決済関連

国産クレジットカードのJCBの実力とは~スマホ決済に参入へ

「クレジットカードとは」といわれると、真っ先にVISAとマスターカードを思い浮かべるかもしれませんが、日本のJCBも健闘していて国際ブランド7社といったときにこのなかに含まれます。

そして最近は、スマホ決済に参入すると表明したことでJCBに注目が集まっています。

和製クレジットカードの実力はどれほどのものなのか、探りました。なお記事中のデータや役職などは2022年9月現在のものです。

株式会社ジェーシービーの正体

JCBの会社概要から確認していきます。

JCBを運営する株式会社ジェーシービー(以下、JCB社)は1961年に設立され、資本金は約106億円、従業員数は契約社員を含め4,389人、本社は東京都港区にあります(※1)。

JCB社の主な事業は、クレジットカード事業(JCBのこと)、融資業務、集金代行業などとなっています。

年間取扱高(決済額)は約38兆円にのぼりますが、これだけ大きな企業でも同社は非上場です。主要株主は1)JCB従業員持株会、2)三菱UFJ銀行、3)太陽生命保険、4)三井住友銀行、5)トヨタファイナンシャルサービス、6)オリックスなどとなっています。

JCB社は金融系企業が持つ会社といえます。

代表取締役兼執行役員社長の浜川一郎氏は、京都大学経済学部を卒業したあと三菱UFJ銀行の前身である三和銀行に入行し、その後、三菱UFJフィナンシャル・グループ専務などを経てJCB社入りしています(※2)。

したがってJCB社は、大株主であるメガバンク・三菱UFJと近しい関係にあるといってよさそうです。

JCBの加盟店(JCBが使える店)は国内外で約3,900万店。会員(クレジットカード利用者)数は1億4,600万人です。

JCB社の海外拠点は、中国、韓国、シンガポール、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム、オーストラリア、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、ドバイなどにあります。

※1:https://www.global.jcb/ja/about-us/company/overview/index.html
※2:https://president.jp/

売上高と純利益

JCB社は上場していないので公開されている決算資料は少ないのですが、売上高などが公式サイトに表示されていて、以下のとおり(※1)。

■2021年度決算
取扱高:37兆7,204億円
営業収益(売上高):3,312億円
営業費用:2,937億円
営業利益:374億円
経常利益:385億円
当期純利益:275億円

一般企業の売上高に当たる営業収益は3,312億円で、営業利益が374億円なので売上高営業利益率は11%(≒374億円÷3,312億円×100)です。

クレジットカード業の売上高利益率の平均は10%台前半なので、JCB社は業界平均並みの稼ぐ力を持っているといえそうです(※3)。

※3:https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h17sokuho/pdf/h2c1s2hj.pdf

7大国際ブランド・クレジットカードの一角

クレジットカードの7大国際ブランドは次のとおり。

●JCB
●VISA
●マスターカード
●アメリカン・エキスプレス
●ダイナースクラブ
●ディスカバー
●銀聯(ぎんれん)

ただ7ブランドのなかの規模の大小の幅は大きく、決済情報処理サービスのDGフィナンシャルテクノロジーによると、カード発行枚数が最も多いのは80億枚の中国の銀聯で、決済額は1,630兆円です。JCBの38兆円の43倍の規模になります(※4)。

決済額2位は1,105兆円(8.5兆ドル、1ドル130円で計算)のVISA、3位は559兆円(4.3兆ドル、同)のマスターカードで、いずれもJCBとは桁違いの規模を誇ります。

銀聯は中国国内での売り上げが大きいため、これを除外して世界シェアをみると、JCBは2%となります。

そこでJCBは、同世界シェア9%のアメリカン・エキスプレスや同1%のダイナースクラブなどと連携して世界中で使えるようにしています。

そして日本に限定すると、JCBのシェアはVISAに次ぐ2位です。国産クレジットカードの面目は保っている形です。

※4:https://www.veritrans.co.jp/tips/column/card_share.html#link_02

ビジネスモデルはイシュイング、アクワイアリング、プロセシング

JCB社を含むクレジットカード業界は「結局何をやっているのか」がわかりにくい業界の1つだと思います。

わかりにくさの原因は、ビジネスモデルの複雑さにあります。JCB社などのクレジットカード会社の顧客は、一般消費者(クレジットカード利用者)と小売業などの企業(クレジットカードの加盟店)の2者で、それぞれに異なるサービスを提供しています。

