、債権と債務を解消すること

例えば、コンビニで客がおにぎりを買う経済取引では、客には「おにぎりを受け取る権利」と「お金を支払う義務」が生じ、コンビニには「お金を受け取る権利」と「おにぎりを渡す義務」が生じます。権利を債権といい、義務を債務といいます。

決済は、債権と債務を解消することなので、客がおにぎりを受け取ってお金を支払い、コンビニがお金を受け取っておにぎりを渡せば、決済が終了したことになります。

ここから次のことがわかります。

決済の定義

支払いという作業は、決済のなかの1つの行為です。

(※1)日本銀行「公表資料・広報活動」

決済の手段はお金

決済は、お金で債権・債務を解消することなので、お金は決済の「主人公」といえます。それではなぜ、お金を使わないスマホ決済で、コンビニでの買い物の債権・債務を解消できるのでしょうか。

それは、お金とスマホ決済がリンクしているからです。このことを理解するには、お金とは何かという知識が必要になります。

日銀のお金の定義を紹介します。

決済に使われる手段を、お金としています。そしてお金には「誰もが、それが手に入るなら交換に応じてもよいと思うもの」という性質があります。客がコンビニからおにぎりを受け取り、コンビニが客からお金を受け取る取引が成立するのは、コンビニが「お金が手に入るならおにぎりと交換してもよい」と思えたからです。

お金には別の定義もあります。

日本銀行券と貨幣のことを現金通貨といい、これがお金になります。日本銀行券とは1万円札や千円札などのことで、貨幣は500円硬貨や100円硬貨などのことです。

お金は、日銀と日本政府が発行しているので、とても信用度が高いものです。そのため、お金を支払ったり受け取ったりすると、「決済を直ちに終了させることができる」ことになります。この「直ちに」が、決済のポイントになるので、次の章で詳しく解説します。

日銀の決済の定義からするとスマホ決済は「決済」とはいえない?

お金を使えば決済を「直ちに」終了させることができる、ということは、お金以外の決済手段では、決済を直ちに終了させることは難しいということでもあります。

では、スマホ決済はどうなのでしょうか。コンビニで買い物をするときのスマホ決済を考えてみましょう。

コンビニは客におにぎりを渡しますが、客はコンビニにお金を支払いません。ただ、スマホ決済によって「客は将来、おにぎりの代金をコンビニに支払わなければならない」というデータが残ります。

そのデータにしたがって、スマホ決済サービス会社が客の口座からお金を受け取り、そこから手数料を差し引いた残金をコンビニの口座に入金します。これでお金の受け渡しが終わります。

日銀は「決済はお金で債権・債務を解消すること」としているので、スマホ決済におけるコンビニでのやり取りはまだ決済が済んでいないので決済は終了していません。コンビニでのやり取りから時間が経過して、お金が客の口座からコンビニの口座に移ったときにようやく決済が終了することになります。

スマホ決済の「決済」はいつ終了するのか?

決済は、お金を使えば「直ちに」終了させることができますが、スマホ決済のように、お金以外の手段で決済手続きをすると、直ちには決済は終了しないのです。

決済にはリスクがつきまとう

決済にはリスクがあります。

例えば、コンビニが客におにぎりを渡し、客がコンビニにお金を渡したとします。これで決済が終了します。しかし、もし突然、政府と日銀が「日本銀行券と貨幣の価値をゼロにする」と決めたら、お金は単なる紙切れと単なる金属になります。

このときコンビニは、おにぎりを渡して、無価値の紙切れまたは金属を受け取ったことになるので損をします。これが決済のリスクです。

もちろん、政府と日銀が「日本銀行券と貨幣の価値をゼロにする」と決めることは、事実上ありえません。つまり、お金で決済している限り、決済のリスクはゼロといえます。

ただ、決済のリスクには、信用リスクと流動性リスクがあるので注意しなければなりません。

決済の信用リスクとは

企業Aが企業Bに先に商品を渡して、企業Bがあとで企業Aにお金を支払うことがあります。先に商品が移動して、決済があと回しになるわけです。

このとき、商品を受け取った企業Bが倒産すると、商品を渡した企業Aはお金を得ることができません。企業Aが、後払い(決済をあと回しにすること)を了承したのは、企業Bを信用していたからです。

これが信用リスクのメカニズムです。決済のあと回しは、信用リスクを高めることになります。

決済の流動性リスクとは

金融における流動性とは、お金の流れやすさという意味です。決済に流動性リスクがあるということは、決済をするとお金の流れが悪化する可能性があるという意味です。

企業Aが企業Bに先に商品を渡して、企業Bがあとで企業Aにお金を支払うことになったとします。企業Aはあとからお金を得ることができますが、今はお金を得ていません。つまり企業Aは今、お金を得る権利は持っているが、実際のお金は持っていない状態にあります。

このとき企業Aが、企業Cに支払いをしなければならなくなったとします。しかし企業Aはまだ企業Bからお金を得てないので、企業Cに支払うことができません。

企業Cから「約束だからすぐに支払うように」といわれたら、企業Aは借金をしてお金を工面して支払わなければなりません。借金をすれば、元金だけでなく金利も支払わなければなりません。

お金を得る権利は持っているものの、実際のお金は持っていないと、流動性が悪くなり損する可能性があります。これが、決済が持つ流動性リスクになります。

お金以外の決済のリスク

政府と日銀が「日本銀行券と貨幣の価値をゼロにする」と決めない限り、お金を使った決済のリスクはゼロです。しかし、そのほかの決済手段には決済のリスクが発生します。

例えばキャッシュレス決済で、キャッシュレス決済サービスがなんらかのトラブルに見舞われ、売り買いのデータがすべて消えてしまったとします。このとき、商品の受け渡しは終わっているのに、お金の受け渡しができなくなるかもしれません。お金以外の決済にはリスクが伴います。

現在と未来の決済とお金

スマホ決済やクレジットカード決済などのことを、お金を使わないことからキャッシュレスと呼ぶことがあります。

キャッシュレスは、お金の受け渡しがあと回しになるので、決済のリスクが発生するはずなのに、確実に拡大しています。それは、決済のリスクを減らす手段が講じられているからです。そして何より、キャッシュレスはかなり便利な決済手段だからです。

日本のすべての決済に占めるキャッシュレス決済の比率は、現在20%ほどですが、政府はこれを2025年度までに4割程度にして、さらに80%を目指すとしています(※4)。

インターネット通販などのEコマースは、商品とお金をリアルタイムで交換することができないので、必然的にキャッシュレスになります。

また、仮想通貨などの暗号資産が普及すれば、「あとでお金のやり取りをする」という行動も必要なくなるかもしれません。ポイントをもらって、ポイントで買い物ができれば、やはり「お金は必要ないかもしれない」と思うようになるかもしれません。

(※4)キャッシュレスの現状及び意義

まとめ~なくならない経済活動

キャッシュレスの普及が拡大しても、暗号資産が進化しても、最終的にはお金の受け渡しで取引を終了させたい、という欲求は残るでしょう。

仮想通貨で大きく儲けたり、ポイントを大量に獲得したりしたら、どこかの時点で、それらをお金に換金したくなるはずです。そういった意味では、日銀がいう「実際にお金の受け払いをして、債権と債務を解消する決済」は、永遠に不滅の経済活動といえるでしょう。