今買ってあとで支払うBNPLは日本で広まる?クレカの欠点を解消?
アメリカ発の新しい決済サービス、Buy Now Pay Later(BNPL、今買ってあとで支払う)が、日本でもジワリと広がっています。
BNPLはいわば後払いサービスであり、それだけならばすでにクレジットカードがあります。BNPLは、クレジットカードの「信用がある人しか使えない」という欠点を解消しました。
ただ消費者は、便利なだけによりいっそう、BNPLの使いすぎには注意しなければなりません。この記事では、BNPLの概要を解説したうえで、日本のBNPL事情について紹介します。
アメリカのBNPL事情
BNPLは、与信がないのに後払いと分割払いができます。与信とは、支払い能力を審査されることです。クレジットカードをつくるには与信が必要ですが、BNPLは銀行口座があれば登録できます。
アメリカのBNPLサービス会社には、スクエア、アファーム・ホールディングス、ペイパルなどがあり、欧州にもBNPLサービス会社があります。
なぜ与信がないのに後払いが可能になったのか
クレジットカード会社が、利用希望者の支払い能力を審査するのは、後払いできるかどうかを知る必要があるからです。
したがって与信がないということは、ユーザー(買い物客)の支払い能力を把握しないということになります。なぜBNPLサービス会社は、与信を廃止することができたのでしょうか。
それは、BNPLが、支払いが遅れると利用可能額を制限するペナルティを課しているからです。このペナルティによって、ユーザーの支払いが滞るリスクを減らすことができます。
BNPLの利用者はクレジットカードが使えない人や使いたくない人なので、BNPLが利用できなくなると他に後払いできる仕組みがないので困るはずです。そのため、BNPLのユーザーには「ペナルティを課せられないようにしよう」という心理が働きやすくなります。
BNPLのペナルティには、利用可能額の制限の他に、支払いが遅れたときの延滞料や利用停止などがあります。
少額取引のBNPLは、そもそも支払い遅れリスクが小さい
BNPLには、少額の買い物で使われることが多いという特徴があります。
BNPLでは例えば、数万円の買い物をして、4分割で2週間ごとに支払う、といった返済スケジュールが採用されます。住宅ローンや自動車ローンのように百万円単位や千万円単位の借金を抱え、毎月何十万円も返済する後払いではありません。
したがってBNPLの支払いでは、ユーザーが「どうしても支払えなくなる」という状況に陥ることはまれです。少額なので、ユーザーが「BNPLが使えなくなると困るから無理してでも支払いを済ませよう」と思えば、なんとか支払うことができます。
少額取引のBNPLは、そもそも支払い遅れのリスクが小さいので、与信が必要ないわけです。
日本のBNPL事情
日本でBNPLが注目されたのは最近のことです。
アメリカのペイパルが2021年9月に、日本のBNPL会社、株式会社ペイディ(本社・東京都港区)を3,000億円で買収することを決めました(※1)。
※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN081920Y1A900C2000000/
ペイディのサービス内容
ペイディのサービス内容を紹介します。
消費者は、店がネット通販サイト(ECサイト)を持っていて、ペイディに登録しているときに使うことができます。ペイディのサービスが優れている点は、利用者が事前に手続きをしなくてよいことです。
利用者は、店のECサイトで購入する商品を選んだら、支払い手続きのページで「あと払い(ペイディ)」を選択します。
続いて利用者のメールアドレスと携帯電話番号を要求されるのでそれを入力します。するとすぐにSMS(ショートメール)で4桁の認証コードが送られてくるので、店のECサイトのページに入力します。
これで、買うときの手続きは完了し、後日商品が届きます。この段階では支払いの手続きはしていません。
支払いは、買い物をした翌月に行ないます。翌月の3日までに、ペイディから利用者に、メールとSMSで請求金額が届きます。そのとき、コンビニ払い、口座振替、銀行振込のいずれかを選択して、10日までに支払いを済ませます。買い物は何回でもすることができます。
ペイディに1)運転免許証またはマイナンバーカードの画像、2)顔写真を送信して手続きすると、ペイディプラスにアップグレードすることができます。
