暗号資産は「コンピュータを使うから」大量の電力を消費する
ビットコインなどの暗号資産を使うには、大量の電気が必要になります。
ビットコインを運用するための電力消費量は、一国の電力消費量に匹敵するという指摘もあります。暗号資産は、物理的な物質である紙幣や硬貨を使わないので、むしろエコのイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。
暗号資産が「電気を食う」のは皮肉にも、紙幣と硬貨を使わないからです。貨幣を使わない代わりに、コンピュータを大量に使うので大量の電気が必要になります。
公然の秘密が暴露された?
暗号資産の電力問題は、暗号資産が誕生してすぐに判明しました。暗号資産を運営するには「マイニング」というコンピュータ処理が必要なのですが、そのコンピュータは電気料金が安い中国などの国で行なわれています(※1)。
電気代が高い先進国でマイニングをすると、運営コストが膨らみ「暗号資産事業」が割に合わないものになり、破綻してしまいます。
ではなぜ公然の事実であった電力問題が脚光を浴びてしまったのでしょうか。
それは、アメリカの電自動車メーカー、テスラのイーロン・マスクCEOが2021年5月、ビットコインについて「エネルギー消費量(電力消費量)が常軌を逸している」と批判したからです(※2)。その後ビットコインの価格が急落しました。
世界的に有名な経営者が、暗号資産の大きな欠点をあえて暴露したので、ビットコインを持つことがリスクと考える人が増え投げ売りされたのです。
しかし、暗号資産の電力問題が周知の事実であれば、それが暴露されて急落するのは理にかないません。なぜビットコインは、マスク氏の発言後に急落したのでしょうか。それは、テスラの電気自動車がエコの代名詞のように扱われているからです。
日本の環境省は「電気自動車は、温暖化対策をはじめとする世界のエネルギー問題に大きな変化をもたらす可能性を持つものとして、その普及拡大が期待されている」と述べています(※3)。
テスラは世界最大の電気自動車メーカーであり、そのCEOが暗号資産をエコでないと言ったので、多くの投資家がビットコインの将来性を疑って手放したのです。
※1:https://toyokeizai.net/articles/-/423872
※2:https://jp.reuters.com/article/tesla-bitcoin-musk-idJPKBN2CU232
※3:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/ev.html
ビットコインの消費電力量は一国並み
ビットコインの1年間の電力消費量は150テラワット時といわれ、スウェーデンの1年分の電力消費量に匹敵するという指摘があります。ポルトガルの2年分、という指摘もあります。さらに、世界の電力消費量の0.6%に相当するという人もいます。
ちなみに日本の1年間の電力消費量は、2018年度は350テラワット時でした(※4、5、6、7)。
※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00009_X10C21A5000000/
※5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB143980U1A510C2000000/?unlock=1
※6:https://jp.techcrunch.com/2021/04/03/2021-03-21-the-debate-about-cryptocurrency-and-energy-consumption/
※7:https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html
インターネット・サービスと考えるとコスト高?
ユニークな比較をしたのはAFP通信で、ビットコインの1年間の消費電力を200テラワット時と推定し、そしてグーグルが1年間で使っている電力量は12テラワット時である、と報じました(※8)。ビットコインは、グーグルより17倍も電気を食っていることになります。
多くの人は、ビットコインよりはるかに頻繁に、グーグルを使っているのではないでしょうか。グーグルもビットコインもインターネット・サービスであり、コンピュータ・サービスです。それなのに、ビットコインのほうがはるかに多くの電気を食っていれば、ビットコインは電力を使いすぎている、という印象はさらに強くなります。
※8:https://www.afpbb.com/articles/-/3338700
非エコの罪は重い
暗号資産のなかで時価総額1位のビットコインの消費電力は群を抜いていて、取引1件当たりの消費電力量は、時価総額2位の暗号資産イーサリアムの20倍超になります(※6)。
つまりビットコインは、1件当たりの消費電力量が多いうえに取引量も多いという、二重の非エコの罪を犯していることになります。「常軌を逸している」という批判は大げさではありません。
大量の電力を必要とするマイニングとは
マイニングとは、ビットコインの運用に必要なコンピュータ処理を手伝ってくれた人に、新規のビットコインを渡す行為のことです。
ビットコインのシステムの特徴は、みんなで運営していることです。つまり、日本銀行やFRBなどが運営するお金システムではない、ということです。そのため、ビットコインの運用に必要なコンピュータ処理は、誰かが行わなければなりません。誰かにコンピュータ処理をしてもらうには報酬が必要なので、新規のビットコインを渡すわけです。
コンピュータ処理をするとビットコインがもらえるのは、金鉱脈を掘り当てると金を手に入れられるのと似ているので、採掘(マイニング)という名前がつけられています。
マイニングがビットコインの価値を生み出している?
