ネット通販(EC)とキャッシュレス決済は共存共栄の関係にある
ネット通販などのECを頻繁に利用していると、ネットでモノを買う行為とキャッシュレス決済の利用が一体化しているように感じるかもしれません。
例えばアマゾンのヘビーユーザーは、アマゾンのサイトで商品を選んでクレジットカードで支払って宅配便で商品を受け取る一連の流れを、ほとんど無意識に進めているのではないでしょうか。
しかし当然ですが、ECビジネスとキャッシュレス決済ビジネスは、それぞれ独立して存在しています。それでも一体化しているようにみえるのは、ECとキャッシュレス決済が共存共栄の関係にあるからです。
この「新しい生活経済」の様子を探っていきましょう。
ECで人気の決済はレジットカードとコンビニ払い
経済産業省によると、ネット通販での決済方法(支払い方法)の利用状況は、決済方法別に次のようになっています(※1)。
<ネット通販における決済方法別の利用状況(複数回答)>
決済方法 | 率 |
クレジットカード | 66.1% |
コンビニ払い | 30.9% |
代金引換 | 26.9% |
銀行や郵便局での振込・振替 | 23.7% |
ネットバンキング、モバイルバンキング | 12.4% |
通信料金やプロバイダ利用料金への上乗せ | 11.5% |
電子マネー | 4.2% |
現金書留、為替、小切手 | 1.6% |
その他 | 1.0% |
クレジットカードが7割近くも占めました。「ECといえばクレジットカード」という実感にはエビデンスがあることがわかります。2位は3割強のコンビニ払いですが、3位の代金引換も四捨五入すると3割になります。
コンビニ払いはコンビニ決済ともいい、商品と一緒に送られてくる払込票をコンビニに持っていき、決済の手続きをしてもらいます。
代金引換は代引(だいびき)と呼ばれることのほうが多いかもしれません。代金引換は、購入者が、商品を運んできた宅配業者に代金を渡す仕組みです。宅配業者は、EC会社から、代金引換業務の手数料を受け取ります。
※1:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/H30_hokokusho_new.pdf
ECから先にキャッシュレス化している
先ほどの表を「キャッシュレス」と「現金・その他」にわけると次のようになります。
「銀行や郵便局での振込・振替」には現金振り込みありますが、口座間でのお金の移動も活発なので、ここでは「キャッシュレス」にカウントしています。
決済方法 | 率 | 「キャッシュレス」or 「現金・その他」 | キャッシュレス 計117.9% 現金・その他 計60.4% |
クレジットカード | 66.1% | キャッシュレス | |
コンビニ払い | 30.9% | 現金・その他 | |
代金引換 | 26.9% | 現金・その他 | |
銀行や郵便局での振込・振替 | 23.7% | キャッシュレス | |
ネットバンキング、モバイルバンキング | 12.4% | キャッシュレス | |
通信料金やプロバイダ利用料金への上乗せ | 11.5% | キャッシュレス | |
電子マネー | 4.2% | キャッシュレス | |
現金書留、為替、小切手 | 1.6% | 現金・その他 | |
その他 | 1.0% | 現金・その他 |
複数回答なので合計で100%になりませんが、キャッシュレスが計117.9%、現金・その他が60.4%となり、キャッシュレス化の波がECに押し寄せていることがわかります。
この状態は異例といってよく、日本のすべての決済に占めるキャッシュレスの割合は2018年で24.1%にすぎません(※2)。
つまり、日本ではいまだに決済の75.9%(=100%-24.1%)が現金によって行われているのに、ECだけ、キャッシュレス優位・現金劣勢になっているのです。
QRコード決済とスマホ決済はECキャッシュレス化の原動力になる
経済産業省は、ECでのキャッシュレス化は、QRコード決済とスマホ決済の普及によってさらに進むとみています。次のように述べています(※1)。
<ECにおけるQRコード決済の今後についての経済産業省の見方>
QRコード決済の動向は、EC分野と無縁ではない。現在、QRコード決済サービスを提供する企業は群雄割拠の状態である。QRコード決済の利用IDがECでの決済でも利用可能となれば、実店舗で広く利用されユーザー基盤の大きい企業のQRコード決済サービスが、その優位性をもってEC側にも大きな影響を与える可能性が想定される。利用者の観点で捉えれば、ECでも実店舗でも同じ企業のQRコード決済サービスが利用できれば便利であるといえる。
ECと実店舗の両方でQRコード決済が使われることになれば、ECビジネスにも消費者にもよい影響をもたらす、というわけです。QRコード決済の技術はスマホ決済でも使われていて、また、クレジットカードのスマホ化も進んでいます(※3)。
スマホは、どの世代からも愛用される優れたツールなので、スマホ決済が便利になればさらにECでの利用も増えていくでしょう。QRコード決済とスマホ決済は、ECのキャッシュレス化の原動力になります。
日本のすべての決済に占めるキャッシュレスの割合は24.1%なので、明らかにキャッシュレス後進国です。韓国のキャッシュレス化は96%ですし、イギリスでも69%、中国は66%です(※2)。
日本のキャッシュレス化には、のびしろがたくさんあります。ECにおけるキャッシュレス化の波がスマホ決済の大波をつくり、それが消費全体を飲み尽くす日もそう遠くないのかもしれません。
※2:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf
※3:https://paypay.ne.jp/store-media/sppay/0024_spp_works/
日本のECの現状
