金融全般

日本人は2,023兆円も持っているのになぜ「お金が足りない」と感じている?

日本にいる日本人のビジネスパーソンに質問です。

  • お金は十分足りていると感じていますか

「全然十分ではない」と感じている人のほうが多いのではないでしょうか。ある調査によると、正社員の84%が自分の給与に不満があります(※1)。

さらに日本の賃金は欧米と比較して上昇率が低いといわれ(※2)、さらには日本経済は長期間低迷しているとさえいわれています(※3)。

しかし日本人の家計には2,023兆円ものお金が眠っています(※4)。

こんなにお金を持っているのに、なぜ少なからぬ日本人は「お金が足りない」「不景気だ」と感じているのでしょうか。

※1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000077217.html
※2:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000173082_1.pdf
※3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1576V0V11C21A1000000/
※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB155Z20V10C22A3000000/

2,023兆円とはどういうお金なのか

日本銀行によると、2021年12月末時点の家計の金融資産は2,023兆円で、前年同期比4.5%増。史上初めて2,000兆円を突破しました(※4)。

「家計2,023兆円」といわれても、額が大きすぎてよくわからないと感じるかもしれません。これはどういうお金と理解すればよいのでしょうか。

日本の世帯が持っている現金や株式や保険などの総額

日本銀行は「家計」を各世帯で行われている経済活動を行う主体、と定義しています(※5)。したがって日本の世帯が持っている現金や株式や保険などの合計が2,023兆円ということになります。

※5:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/grossary/economy/e07.htm/

日本の国家予算の19年分

日本の国家予算といった場合、大抵は国の予算の一般会計歳出のことを指しますが、2022年度は108兆円でした(※6)。

2,023兆円は108兆円の19倍なので、「日本の家計は日本国を19年間運営できる」と考えることができます。

世界第3位の経済大国を20年近く運営できるのはすごいことです。

※6:https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/index.html

現金だけで1,092兆円、2,023兆円の54%

では日本の家計は、2,023兆円をどのような形で持っているのでしょうか。2,023兆円の内訳は以下のとおりです。

単位:兆円  
現預金1,09254%
保険・年金・定型保証54027%
株式21210%
投資信託945%
その他854%
 2,023100%

現金(現預金)は1,092兆円で、全体(2,023兆円)の54%にもなります。日本で「預貯金から投資へ」の流れがあまり進んでいないことがここからもわかります。

ただ、株式の212兆円は前年同期比16%増で、投資信託94兆円も同20%増と飛躍的に伸びています。「預貯金から投資へ」の流れは一応は存在していそうです。

いずれにしても、お金の形が現金でも保険でも株式でもこれだけあれば「お金持ち」という自覚があってもよさそうです。それなのになぜその感覚が希薄なのでしょうか。

若手や中高年にお金持ちの実感がないのは、高齢者が持っているから

「お金が足りない」と感じているのは、若い人や中高年ではないでしょうか。

総務省統計局の2021年の調査によると、各世代の貯蓄現在高と負債現在高は以下のようになっています(※7)。

単位:万円  
平均貯蓄1,880
負債567
40歳未満貯蓄726
負債1,366
40代貯蓄1,134
負債1,172
50代貯蓄1,846
負債692
60代貯蓄2,537
負債214
70代以上貯蓄2,318
負債86

平均をみると、貯蓄が1,880万円で負債が567万円なので、「しっかり預貯金をする日本人」の特徴が現れています。

しかし40歳未満は貯蓄が726万円しかないのに、負債はその2倍の1,366万円にもなります。40代も負債のほうが多く、50代になってようやく貯蓄が負債を上回ります。

そして60代の貯蓄は各世代で最多の2,537万円となり、負債214万円の12倍にもなります。70代以上になると貯蓄2,318万円は負債86万円の27倍にもなります。

60代以上は「大黒字経営」を続けているわけです。

このデータだけをみると、若手と中高年の「お金不足」と、高齢者の「お金たっぷり」の傾向は明らかです。

※7:https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2021_gai4.pdf

賃金が増えないから

負債とは要は借金なので、負債が増えるとお金が不足している感覚が強まります。しかし大きな借金でもあまり気にならないものがあります。それは住宅ローンや自動車ローンなどの、必要経費と認識しやすい借金です。

例えば住宅ローンについては「何千万円もする家を買うのにローンを組むのは当然で、みんなそうしている」と感じやすいですし、「住宅ローンの毎月の支払いは家賃のようなもの」と考えることもできます。

自動車ローンなら「毎日タクシーに乗ったり、毎回レンタカーを借りたりするより割安かもしれない」と思うことができます。

では若者や中高年の「お金不足」感はどこから湧いてくるのでしょうか。

20年で賃金はむしろ減っている

賃金の上昇率の低さが、お金不足感を生んでいるのかもしれません。

厚生労働省によると、1996~2015年の20年間の経済成長率は実質で年平均0.8%増だったのに対し、現金給与総額の実質は年平均0.7%減でした(※8)。

賃金は上昇どころか実質的に減っているのです。

賃金が上昇トレンドにあると、今の給料は高くなくても「時期に高くなる」と思うことができるのでお金の不足感は減少します。

しかし賃金が下降トレンドにあっては、今の給料の額より減るのではないかと心配になり「お金が足りない」という感覚が強まってしまうでしょう。

※8:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000173082_1.pdf

投資をしないから増えるイメージが持てない

先ほど、家計の株式保有額は212兆円で、前年同期比16%増であると紹介しました。日本人の投資意欲は「高まっているのか減退しているのか」といわれれば、高まっているといえるでしょう。

しかし家計の総額2,023兆円のうち、54%の1,092兆円は現金でした。したがって日本人の投資意欲は「十分か十分でないか」といわれれば、十分ではないといえるでしょう。日本人の現金主義はいまだに健在です。

投資は「お金を増やせる」と思ってしている

投資意欲が高くなると、お金の不足感は高くなりにくいはずです。なぜなら投資は、お金を増やすことができると期待して行うからです。

一方現金は、必ずいつか減っていきます。そのため現金で資産を持つ場合、資産を減らさないためには現金を増やさなければなりません。投資でお金を増やさないのであれば、働いて増やすしかありません。しかし1人の人の労働時間には限界があります。つまり、現金を増やす余地に限界があるということになります。これではお金が増えると期待することはできません。

日経平均は2012年→2022年で2.857倍に

もちろん投資にはリスクがあり、投資に失敗すると手持ちの資産が減ってしまいます。

そのため安易に投資をすすめることはできませんし、投資をするなら株式や投資信託のことを勉強する必要があるでしょう。

しかし日経平均は2012年夏から2022年夏までの10年間で、9,100円から26,000円へと2.857倍になっています。

単純計算すると、日経平均に連動するタイプの投資信託を2012年夏に1,000万円分買っていたら、2022年夏には2,857万円の価値になっていたことになります。

まとめ~少なくとも増える感じ欲しい

家計に2,023兆円もあれば、普通はもっとリッチな感じを味わえるはずです。少なくとも余裕は感じられるはずです。そして最低でも、お金が不足している感じは消えていそうです。

しかし実際はそうはなっていません。

それは、お金の居場所が偏っているからでしょう。持っている人は多く持っていて、持っていない人は少ししか持っていません。少ししか持っていない人が増えると、日本全体では「お金不足」感が蔓延してしまいます。

賃金が上昇していないことも問題ですが、それよりも深刻なのはこれから賃金が上昇すると期待できないことではないでしょうか。

今少ないことより、将来的に増えないかもしれない、という思いのほうが心理的にはつらいはずです。「増える感じ」が欲しいところです。