ペイディプラスなら、3回までの分割ができます。1)と2)が与信になるので、より未払いリスクが低下するので、より有利な支払い方法が選択できるようになります。ペイディプラス手続きは無料で、3回分割の手数料も無料です。
日本のプリンをグーグルが買収
2021年7月、やはりアメリカ企業のグーグルが、BNPLと似たサービスを提供している株式会社プリン(本社・東京都港区)を買収することがわかりました。買収額は200億円と推定されています(※2)。
プリンのメーンのサービスは個人間の送金です。スマホ・アプリを使い、友人や家族などにお金を送ることができます。お金を送ると自分の銀行口座の残高が減り、お金を受け取ると自分の銀行口座の残高が増えます。送金手数料はかかりません。飲み会での割り勘などに便利です。
プリンでは同じことを、個人と店舗の間で行うことができます。
プリンを使うことができる店で支払いをするとき、店側は専用端末で支払い額を提示します。客は、その金額を確認したら、自分のスマホのプリン・アプリで店が提示したQRコードを読み取ります。これで支払いは完了します。
プリンを使うための準備は、銀行口座を保有し、アプリをスマホにダウンロードするだけです。
自分の銀行口座からプリン・アプリにチャージする必要があるので後払いではなく、厳密にはBNPLではありませんが、銀行口座とスマホ・アプリが連動しているので、支払いの利便性は向上するでしょう。
また、プリンは「クレジットカードを使いたくない人や、クレジットカードを持ちたくても18歳未満で持つことができない人でも安心して使うことができる」とPRしていて、クレジットカードの牙城を取り崩そうとする姿勢はBNPLと同じです。
※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB135DM0T10C21A7000000/
BNPLの将来性
BNPLサービス会社であり、JCBや三井住友銀行などが株主になっている株式会社ネットプロテクションズホールディングス(本社・東京都千代田区)が、BNPLの将来に関する興味深いレポートを公表しているので紹介します(※3)。
※3:https://corp.netprotections.com/news/press/202003270001
BNPLのメリット
BNPLは、消費者と企業の双方に、次のようなメリットをもたらすと考えられています。
<消費者のメリット>
・後払いを利用できる(買い物をする前にお金を用意する必要がない)
・個人情報の漏洩リスクが低い
・クレジットカードを持つことができない人でも利用できる
・購買機会が増える
<企業のメリット>
・代引きと比較すると、受け取り拒否などの事故が発生しにくい
・受注後に入金を待たずに商品を出荷できる
・代金の未回収リスクを減らすことができる
・消費者の購買機会が増えるので、買い渋りや販売機会損失を減らすことができる
消費者が買いやすくなるので、企業が売り上げを伸ばしやすくなる、と考えることができます。
請求書払いがスマホ決済に進化
日本ではBNPLという言葉が広まる前から実質的にBNPLといえるサービスが普及していました。それは、請求書払いです。
小売店が客から注文を受けると、未払いの段階で商品と請求書を客に送り、客は商品を受け取ってから請求書を使って支払いを済ませます。これには、客が商品だけ受け取って、請求書払いをしないリスクがありますが、もし支払わなければ客は二度とその小売店から購入することができないことが未払いの抑止になります。
日本で請求書払いが普及したのは、コンビニや郵便局などの請求書払いができる場所が多く存在するからです。したがって現在のBNPLは、請求書払いの進化版と考えることができ、認知度が上がれば意外に早く普及するかもしれません。
まとめ~実質的な借金であることには注意を
本記ではBNPLのメリットにフォーカスしましたが、後払いである以上、実質的に借金をつくることは変わりありません。
つまり、後払い方法が便利になるということは、より借金を増やしやすい環境になることに他なりません。BNPLサービス会社も、BNPLを利用する企業も、消費の喚起を期待してこのサービスを提供しています。
消費者がBNPLのメリットだけを得るには「使いすぎないこと」が大切です。