リクルートのキャッシュレスを知ってる?小さな店の強力なサポーター

株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)といえば就職支援や採用支援、旅行のじゃらん、結婚式のゼクシィ、住宅のスーモなどが有名ですが、キャッシュレス事業も手掛けています。

コンビニで買い物をするとき、スマホでピッで済ます支払い方法などをキャッシュレスといいます。

ただ、リクルートのキャッシュレスと聞いてもピンとこない人もいるでしょう。

「コインプラス」や「エアペイ」は知名度が高いとはいえません。

しかしリクルートは、他社のキャッシュレス事業とは大きく異なる戦略を持っています。

それは小さな店が抱える課題を徹底的に解決していくことです。

4つのツール「コインプラス、エアウォレット、エアペイ、エアレジ」

リクルートはキャッシュレス事業を、次の4つのツールを使って展開しています。

●コインプラス:QRコード決済方式のキャッシュレス・サービス

●エアウォレット:コインプラスをスマホで使うためのアプリ

●エアペイ:店舗向けの決済システムでさまざまなキャッシュレスが使える仕組み

●エアレジ:店舗のIT化を進める新タイプのPOSレジ

この4つは、消費者や買い物客向けの「コインプラスとエアウォレット」と、小売店や飲食店などの店側向けの「エアペイとエアレジ」の2つにわけることができます。

以下、その2つにわけて解説します。

【客向け】コインプラスは三菱UFJと共同で運営するQRキャッシュレス

コインプラスとエアウォレットを運営するのは株式会社リクルートMUFGビジネス(本社・東京都中央区、以下RMB)といい、その名のとおりリクルートと三菱UFJ銀行が共同出資して設立した会社です(※1)。

※1:https://www.recruitmufgbiz.co.jp/index.html#company

コインプラスはペイペイやd払いと同じ

コインプラスはQRコード決済で、QRコードを決済(支払い)の手続きで使うものです。ペイペイや楽天ペイ、d払いなどと同じです。

買い物客が自分のスマホにQRコードを出して店側に読み込んでもらったり、店のQRコードを買い物客のスマホで読み込んだりして使います。

エアウォレットはアプリの名称

エアウォレットはコインプラスをスマホで使うときに利用するアプリです。

使い方は次のとおり。

エアウォレットをスマホにダウンロードして、自分の銀行口座と連動させます。この状態でエアウォレットを操作して、銀行口座の残金をコインプラスに変換すると、店でQRコード決済ができます。

また、コインプラスの残高を銀行口座の残高に変換すれば、銀行口座から現金を引き出せます。

手数料1%の衝撃

コインプラスとエアウォレットは、いわば普通のキャッシュレス・サービスです。しかも運営会社のRMBが設立されたのは2019年でかなりの後発組です。

いくらリクルートと三菱UFJ銀行の「看板」があるとはいえ、それだけでは先行するキャッシュレスにかないません。

そこでRMBが打ち出したのは手数料0.99%でした。

消費者や客はコインプラスを無料で使うことができ手数料は発生しません。

しかし店がコインプラスを導入するには、コインプラスに加盟してRMBに手数料を支払う必要があります。

この、客無料・店有料の形態はペイペイなどの他社のキャッシュレスと同じです。

しかし他社の手数料の相場は3%程度です(※2)。

コインプラスはその3分の1で勝負をしかけてきたわけです。

手数料を低額にすると導入する店が増えます。キャッシュレスは使える店が増えないと利用者も増えないので後発組が手数料を下げるのは常套手段ですが、それでも0.99%は大バーゲンといえます。

しかし手数料を安くすれば収益が悪化するわけで、普通の企業では難しかったでしょう。「兆円企業」の2社がタッグを組んだからこそ実現した「手数料破壊」です(※3、4)。

【店向け】エアペイは集客、エアレジは効率化

店がエアペイを導入すると集客効果を得ることができ、エアレジを導入すると業務を効率化できます。

エアペイとエアレジは店舗支援サービスです。

エアペイは55種のキャッシュレスを使える

店舗がエアペイを導入すると、客は55種類のキャッシュレス・サービスを利用できるようになります。もちろんその55種のなかには自前のコインプラスも含まれます。

その他の54種類のキャッシュレスは、ビザ、マスターカード、スイカ、ナナコ、アップルペイなど。さらにコインプラスのライバルであるQRコード決済のペイペイやd払い、楽天ペイも使えます(※5)。

エアペイはリクルートの傘下企業である株式会社リクルートライフスタイルが運営しています。

店にとってエアペイは集客ツールになるでしょう。これを導入することで店は、キャッシュレス客を取り込むことができます。さらに「現金しか使えないなら利用しない」と考えている客を取りこぼさなくて済みます。

※5:https://airregi.jp/payment/

エアレジはPOSレジの進化版

機械式のレジスターがPOSレジに変わったことで店は業務を効率化でき、マーケティングに使えるデータを収集できるようになりました。POSレジは画期的な業務支援システムといえそれで一気に普及しました。