クレジットカードを発行する事業のことをイシュイニングといいます。イシュイニングは一般消費者(クレジットカード利用者)に対するビジネスになります。

クレジットカード・サービスはカードが使える加盟店が多いほど充実するので、加盟店を増やし業務はとても重要で、これをアクワイアリングといいます。加盟店の管理もアクワイアリングに含まれます。

プロセシングは、クレジットカード利用者と加盟店の両方に関係する業務で、両者からの問い合わせに対応したりします。

7兆円市場のスマホ決済(QRコード決済)にいよいよ参戦

JCBは2022年9月、スマホ決済・送金サービスに参入すると発表しました。

日本経済新聞によると、大手クレジットカード会社がスマホ決済・送金事業に参入するのは初めてになります(※5)。JCBにどのような狙いがあるのでしょうか。

※5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB097P40Z00C22A9000000/?unlock=1

スマホ決済勢のクレジットカード進出に危機感を強めたか

国内のクレジットカードの年間取扱高は約80兆円で、スマホ決済のうちQRコード決済は7兆円ほどです。80兆円市場のプレイヤーであるJCBが7兆円市場のQRコード決済に乗り込む形になります。

大きな市場にいるJCBがわざわざ小さな市場に乗り込むのは、QRコード決済で存在感を示しているペイペイや楽天ペイなどの運営会社がクレジットカード・サービスに力を入れているからでしょう。

現金を使わないキャッシュレス決済に慣れてきた消費者は、次第にキャッシュレス決済の種類の多さに不便を感じるようになっています。

QRコード決済を使うときはスマホが必要で、クレジットカードを使うときはカードを提示しなければなりません。

しかし、クレジットカード・サービスがスマホで使えるようになれば、つまりクレジットカードとQRコードが連携すれば、スマホだけで2つの決済サービスが使えるようになります。そのためQRコード決済勢(スマホ決済勢)のペイペイや楽天ペイがクレジットカード事業を強化すれば、クレジットカード単独企業はシェアを奪われかねません。

JCBのスマホ決済進出は、クレジットカード単独企業から「クレジットカード+スマホ決済」企業への脱皮と考えることができます。

JCBスマホ決済の概要

JCBのスマホ決済サービスは、銀行口座やクレジットカードからスマホのアプリに入金して使う仕組みです。

利用者は店で支払うとき、QRコードやタッチ決済機能を使います。

ポイントは利用者の銀行口座からJCBスマホアプリに入金できることで、これにより、JCBのクレジットカードを持っていない人でもJCBスマホ決済を利用することができます。

これはJCBにとって、クレジットカード利用者を増やすチャンスとなるでしょう。

まとめ~安定企業の攻めの姿勢に期待

三菱UFJの役員がJCB社の社長になっていることから、「JCB社は三菱UFJの傘下である」とまではいわないまでも、メガバンクの一角と強く結ばれていると考えてよいでしょう。また、国内市場で一定の存在感があり、稼ぐ力も強いことから、JCB社は安定企業といえます。

そのJCB社がクレジットカード業界のなかで先陣を切ってスマホ決済(QRコード決済)に参入することは「驚きのニュース」といっても大袈裟ではないはずです。

安定企業が攻めの姿勢に転じるのは、キャッシュレス決済市場が盛り上がりをみせているからでしょう。
現金の不便さを感じ始めている消費者は今、最も便利なキャッシュレスを探しています。「これが一番便利」といわれるキャッシュレスになるには、新たな挑戦を続けていくしかないようです。そしてこれは、消費者の利便性を高めるよい競争を生むはずです。