日本の金融はアジアで稼ぐ!イオンはマレーシアへ、三井銀はベトナムへ
少子高齢化は金融機関のビジネスチャンスを奪います。ゼロ金利政策は金融機関の利益をダイレクトに減らします(※1)。日本企業の投資は大きく伸びず、したがって金融機関の融資機会も大きく増えません(※2)。
このように今の日本の状況は、日本の金融機関にとって「よい」とはいえず、それで海外に打って出る銀行などが増えています。
例えばイオン系の金融会社はマレーシアへ、三井住友銀行はベトナムへ向かっています。海外の進出先としては、日本の近隣国であるアジアが人気のようです。
日本の金融機関がアジアでどのように稼ごうとしているのか追ってみます。
※1:https://wedge.ismedia.jp/articles/-/15984
※2:https://www.dbj.jp/pdf/investigate/equip/national/2021_summary.pdf
マレーシアでネット銀行を開くイオンの狙いは
小売大手のイオンは、実は金融業にも力を入れています。イオン株式会社の2021年3月期(2021年3月までの1年間)の連結売上高は約8.6兆円で、そのうち金融業は6%の4,876億円になります(※3)。
イオンの金融事業はマレーシアへの進出を強化しています。
※3:https://ssl4.eir-parts.net/doc/8267/yuho_pdf/S100LDRR/00.pdf
今回はネット銀行、これまでにクレジットカード事業も展開
イオン系の金融会社、イオンフィナンシャルサービス(以下、イオンフィナンシャル)は2022年5月2日に、マレーシアでインターネット専業銀行の免許を取得したと発表しました(※4、5)。
イオンフィナンシャルはこれまで、着実にマレーシア進出を進めてきました。クレジットカード・サービスを1996年に始め、その会員数は今240万人にのぼります。
この「クレジットカード→ネット銀行」の流れも、イオンのアジア戦略に組み込まれています。
※4:https://www.aeonfinancial.co.jp/-/media/AeonGroup/Aeonfinancial/Files/news/2022/news220502_1.pdf?la=ja-JP
※5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB023130S2A500C2000000/
そして小売事業と合体させてマレーシア国民を豊かにする
イオンフィナンシャルはマレーシアで、金融サービスにアクセスできない低所得者層の囲い込みを狙っています。
ネット銀行なら、インターネットを使って簡単に預金や少額ローンのサービスを低所得者層に提供することができます。イオンの戦略は現地に根づいた地域密着型金融サービスです。
本体である小売のイオンもマレーシア事業に注力していてプライベートブランド商品を展開したり、オムニチャネル化を進めたりしています(※3、6)。
イオンのスーパー事業でのマレーシア進出は、金融事業での進出のはるか前の1985年(※3)。当時はジャスコといっていました。イオンの小売のマレーシア事業の実績は実に約40年に及ぶわけです。
スーパー事業ももちろん地域密着型ですし、低所得者層をカバーします。したがってイオンフィナンシャルのクレジットカード戦略やネット銀行戦略とマッチします。人々に金融サービスを提供すればモノが売れます。
イオンはマレーシアでのネット銀行事業は「客のニーズに合った商品を推奨するなどして、客の生活をより豊かにする」と述べています(※4)。
※6:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001378.000007505.html
さらなる飛躍に欠かせぬ一手
イオンの国際事業の売上高は年間4,000億円に達し、約5,000億円の総合金融事業や約3,000億円のディベロッパー事業と遜色ないレベルに成長しています(※3)。
ただ、本業の総合スーパー事業(GMS事業)の年間売上高は3兆円、スーパーマーケット事業(SM事業)は3.3兆円となっていて、これと比べると国際事業と総合金融事業は「まだまだ」といったレベル。
イオンフィナンシャルのマレーシアでのネット銀行開設は、さらなる飛躍に欠かせない一手のはずです。
アジア4カ国でもう1つの三井住友をつくる
三井住友銀行も2022年5月2日に、ベトナムの大手銀行「ベトナム・プロスペリティ・ジョイント・ストック・コマーシャル・バンク」(以下VPバンク)と業務提携したと発表しました(※7)。
三井住友銀行の狙いは、アジアでのマルチフランチャイズの拡大とデジタル金融の強化にあります。
三井住友銀行が属す三井住友フィナンシャルグループは、グループ全体でアジア攻略を目指しています。グループ企業の1つであるSMBCコンシューマーファイナンスはすでに、ベトナムのノンバンクに出資しています。
三井住友銀行のVPバンクとの業務提携もこの一連の流れのなかにあります。
マルチフランチャイズ戦略とは
三井住友銀行のマルチフランチャイズはかなり野心的な内容になっています(※8)。
■三井住友銀行のマルチフランチャイズ戦略の内容
- 対象国はベトナム、インドネシア、インド、フィリピン
- 個人から法人までを対象にしたフルバンクのビジネスを提供する
- アジアにもう1つの三井住友フィナンシャルグループをつくる
高い経済成長率が期待できるアジアの国々で稼ぐ覚悟を感じます。
三井住友銀行のアジア進出は2013年のインドネシアが最初で、地場銀行のBTPNに出資しその後子会社化しました。さらに2021年にインドのノンバンクFICCを子会社化し、フィリピンの大手銀行RCBCの株式も取得しました。そして今回のベトナムと続きます。
「もう1つの三井住友フィナンシャルグループをつくる」とは、この4カ国で、バンキング、資産運用、デジタルサービス、コンシューマーファイナンス、リース、証券、オートファイナンスを展開する、という意味です。日本で行っている金融フルサービスをアジアで展開するので「もう1つの」というわけです。
客層は、マス層から富裕層まで、個人事業主から大企業までをカバーします。
※7:https://www.smbc.co.jp/news/j602609_01.html
※8:https://www.smfg.co.jp/beyond/articles/014/
三菱は東南アジアで送金網を構築する
国内最大の金融機関、三菱UFJ銀行もアジア進出を進めています。ここではそのうちの1つである、東南アジアでの送金網の構築について紹介します(※9)。
同行は、いずれも同行の子会社である「タイのアユタヤ銀行」と「インドネシアのバンクダナモン」をつないでリアルタイムで送金できるようにしました。さらに利用者が負担する手数料を6分の1まで値下げしました。
三菱UFJ銀行はベトナムとフィリピンの銀行にも出資しているので、この送金システムをその2カ国にも広げていきます。
三菱UFJ銀行が独自に送金網を構築するのは、国際的な送金システムであるSWIFT(国際銀行間通信協会)を使うと日数と手数料がかかるからです。SWIFTを使わず独自に多国間送金網をつくる動きはイギリスでもみられ、三菱UFJ銀行にはこうした動きに対抗していく狙いがあります。
※9:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2605C0W2A420C2000000/
まとめ~日本が成長するにはアジアで稼ぐしかない
日本の人口減と少子高齢化の流れが止まることはないでしょう。国の経済力は国民の人数によるところも大きいので、国内志向の企業は大きな成長は見込めないはずです。
日本経済が成長するには、企業が海外で稼ぐ力を持たなければなりません(※10)。そしてアジアは日本に近く、政情が比較的安定していて、日本に好意を持つ国が多く、高い成長率も期待できます。
イオンフィナンシャルや三井住友銀行などのアジア戦略は、多くの日本企業の見本になるはずです。
※10:https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2015/2015honbun/i0120000.html