暗号資産の発足当初は、まったくの無価値でした。コンピュータ上のデータを通貨とみなし、物やサービスと交換できるルールを定めただけだからです。そのルールを承認する人だけが、暗号資産の価値を認めたことになります。
ビットコインなどの暗号資産が莫大な価値を持つようになったのは、そのルールを承認する人が爆発的に増えたから。これは通貨としては異様な形態です。
円やドルなどの通貨は、日本銀行やFRBなどの政府公認の中央銀行が価値をつけています。100円玉を100円のおにぎりと交換することを誰も嫌がらないのは、日本政府と日本銀行が100円玉に100円の価値を与えているからです。
では、なぜビットコインに価値があると認める人が爆発的に増えたのでしょうか。そのように考えるとやはり「ビットコインにはそもそも価値があるから」と認めざるを得ません。
ビットコインの価値はさまざまな形で生み出されていますが、その1つがマイニングです。「ビットコインの運用に欠かせないコンピュータ処理」という仕事には価値があります。その価値が、新規のビットコインになれば、ビットコインに価値がつくわけです。
ビットコインの運用に欠かせないコンピュータ処理とは
続いて、ビットコインの運用に欠かせないコンピュータ処理について解説します。
ビットコインには「取引台帳」というコンピュータ上のデータがあります。この取引台帳には1BTCが誰から誰に移ったかが記録されています。BTCはビットコインの単位で「ビットコイン」と読みます。
ビットコインの取引のすべてが取引台帳に記載されるので、そのデータ量は膨大になります。新たにビットコインが取引されると、取引台帳に「追記」されます。追記もコンピュータで処理されます。
追記が間違っていたら取引台帳全体に悪影響が及ぶので、追記は正確でなければなりません。そうなると次の問題が生じます。
●膨大なデータになる取引台帳をどのコンピュータに置いておくべきか
●追記を正確に行うにはどうしたらよいか
巨大企業であれば、保有するデータが大きくなったら、巨大なデータセンターを建設して、そのなかにサーバーというコンピュータを大量に設置してそこに保管すればよいのですが、ビットコインではそれをする企業や人がいません。
また、ビットコインは誰でも参加できるので、自分の都合のよい追記をする、悪意ある者が現れる可能性があります。
この2つを解決するために、ビットコインは、コンピュータ処理をすることができる有志を募りました。有志に名乗りをあげた人は、取引台帳のデータの一部を自分のコンピュータで預かり、自分のコンピュータで追記を手伝います。この作業をしてくれた有志に、ビットコインが渡されます。
塵も積もれば常軌を逸す
コンピュータを使って取引台帳への追記をしても、それが1件なら電力消費量はわずかなものです。しかし、ビットコインのように世界中で取引されるようになると、150テラワット時や200テラワット時といった膨大な電力量になります。
規模が小さい暗号資産は問題ありませんが、世界規模に成長してしまうと常軌を逸してしまうわけです。
まとめ~再生可能エネルギーがカギ
マイニングを行う有志たちのことを、マイナー(採掘者)といいます。マイナーたちは大量にコンピュータ処理(追記)をして、少しでも多くのビットコインを稼ぎたいので、安くマイニングをしたいと考えます。
マイニングのコストは、追記に使うコンピュータとそれを動かす電気料金なので、マイナーたちはコンピュータを持って電気料金が安い国を目指します。それが中国やロシアなどになります(※9、10)。
それらの国が安く電気をつくることができるのは、石炭などの安い燃料を使っているからです。しかし、無暗に石炭を燃やして電気をつくることは、今は世界的に「環境にとって悪いこと」と認定されます。
暗号資産を使ってエコなことをしようとしても、暗号資産の運用方法が非エコであれば、「環境にとってよいこと」は帳消しになってしまうでしょう。したがって、暗号資産を再生可能エネルギーで運用できるかどうかが課題になっています(※11)。
※9:https://jp.techcrunch.com/2021/04/03/2021-03-21-the-debate-about-cryptocurrency-and-energy-consumption/
※10:https://www.coindeskjapan.com/19095/
※11:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00009_X10C21A5000000/