今さら聞けない「トークン」とは何か?最近の動きも紹介
世間で普通に使われるようになったのに、しかも「なんとなく」は理解できているのに、それでも正確に説明することはできない言葉を、誰しも2、3個は持っていると思います。
金融や暗号資産の領域でよく出てくる「トークン」はその1つではないでしょうか。
トークンの理解を邪魔するのが、tokenの元の意味が「象徴」であることだと思います。金融や暗号資産のトークンは象徴とはかけ離れている印象があります。
トークンの知識は、これから到来する暗号資産時代やキャッシュレス時代において必要になるはずなので、今ここで理解してしまいましょう。
この記事ではトークンの基礎知識に加えて、トークンに関連した最近の話題を紹介します。
基礎編:トークンとはデジタルなお金のこと
トークンの理解を難しくしているもう1つの理由は、トークンの対象が複数あることです。新しい概念なのに複数の意味があると、1つのトークンを覚えたあとに2つめのトークンが現れて混乱します。
複数あるトークンのうち、最初に押さえておいたほうがよいトークンはデジタル・マネーです。
硬貨、紙幣、デジタル・マネー、暗号資産、そしてトークン
マネーの基本形は貨幣であり、貨幣には硬貨と紙幣がありますが、最近はデジタル・データもマネーとして機能しています。
100円玉をコンビニの店員に渡すとおにぎりを得ることができますが、スマホをレジの横にある機械にかざしてデジタル・データを送っても、おにぎりを手に入れることができます。
このデジタル・データのことをデジタル・マネーと呼び、この一般名としてトークンが使われることがあります(※1)。
さらに暗号資産のことをトークンと呼ぶこともあります。
「トークンとは」と聞かれたら、まずは次のように答えるとよいでしょう。
- デジタル・マネーや暗号資産はお金を象徴するものといえるので、トークンである
※1:https://www.smbc-card.com/mem/hitotoki/cashless/token.jsp
応用編1:トークンとは認証の仕組みのこと
デジタル・マネーはデータでしかないので、つまり物理的な物体ではないので、デジタル・マネーをお金として使うにはデータの内容を把握する物が必要になります。
データを把握する物のことを認証デバイスといい、トークンはこの仲間です(※1)。ちなみにデバイスとは機器という意味です。
「デジタル・マネーの内容を把握する認証デバイス」と聞くと難しい機械をイメージするかもしれませんが、クレジットカードのカードや、スマホのなかに入っているアプリなどがこれにあたります。
トークンは認証デバイス(機器)ではなく、認証の仕組みを指します。
応用編2:ワンタイムパスワード
トークンの理解の応用編その2として、クレジットカードのワンタイムパスワードという仕組みを紹介します。
この特殊なパスワードもトークンです。
普通ではないパスワード、1回しか使えない
消費者がクレジットカードを使ってECサイトで買い物をするとき、ECサイトはクレジットカードのパスワードの入力を要求します。このときのパスワードは、自分で変更しない限り常に同じ番号である「固定パスワード」です。
これがいわゆる普通のパスワードです。
一方ワンタイムパスワードは、クレジットカードを使うたびに新たに発行され、1回使ったらもう使えなくなります。
さらに、発行されたものの使わずに放置しておくと60秒で無効になってしまいます。
ワンタイムパスワードを使うには、クレジットカード会社のアプリをスマホにダウンロードする必要があります。このとき、自身のクレジットカード情報をこのアプリに登録します。
クレジットカード会社と提携しているECサイトで買い物をすると、決済(支払い)手続のところでワンタイムパスワードの入力画面が現れます。
このタイミングでスマホのアプリを立ち上げて、ワンタイムパスワードを発行させます。そのワンタイムパスワードをECサイトの入力画面に入力すると決済できます。
この仕組み全体をトークンと呼んでいます。
応用編3:暗号のことをトークンと呼ぶこともある
さらに混乱するかもしれませんが、暗号のことをトークンと呼ぶことがあります。
クレジットカードを使ってECサイトで買い物をするとき、ECサイト画面にクレジットカード番号を入力します。クレジットカード番号はこのあと、ECサイト会社やクレジットカード会社などで使い回すことになるので漏えいリスクがあります。
