金融全般

地方銀行の再編を牽引するSBIとりそな。戦略はかなり違う

日本銀行は2020年に、経営統合した地方銀行や信用金庫に対して、日銀当座預金に+0.1%の特別付利を行うことにしました。経営統合すれば特別ボーナスを与える、といっているようなものです。

政府も地方銀行に対して、経営統合のコストを補助する方針を示しています(※1)。政府と日銀は、協調して地方銀行の再編を促しています。

この動きに呼応しているのが、ネット金融大手のSBIホールディングス(以下、SBI)と、金融大手のりそなホールディングス(以下、りそな)です。両者は、地方銀行再編ビジネスに力を入れています。

両社とも、最終目標は自社の利益と地方経済の支援になるわけですが、そこに至るまでの道はかなり違います。

※1:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=37696

第4のメガバンクを狙うSBI

SBI社長の北尾吉孝氏は2020年10月に自民党本部で講演して、地方銀行の再編では「数を減らすことより経営改善の質を重視すべき」と、このビジネスへの意欲を語りました(※2)。

SBIはすでに、仙台銀行、きらやか銀行(山形県)、福島銀行、東和銀行(群馬県)、清水銀行(静岡県)、島根銀行、筑邦銀行(福岡県)の7行と資本業務提携を結んでいます。

NHKはSBIのこの精力的な動きについて、第4のメガバンクを狙っているのではないかと推測しています(※3)。つまり、三菱UFJ、三井住友、みずほに続くフィナンシャルグループの構築を、SBIが目論んでいるのではないか、というわけです。

※2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65594020Z21C20A0PP8000/
※3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201216/k10012766461000.html

SBIがやろうとしていることとは

資本業務提携の「提携」という言葉は、手を携えて共に進むイメージを抱かせますが、実際はM&A(合併と買収)の一手法です。つまり将来的には、7つの地方銀行がSBI傘下に入ることも考えられます。小さな銀行を集めて大きな銀行にするのは銀行再編の常套手段なので、その流れは自然です。

しかし、地方銀行の再編には地域金融の強化という社会的な意義があるので、SBIの第4のメガバンク構想には大義名分が必要になります。

SBIの金融商品で地方銀行の顧客を満足させる

北尾氏は地方銀行再編ビジネスについて、次のように語っています(※3)。

●地方銀行を取り巻く経営環境は非常に厳しい
●地方銀行は低金利の情勢とフィンテックの進化を取り込めていない
●地方経済が縮小すれば、地方銀行の経営環境はさらに悪化する
●地方銀行を変えていく知恵が必要でSBIはその手伝いができる

地方銀行が生き残るには知恵が必要で、SBIにはその知恵があるので手助けする、ということです。

具体的には、SBIには、銀行の顧客の資産運用を支援するシステムがあるので、それを地方銀行に提供します。地方銀行はSBIの金融サービスを利用して顧客の資産を増やすことができるので、その手数料を得て自社の収益を改善できます。

外圧で合理化を進める

多くの地方銀行は、地方企業特有のしがらみがあり、なかなか自分たちでは合理化を進めることができません。そこでSBIの外圧が頼りになります。

例えば島根銀行は2017年以来、本業の赤字が続いていましたが、2019年にSBIと提携してから業績が改善、黒字化も視野に入ってきました。島根銀行はSBIとの提携後、店舗の統廃合や事業の選択と集中を進めてコストを削減し、SBIの金融商品を売って収益を改善していきました(※3)。

新生銀行の買収では難航

ここまで順調に地方銀行再編ビジネスを進めてきたSBIですが、新生銀行(本店・東京都中央区)に対する買収は難航しています(※4)。

SBIは新生銀行に対してTOB(株式公開買い付け)を実施しましたが、新生銀行がこれに反対したため敵対的TOBになってしまいました。敵対的TOBは、国の規制が強い銀行業界では異例の事態と受け止められています。

しかも北尾氏は、新生銀行が過去に受けた公的資金3,500億円を返済していないことについて「10~20年という単位でカネを返さないのは泥棒と同じ」と言い放ち、買い付け価格の2,000円については「(これ以上は)びた一文払うつもりはない」と、かなり乱暴な言葉で非難しています(※5)。

