金融全般

日銀がユニクロに投資?なぜ中央銀行が株を買うのか【ETF買いの狙い】

この数字は何だと思いますか?

  • ファーストリテイリング(ユニクロ)株、20.88%
  • ファミリーマート株、18.18%
  • 京セラ株、15.88%
  • ヤマハ株、14.88%
  • 電通グループ株、11.74%

この数字は、日本銀行が間接的に保有する株式の、発行株式に占める割合です(2021年3月末現在、※1)。この5社を含め、日銀が10%以上保有する企業数は56社になります。

株式を買って保有することは、その企業に投資していることになります。そして、株式を持つ株主は企業のオーナーなので、日銀はユニクロやファミリーマートなどの「約20%オーナー」といえます。

なぜ一国の中央銀行が、民間企業に投資をしてオーナーになっているのか?その理由は「ETF買い」という手法で日本経済を支えているからです。

その為、日銀の企業オーナー化はやむを得ない現象ではあるのですが、やはり望ましい姿とはいえないかもしれません。

(※1)コロナ禍で増える、日銀が「大株主」の企業ランキング

ETFとは上場投資信託のこと

ETFは「Exchange Traded Fund」の略で、上場投資信託と訳されます(※2)。ちなみに、ETFは株式や一般的な投資信託などと同じように金融商品の一種で、一般の人も買うことができます。

投資信託は、複数の企業の株式をセットにした金融商品です。投資家が1社の株式しか持っていない場合、その株価が乱高下すると、その投資家の資産も乱高下してしまいます。しかし投資信託なら、そのなかのある株式が値下がりしても、ほかの株式が値上がりしていれば、ダメージを受けなくて済みます。

投資信託はリスクが比較的小さい金融商品ということができます。

ETFは、日経平均株価など特定の指標に連動するようにつくられている点が、一般的な投資信託と異なる点です。また、ETFは上場しているので、リアルタイムで取引(売買)することができます。一般的な投資信託は、1日1回算定される価格で取引します。

(※2)ETFとは?ETF(上場投資信託)の仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説

日銀は今や日本企業の大株主

日銀のETF買いは、2010年12月から始まりました。その結果、日銀が間接的に持つ株式の価値は2020年12月現在、約45兆円になりました(※3)。ニッセイ基礎研究所によると、日銀が発行済み株式の5%超を保有している企業は395社になります。

東証1部に上場しているすべての企業の2021年2月時点の時価総額が約700兆円なので、日銀の45兆円分の株式は6.4%になります(※4)。日銀は「株式会社ニッポン」の「6.4%オーナー」というわけです。

(※3)日銀、最大の株式投資家に ETF購入10年、約45兆円
(※4)東証1部時価総額、3年ぶり700兆円 電気機器の比率上昇

「ETF買い入れによる金融緩和」とは

日銀がETF買い入れを10年以上続けているのは、金融緩和をするため。金融緩和とは、日本経済にお金を大量に供給することです。

なぜETFを買うと金融緩和になるのか?

日銀はETFだけでなく、国債や不動産投資信託(REIT)も大量に買って金融緩和を進めています。

ETFも国債もREITも金融商品です。商品なので、買うときにお金を支払わなければなりません。日銀がお金を支払うので、そのお金が日本の市場に回ります。

では、金融商品以外の商品も買えばよいのかというと、そうはいきません。例えば、日銀が家電や自動車を大量に買ったら、確かに家電業界や自動車業界が潤い経済対策になりますが、日銀が持つ大量の家電や自動車は、日々価値が減ってしまいます。

しかし、ETFなどの金融商品であれば、経済や市場が上向けば、価値が上がります。そして、日銀のETFの大量買いは経済や市場を支えることになるので、日銀がETF買いを進めれば進めるほど経済や市場が上向きやすくなります。

ただ、経済の動きは日銀だけで支えられるわけではないので、日銀がETF買いを続けていても、株価が下がるかもしれません。そのときは、日銀のETFの価値も減ります。この点については、後段で解説します。

なぜ金融緩和が必要なのか?

日銀がETF買いをしてまで金融緩和をしなければならないのは、日本経済が弱いからです。

経済はお金で動かします。そのため、もし日銀が金融緩和をしなければ、世の中のお金が不足して経済が回らず、弱い経済がさらに弱くなります。

金融緩和によって世の中のお金が増えると、それを使って「新しい事業をしよう」「設備投資をしよう」「海外でビジネスをしてみよう」という企業や人が増えます。そのような機運が高まって日本経済が強くなれば、日銀のサポートが要らなくなる理屈ですが、それが実現するのは遠そうです。

まとめ~「大丈夫なのか」本音は「減らしたい」

一国の中央銀行が「株式会社ニッポン」の大株主になることは、決してよいことではありません。第一に、株価が下落すれば日銀は大きな損失を抱えることになります。ETFは、リスクが比較的小さいとはいえ、リスク資産だからです。

日銀は公式には「ETF買いは必要な施策」との見解を示していますが、日銀のなかにも「いつまでも続けられない」と不安視している人はいます。

そして、実際にETF買いのペースを緩めたこともあります(※5)。日銀の本音も「ETF買いをやめたい」か、少なくとも「減らしたい」はずです。

しかし、もし日銀が「ETF買いを減らす」と宣言したら、株価は暴落し、外国資本は日本市場から逃げ出し、企業業績は悪化して、大量の失業者が出て、日本経済はパニックに陥るでしょう。

それで公式見解は「ETF買いは必要な施策」から一歩も揺るがないわけです。

(※5)日銀、ETFを1カ月ぶり買い入れ 2月は1回のみ