そこで、クレジットカード番号を暗号化して使い回すようにしています。
ECサイト会社やクレジットカード会社は暗号を解く方法を知っているので、受け取った暗号を自社で解いて処理できます。
そして万が一漏えいしても、第三者は暗号を解く方法を知らないので、暗号からクレジットカード番号を類推することはできず悪用できないわけです。
この暗号のことをトークンと呼んでいます。
このトークンは、上記で紹介したトークンとは性質が異なる印象があります。
トークン・ビジネスの事例
トークンは魅力的なビジネス対象になりつつあります。
トークン投資でトークン企業を支援する
野村ホールディングスとSBIホールディングスは共同で、トークン・ビジネスに着手します(※3)。ここでのトークンは、デジタル資産を指します。
野村・SBIのトークン・ビジネスは投資です。
野村やSBIなどの金融機関が企業に投資するとき、株式を購入する方法が使われます。企業が発行した株式を金融機関が買えば、企業にお金が入るので事業を拡大することができます。企業が成長すれば株価が値上がりするので、その株式を持っている金融機関は儲かるわけです。
野村・SBIのトークンを使った投資は、株式の代わりにトークン(デジタル資産)を使います。
企業はトークンを、株式のように発行することができます。野村・SBIは、投資をしたい企業にトークンを発行してもらい、それを購入します。
野村・SBIはトークンを保有し続けて値上がりを待ったり、高値でトークンを売ったりして利益を得ます。
野村・SBIのトークン投資の対象は、デジタル資産関連やブロックチェーン関連のビジネスをしている企業です。
デジタル資産やブロックチェーンに関連した企業は当然のようにトークンを使っているので、これらの企業をトークン企業と呼んでもよいでしょう。
したがって野村・SBIは、トークン企業をトークン投資で支援する事業を展開しようとしているわけです。
※3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB07A410X00C22A6000000/
トークンの価値を測るスキルが必要だった
トークンを使ったビジネスは今後大きく成長するポテンシャルを持っていて、トークン企業は大きく成長する可能性があります。野村やSBIにとっては、魅力的な投資対象となります。
しかし野村にもSBIにもトークン投資のノウハウがありません。
株式の取り扱いを本業にしている野村、SBIは、株式であれば価値を正確に測ることができますが、トークンの価値を測るスキルはまだ持っていません。それではトークンを使った投資は危なくて実施できないでしょう。
そこで野村とSBIは協力をしてトークン・ビジネスに乗り出したわけです。
ここでトークン投資のノウハウを身につければ、トークン・ビジネスで「乗り遅れる」ことを避けられるかもしれません。
Web3.0で負けるわけにはいかない
野村とSBIがトークン・ビジネスに「乗り遅れまい」としているのは、日本企業に苦い過去があるからです。
今のIT・インターネット時代をWeb2.0と呼ぶことがあります。IT・インターネットの第2世代という意味です。
ITとインターネットの領域で存在感が際立っているGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アップル、マイクロソフト)は、Web2.0の勝者です。
一方日本企業は、Web2.0ではアメリカ勢と中国勢に完敗しました。さらにいえば韓国勢にも台湾勢にも勝てていません。
日本企業は、第3世代のWeb3.0では負けるわけにはいきません。
そしてトークンはWeb3.0のキーワードになります。
野村とSBIのトークン投資への挑戦は、Web3.0への参入宣言ととらえてよいでしょう。
まとめ~そのままの姿で覚えて
新しい概念を示す新しい言葉を正しく理解するには、相当の時間がかかります。
それは難解なだけでなく、「何かに似ているはずだ」と考えてしまうからです。
新しい概念であっても何かに似ていればたやすく理解できるので、「何かに似ているはずだ」という仮説を立てることは大切なことです。
しかしトークンには似たものがほとんどないので、トークンはトークンとして理解しなければなりません。
デジタル・マネーとしてのトークン、認証の仕組みとしてのトークン、ワンタイムパスワードとしてのトークン、暗号としてのトークン、トークン投資としてのトークンを、そのまま理解していくことをおすすめします。