POSレジをさらに進化させたのがエアレジです。

エアレジの導入コストは実質0円で、初期費用も月額費用もサポート費用もかかりません(※6)。ただiPadと周辺機器が必要になります。

エアレジをiPadにインストールすればそれがそのままPOSレジになります。iPadに客から預かったお金の額を入力して「会計する」ボタンをクリックすれば会計は完了。

あとは、自動でプリンター(周辺機器の1つ)からレシートが出てくるので、お釣りとともに客に渡すだけ。

エアレジでは売上管理もできるので、日々の客単価や売れ筋商品もわかります。在庫管理もでき、複数の業務を1人の担当者がこなすことができます。

エアレジにエアペイを連携させることで、キャッシュレス決済のデータもエアレジで管理できるようになります。

エアレジを0円にしているのは、店のオーナーにエアレジの利便性を実感してもらえれば、エアペイの導入を検討してもらえるかもしれないからです。

リクルートは、エアペイを導入した店からは手数料を徴収できるので、ここで利益を確保します。

したがってリクルートにとっては、エアレジを店に無償で提供することは初期投資といえるでしょう。

※6:https://www.recruit.co.jp/service/story/airregi.html

「事業規模はすでに1兆円」リクルートが描く経済圏は

エアペイ事業は順調に拡大していて、これを使った決済流通総額は2022年度に1兆円に達する見込みです(※7)。

ここまでに紹介した4つのツールを使った戦略は、コインプラスとエアウォレットで消費者に利便性を提供し、エアペイとエアレジで店を取り込んで収益化する、という構図になっています。

しかしリクルートが考えていることはもっと大きく、その戦略の名称を「エアビジネスツールズ」といいます。

エアビジネスツールズは、リクルート版経済圏構想といえます。

※7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC129A50S2A710C2000000/

エアビジネスツールズのコンセプト:小さい店に徹底的に寄り添う

エアビジネスツールズのコンセプトは小さい店に徹底的に寄り添うことです。

リクルートは自社のサービス群のなかに、小規模零細店舗向けのサービスが少ないことに気がつきました。そこで店舗をリサーチしたところ、その運営方法は非常にアナログで労働集約型、つまり非効率でした。

例えば、店のオーナーが店長とスタッフと経理と営業を兼ねていることも珍しくありません。そこに人材不足問題が起き、雇用難に見舞われ、長時間労働でそれを補っています。

これでは店のオーナーは理想の店づくりを実現することはできません。

この課題を解決するソリューションとしてリクルートは、2013年にエアレジをリリースします。そこにエアペイなどが加わっていきました。

受付もシフトも予約も1つのIDで利用できる

さらに、受付管理のエアウェイト、シフト管理と勤怠のエアシフト、予約管理のエアリザーブ、管理分析のエアメイトを次々開発して提供しています。

ツールが複数個あるのでツールズです。

そしてこれらのエアビジネスツールズは、1つのエアIDですべてを動かすことができます。

もはや業務支援システムや経営支援システムは珍しいITではありません。多くのシステム会社がさまざまなシステムを開発しています。

しかしリクルートは、メガバンクとタッグを組んでキャッシュレスから店内の小さな業務まで一気通貫で小規模店舗をサポートします。ここまでしている企業は多くないはずです。

1時間のレジ締めが15分に

リクルートによるとエアビジネスツールズを利用したことで、店は次のような効率化を実現できました(※8)。

●エアレジの導入で、1時間かかっていたレジ締めが15分に短縮された

●エアペイの導入で、カード決済の売上高が10倍になった

●エアウェイトの導入で、受付スタッフの客に説明する業務がほぼゼロになった

●エアシフトの導入で、3時間かかっていた従業員のシフトづくりが30分に短縮された

優秀な従業員が2、3人増えたような様変わりぶりです。

※8:https://www.youtube.com/watch?v=bVROGTGctN0

まとめ~丸ごと面倒をみる

キャッシュレス事業を手掛けているのは、IT企業、通信会社、金融機関、流通業、鉄道事業者、EC企業などであり、就職・採用支援のリクルートには縁遠いビジネスだったはずです。

それでリクルートは、キャッシュレス事業に参入するにあたって三菱UFJ銀行とタッグを組んだのでしょう。

しかしリクルートは、普通のキャッシュレス事業はつくりませんでした。

効率化したくてもその余裕がない小さな店にターゲットを絞り、ニーズを探り、1つひとつソリューションをつくりあげていきました。

リクルートは、店の課題を丸ごと解決していこうとしているのです。

店のオーナーが1つの課題を解決するために1つのソリューションを探し出すのではなく、リクルートがソリューション・メニューをつくり、それをオーナーに渡して利用できるものを使ってもらいます。

今後の展開に期待が高まります。