地方銀行が実施する企業支援とせまりくる再編の荒波について
地方銀行が管轄する、それぞれの地域経済をサポートする動きを強めています。
例えば、群馬銀行は60億円規模のファンドをつくり、地元企業の事業再生を支援します。また、北海道から九州までの9つの地方銀行が連携して地域再生に取り組む動きもあります。
このような地方銀行の動きは、経済が疲弊している地方には頼もしいことですが、その背景には地方銀行自身の厳しい経営実態があります。
この記事では、地方銀行の活躍ぶりと合わせて再編の荒波も紹介します。
地方銀行はどのように地方経済を支えているのか?
地方銀行の地方再生の取り組みを紹介します。
群馬銀行はコロナ対策も含めて最大60億円の支援ファンドを設立
群馬銀行は2021年2月、最大60億円規模の地場企業支援を目的としたファンド「ぐんま地域共創ファンド」を設立すると発表しました(*1、2)。
支援対象は、群馬県内の中堅企業、中小企業、ベンチャー企業などです。資金の使用目的は事業再生がメインですが、事業承継にも使います。群馬銀行はファンドの設立目的を、地域の産業、技術、雇用を維持するためとしています。このファンドにはさらに、新型コロナウイルス対策の意味合いもあります。
群馬銀行が1億円を出資して、投資専門子会社「ぐんま地域共創パートナーズ」を設立し、ここが3つのファンドを立ち上げます。当初30億円の出資枠を設け、そのお金を使い切ったらさらに30億円のファンドを立ち上げます。したがって支援額の総額は60億円になります。
支援方法は、対象企業の株式を購入したり、劣後ローンを貸し出したりします。劣後ローンを借りた企業は、借入金の一部を資本に組み入れることができます。
お金のサポートだけでなく、経営人材を対象企業に派遣したりコンサルティングサービスを提供したりして積極的に経営にコミットしていきます。
(※1)群馬銀行の新ファンド、5年後めどに60億円組成
(※2)群馬銀行 中小支援へ投資会社を設立 年30億の出資枠設定
地域を越えた地方銀行連合で地方を支える
地方銀行が地方経済を支援することは、当然の部分もあります。日本の銀行の4分の3が地方銀行で、これだけ多くの地域限定金融機関があるのは、地域の企業や個人の金融ニーズを満たす目的があるからです(※3)。
したがって、地方銀行の地方支援には歴史があります。
北海道銀行、七十七銀行(宮城県)、千葉銀行、八十二銀行(長野県)、静岡銀行、京都銀行、広島銀行、伊予銀行(愛媛県)、福岡銀行の9行が連携した「地域再生・活性化ネットワーク」は2014年に結成されました(※4)。
北海道から九州まで日本を縦断する形になったこの9行連携には、地方企業の事業拡大や経営の安定化をスムーズに進める目的があります。
例えば、北海道の企業が九州に進出する場合、その企業は北海道銀行と福岡銀行の両方から融資が受けられるかもしれません。9行集まれば、日本全国をカバーするメガバンクに負けないネットワークを構築できるので、サポート体制が質的にも量的にも充実します(※4)。
こうした動きは国も歓迎していて、経済産業省が所管する独立行政法人中小企業基盤整備機構は2020年に、地方銀行12行と一緒に、中小企業の再生を目的にしたファンドを立ち上げると発表しました(※5)。支援額は総額191億円になります。
(※3)地域銀行の現状と課題
(※4)地銀9行が地域再生で連携 福岡銀など、域外融資も
(※5)12地銀、再生ファンド 中小機構と190億円規模
国は4つの施策で地方金融機関とタッグを組む
経済産業省は「地域金融機関との連携プログラム」をつくり、同省と地方銀行などの地方金融機関がタッグを組んで、地域の中小企業を支援していく枠組みを強化しています(※6)。
経済産業省の1)政策手段や2)地方自治体とのネットワークと、地方金融機関の3)地域密着の営業網や4)企業ネットワーク、5)コンサルティング機能などを持ち寄って、次の4つの施策を進めていきます。
<経済産業省の「地域金融機関との連携プログラム」の4つの施策>
- 企業に稼ぐ力を身につけさせる伴走型支援の促進
- 財務要素と非財務要素の両面を強化する持続可能な経営の促進
- 新たなビジネスモデルへの転換を視野に入れたデジタル化の推進
- 後継者不在企業に対する事業承継支援の推進
地方銀行の再編の動き
地方銀行が地方企業の支援に力を入れるのは本業であるとともに、地方銀行自身が生き残るためでもあります。
国には、地方銀行の数が多すぎるという認識があり、再編は避けられない状況にあります(※7)。再編とは、2つ以上の地方銀行が合併などによってくっつくことであり、そのとき自分の銀行が主導権を握れるかどうかは、今にかかっているかもしれません。
なぜ、地方銀行は再編しなければならないのか?
