決済関連

何をもってフィンテックと呼び、金融サービスをどう変えるのか?

フィンテックが、ITで金融を進化させていく取り組みであることを知らない人は、もう少数派でしょう。しかし、フィンテックが具体的にどのようなもので、何をもってフィンテックと呼び、人々に何をもたらすのかは、あまり知られていません。

フィンテックを俯瞰してながめてみましょう。そうするとフィンテックが目指すところがみえてきます。

定義:ITによる革新的な金融サービス

日本銀行はフィンテックを次のように定義しています(※1)。

●フィンテックとは、金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を合体させた造語で、金融サービスとITを結びつけた革新的な動き

ここから、単なる「IT+金融」ではフィンテックとは呼ばれず、革新的でなければならないことがわかります。

フィンテックは2000年代前半にアメリカで起こったとされ、金融ベンチャーが、金融サービスにインターネット、スマートフォン、AI、ビッグデータを持ち込んだのがことの始まりとされています。
日銀はフィンテックの事例として次のものを挙げています。

  • スマホによる送金
  • 資金の貸し手と借り手をつなぐ仕組み
  • Eコマースにおける決済サービス
  • ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術

これらがなぜ革新的といえるのか、1つずつ確認していきます。

※1:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/kess/i25.htm/

スマホによる送金の革新性

スマホによる送金の例として、LINEが提供している金融サービスLINEペイを紹介します(※2)。

スマホのLINEペイ・アプリに銀行口座を登録すると、銀行口座からLINEペイの口座にお金が移動します。それをするだけで、LINEペイが使える小売店や飲食店で、スマホだけで支払いが完了します。

そしてLINEペイのユーザーどうしは、銀行口座を介さずお金のやり取りができます。LINEペイのアプリで送金先の人物を選択して、金額を入力してタップすれば、送金元のLINEペイ内のお金が、送金先のLINEペイに移動します。

お金のやり取りをしているのに、貨幣の授受が必要なく、銀行口座すら使いません。これが浸透すれば貨幣をつくって管理するコストと銀行口座を開設して管理するコストが要らなくなります。

スマホ送金はお金のやり取りを根本から変えるもので、革新的といえます。

※2:https://pay.line.me/portal/jp/about/transfer

資金の貸し手と借り手をつなぐ仕組みの革新性

フィンテックは資金調達の方法を劇的に変えています。その例として、クラウドファンディングのマクアケを紹介します(※3)。クラウドファンディングとは、インターネット経由で資金を集める仕組みのことです。

マクアケで資金調達する流れを紹介します。

資金を集めたい人は、自分のプロジェクトをマクアケのサイトに掲載します。例えば、「新商品をつくりたいので、その製造販売に必要な100万円の資金を集めたい」と登録します。

それを読んだ人がその新商品を応援したいと思ったら、自分が支払える出資金の額を登録します。その額の合計が目標額の100万円に到達したら、出資者が出資金を支払い、資金を募集した人が100万円を受け取って新商品をつくります。そして出資金に見合った分の新商品を、出資者に渡します。

マクアケですでに、映画を制作・公開した人や、カスタマイズができる腕時計を開発・販売した人がいます。マクアケの革新性は、銀行などの金融機関を一切使っていないことと、これまで資金の貸し手になり得なかった人たちに出資を促していることにあります。

特に2つ目は、フィンテックだからできたこと、に数えることができます。

※3:https://www.makuake.com/guide

Eコマースにおける決済サービスの革新性

Eコマースにおける決済サービスは、クレジットカード払いや着払いなどのことなので、それ自体は新しいものとはいえません。Eコマースにおける決済サービスの革新性は、Eコマースと決済サービスが合体したことにあります。