強引な印象を受ける人は少なくないでしょう。

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2813J0Y1A920C2000000/
※5:https://www.asahi.com/articles/ASPBX6GFGPBXULFA00N.html

りそなは緩やかにつながろうとしている

大きな野望を掲げて敵対的TOBになろうと地方銀行再編ビジネスを進めるSBIに対し、りそなは緩やかに地方銀行とつながろうとしています。りそなはリテールを得意にしています。リテールとは、個人や中小企業向けの金融サービスのことです。

地方には大企業が少ないので、地方銀行はリテール向けサービスを充実させなければなりません。そこでりそなは、自社のリテール・サービスを地方銀行に提供することで、提携していこうとしています。

りそなの金融商品を地方銀行に売ってもらえれば、りそなはコストをかけず販路を拡大できます。一方、地方銀行は、大手銀行の金融商品を顧客に案内できるので、顧客サービスを向上させることができます。

関西みらいフィナンシャルグループを完全子会社化

りそなは2020年11月に、関西みらいフィナンシャルグループを完全子会社化しました(※6)。関西みらいフィナンシャルグループは持ち株会社で、傘下の金融機関は次のとおりです。

持株会社関西みらいフィナンシャルグループ
銀行関西みらい銀行
みなと銀行
リース関西みらいリース
みなとリース
クレジットカード、信用保証みなとカード
信用保証関西総合信用
びわこ信用保証
幸福カード
関西みらい保証
みなと保証
投資業務、経営相談業務などみなとキャピタル
その他事業りそなみらいズ
みなとビジネスサービス
みなとシステム
みなとアセットリサーチ

りそなは「本社」を東京都江東区と大阪市中央区の両方に置くなど、元々関西にも基盤を持つ会社でしたが、関西みらいフィナンシャルグループの子会社化でさらに関西事業を強化できます(※7)。

※6:https://www.resona-gr.co.jp/holdings/news/hd_c/detail/20201110_1397.html
※7:https://www.resona-gr.co.jp/holdings/about/hd_gaiyou/index.html

安易に簡易に

りそなの狙いは、関西圏での地方銀行再編の主導権を握ることにありそうです(※8)。

りそなは、関西みらいフィナンシャルグループを子会社化した目的は、1)全体での業務基盤の再構築、2)関西チャネルネットワークの最適化、3)本部機能スリム化の加速、の3つであるとしています(※9)。

ただりそなには、強引に事を進める意図はないようで、りそな社長の南昌宏氏は「関西みらいフィナンシャルグループは、伸びしろが大きい。今後、関西圏において地域金融機関の再編のプラットフォームとして機能して欲しい」と述べています(※9)。

関西みらいフィナンシャルグループに、関西圏での地方銀行再編ビジネスを任せる意向とも取れる発言です。

南氏はさらに、困っている地域金融機関を補完する形で比較的安易に簡易につながっていきたい、とも述べています(※3)。りそなは関東地方では、茨城県の常陽銀行や栃木県の足利銀行とも連携しています。りそなが開発した銀行取引アプリを両行に提供します。

緩やかにつながれば、つながれる地方銀行側の反発を生まず、軋轢を回避することができます。

※8:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00139/111600015/
※9:https://www.resona-gr.co.jp/holdings/news/hd_c/detail/20201110_1397.html

まとめ~北風と太陽?

現在の地方銀行再編ビジネスは国策ともいえるので、SBIとりそながこのビジネスに乗り出すのは当然のことといえます。国のお墨つきがあるわけですから。

また、地方銀行が衰退すれば地方の企業や住民が困り、地方再生はさらに遠のいてしまいます。地方銀行再編ビジネスは地方経済再生策でもあるので、大義名分はさらに強化されます。このビジネスは儲け主義だけで進めると非難されるので、大義名分はとても重要です。

SBIとりそなの戦略は対照的で、まるで北風と太陽です。物語では太陽が勝ちますが、地方銀行再編ではどちらの戦略が適しているのでしょうか。地方経済の行く末に大きな影響を与えるだけに、今後の動向が注目されます。