第1地方銀行と第2地方銀行を合わせた地方銀行は102行で、この30年で2割しか減っていません。「しか」というのは、都市銀行はバブル前の13行から、現行の三菱UFJ、三井住友、みずほ、りそなの4行に減り、その減少率は69%になります。
しかも、地方銀行の経営は厳しさを増していて、2020年3月期の102行すべての地方銀行の純利益の合計額は前年比10%減でした。コロナ禍で赤字に転落した地方銀行もあります。
金融庁はこの現状を厳しくみていて、マスコミの取材に対し「何十年も続いていたビジネスモデルが成立しなくなった。このままではつぶれてしまう銀行も出てくる状況なのに、同じようなことをしている銀行がたくさんある」と回答しています。
厳しい経営環境と国の危機感が、地方銀行再編の原動力になっているようです。
地方銀行の再編はどのように進むのか?
地方銀行の再編をビジネスチャンスとみているのが、ネット証券などを手掛けるSBIホールディングスです。SBIは、第4のメガバンクをつくるつもりで、地方銀行の再編ビジネスに臨もうとしています(※8)。
SBIはすでに、きらやか銀行(山形県)、仙台銀行、福島銀行、東和銀行(群馬県)、清水銀行(静岡県)、島根銀行、筑邦銀行(福岡県)の7行と資本提携しています。また、提携先の地方銀行の資本運用やシステム強化などを支援するために、専門家を派遣しています。
さらに、ゆうちょ銀行も地方銀行再編に乗り出しています。
ゆうちょ銀行は、コンサルティングの株式会社経営共創基盤(本社・東京都千代田区)が設立するファンド「日本共創プラットフォーム」に出資します(※9、10)。
この日本共創プラットフォームは「地方企業」を対象にした再生ファンドですが、その地方企業には地方銀行も入っています。そして、地方銀行支援のメニューの1つに再編があります。
日本共創プラットフォームは1,000億円規模の資金を集めることを目指していて、出資者はゆうちょ銀行のほか、KDDI、三井住友信託銀行、伊予銀行、群馬銀行などが含まれています。伊予銀行と群馬銀行は地方銀行ですので、地方銀行が地方銀行の再編を後押しする構図が浮かび上がります。
一部の地方銀行は地方企業を支援していますが、そのほかの地方銀行は支援される側に入っているわけです。
(※8)地銀再編 SBIとりそなの戦略は
(※9)巨艦・ゆうちょ銀行が地銀再編に名乗り、1000億円ファンド設立へ
(※10)経営共創基盤、地域のDX推進
まとめ~地方経済の深刻化が浮き彫りに
地方経済を支えるには地方銀行の力が欠かせず、地方銀行はその役目を果たそうと懸命です。しかし、その地方銀行自体が支援を必要としている状況にあります。
地方銀行がファンドを設立する動きと地方銀行の再編は、真逆の現象にみえますが、裏ではしっかりつながっています。その両者をつなげているのは、地方経済の深刻化です。
地方銀行がこの難局をどう乗り切っていくのか?地方のビジネスパーソンにも、地方の生活者にも身近な問題であるだけに、注視していく必要があるでしょう。