もしクレジットカードという仕組みがなかったら、Eコマース事業者は、代金の回収に相当苦労したでしょう。

例えば、もし遠方にいる2者のお金のやり取りの手法が、銀行口座間の送金と入金だけに限られていたら、アマゾンでミネラルウォーターを購入するだけでも苦労したでしょう。

消費者はアマゾンの銀行口座に送金して、アマゾンは着金を確認してからミネラルウォーターを宅配することになります。それは便利とはいえないので、アマゾンのネット通販は今ほど浸透しなかったはずです。

Eコマース事業者は、クレジットカード・システムを含む既存のITをいくつも合体させて、革新的な小売手法を構築しました。フィンテックは小売テックのベースになり、小売テックの革新性を高めました。

ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術の革新性

サービスの目新しさやシステムの斬新さの点では、暗号資産は最もフィンテックらしいフィンテックでしょう。暗号資産を支えているのが、ブロックチェーンです。ブロックチェーンは分散型台帳技術の一種です。

ブロックチェーンでは、複数のコンピュータで取引を記録します。一定期間が過ぎたら、その間の取引情報をブロックという単位にまとめます。そして1つのブロックを複数のコンピュータで検証します。

例えば、1つのブロック(取引情報のかたまり)を3つのコンピュータで検証するとします。このとき1つのコンピュータのなかのブロックの内容を改ざんしたら、他の2つのコンピュータのなかのブロックの内容と合わなくなります。改ざんがすぐに発覚するので、ブロックチェーンは不正されにくいコンピュータ・システムといえます。

ブロックチェーンの仕組みを使っているのが、ビットコインなどの暗号資産です。暗号資産は、コンピュータのなかにだけお金が存在し、インターネットだけでお金のやり取りが行われます。そして今、世界中で暗号資産が飛び交っています。

フィンテックの最も成功した事例といえるでしょう。

なぜフィンテックが必要になったのか

日本銀行は2016年にフィンテックを専門に扱うフィンテックセンターを立ち上げました(※4)。そのフィンテックセンターが、ユニークな疑問を投げかけています(※5)。

●金融+ITは散々やってきたはずなのに、なぜフィンテックが今、騒がれているのか

多くの人が疑問に思っていることを、見事に1文にまとめています。そして日銀は、このような答えを持っています。

●劇的に発達した技術で安価で便利な金融を実現するから

これをさらに短い言葉にすると、革新的となります。つまりフィンテックのすごさは、安くて便利に尽きるというわけです。

なぜフィンテックが安価なのかというと、安価なITを使っているからです。先ほど紹介したEコマースとクレジットカードの合体は、インターネット通販のシステムとクレジットカードのシステムを使っているだけなので、高価なITではありません。

そしてフィンテックの便利さは、スマホによって格段に向上しました。スマホ1台あれば、コンビニでの買い物、送金、映画館の予約、タクシーの予約、飛行機の予約、投資、公共料金の支払いなど、お金に関することのほぼすべてを行うことができます。

注目したいのは、スマホがフィンテックを発展させるために開発されたツールというわけではない点です。

携帯電話にパソコンの機能に搭載したら便利になるだろうと考えてスマホがつくられ、スマホに次々とアプリを搭載していったら金融サービスまで行えるようになりました。

情報通信ツールが金融ツールになったことで、フィンテックの利便性が格段に向上しました。

※4:https://www.boj.or.jp/announcements/annai/genba/focusboj/focusboj21.htm/
※5:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/rel180314b.pdf

まとめ~フィンテックはまだまだ発展する

フィンテックはまだ発展段階にあります。暗号資産は優れた技術であり、それによって経済が動いている事実もありますが、まだ通貨ほどの便利さはありません。

フィンテックがまだまだ発展すると断言できるのは、金融サービスをもっと便利にしてほしいという声はやまず、ITはまだまだ進化するからです。

現在の金融サービスには、古いシステムの陳腐化や運用コストの上昇、リスク管理の難しさ、サービスの充実度の頭打ちといった深刻な課題があります。フィンテックには、こうした課題を解決することが期待されています。