ECで主流になっているキャッシュレスが消費全体に波及するかもしれない、と推測できるのはECの勢いが増しているからです。
経済産業省によると、日本のEC市場の成長率(前年比)は、2017年7.45%増、2018年8.12%増でした。日本の実質GDPの成長率が2017年1.8%増、2018年0.3%増であることを考えると、ECの伸びは目を見張るものがあります(※4)。
ECはなぜここまで元気なのでしょうか。
ECの成長を支える安さと便利さ
ECの高成長の背景には、1)ネット通販で買う方が安い、2)利便性が増している、の2つの要因があります。American Economic Reviewの「ネットと実店舗ではどちらが安いのか」調査の結果は次のとおりです(※1)。
国 | ネットのほうが安い | 実店舗のほうが安い | 同じ程度 |
日本 | 45% | 7% | 48% |
アメリカ | 22% | 8% | 69% |
ドイツ | 23% | 4% | 74% |
イギリス | 7% | 2% | 91% |
中国 | 6% | 7% | 87% |
日本では圧倒的に、ネット通販で買うほうが安いことがわかります。デフレがなかなか終わらない日本には、安い物好きという国民性があるといえ、安さは小売業の武器になります。
実店舗のほうがコストがかかるので、ネット通販のほうが安いのは理にかなっていますが、比較サイトの存在も大きいでしょう。ネット通販では誰でも簡単にスマホで価格を比較でき、安いネット店を簡単にみつけることができます。親切にその情報を集めて掲載したのが比較サイトです。
このことによって、「EC対実店舗」に加えて「EC対EC」の競争が起き、価格の押し下げ圧力なっていると推測できます。
そして実店舗側がECに進出したことで、いわゆるネットとリアルの融合が起き、消費者の利便性が増しています。消費者は、実店舗で商品を手に持って確認してECで買う、といった消費行動を取ることができます。また、ECで買って実店舗で商品を受け取ることもできます。
ネットとリアルの融合は実店舗も便利にしているのですが、既存勢力の実店舗に対してECは新興勢力なので、ECが実店舗のパイを奪っているという構図が浮かびあがります。
さらに「ECではクレジットカードなどのキャッシュレスで支払うのが当たり前」という風潮も、ECの利便性を高めていると思われます。
ECで初めてキャッシュレスで決済して、その便利さを体験した人は、「次もECで買おう」と考えるはずです。
なぜ政府はキャッシュレス決済を後押しするのか
政府もキャッシュレス化の波をつくろうとしていて、例えば経済産業省には「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会」という組織があるくらいです(※5)。その名のとおり、キャッシュレスを大手小売業だけでなく、中小店舗にも広げようとしています。
この検討会では、キャッシュレス決済の導入コストについても話し合われています。現状を「加盟店手数料の負担が重く、キャッシュレス決済導入のメリットがみえづらい」と分析しています(※6)。
政府がこれだけキャッシュレスに肩入れをするのは、次のようなメリットがあると考えているからです(※7)。
<経済産業省が考えるキャッシュレス普及のメリット>
●キャッシュレスは、消費者に利便性をもたらし、事業者に生産性向上をもたらす
●消費者は、消費履歴の情報のデータ化により家計管理が楽になる
●消費者は、大量に現金を持ち歩かずに買い物ができるようになる
●事業者は、レジ締めや現金取り扱いの時間の短縮が見込める
●事業者は、キャッシュレスに慣れた外国人観光客の需要を取り込むことができる
●事業者は、データ化された購買情報を使って高度なマーケティングを実現できる
キャッシュレスは民間企業の一サービスにすぎないので、国が支援するには理由が必要です。これだけメリットがあれば、消費者生活にも日本経済にもプラスになるので、十分理由になると考えたのでしょう。
※5:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_payment/001.html
※6:https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210820003/20210820003.html
※7:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/cashless_documents/index.html
共存共栄の事例:アメリカのEC決済、ペイパルとストライプ
アメリカでは「EC決済」という言葉すらあります(※8)。すでにECとキャッシュレス決済が居一体化していることを物語っています。
EC決済で最も知られているのはペイパルでしょう。ペイパルが提供しているサービスはキャッシュレス決済であり、この点ではクレジットカードと変わりありません。
しかしペイパルの主眼はデジタル化にあり、データ収集やデータ分析に力を入れています。つまり「決済の仲立ちビジネスもするが、同時にデータを集めてデータ・ビジネスも展開する」というスタンスです。
アメリカで急成長しているEC決済に、ストライプがあります。ストライプの創業者のパトリック・コリソン氏はアイルランド出身ですが、会社の本拠地はアメリカ・カルフォルニアにあります。
ストライプが普及したのは便利だからです。スマホのカメラでクレジットカードを撮影するだけで、決済することができます。カード番号を手入力することも、銀行口座を指定することも、アカウントを取得することも、パスワードを入力することも不要です。
ECとキャッシュレス決済の一体化の進化形といえます。
※8:https://president.jp/articles/-/47027?page=1
まとめ~便利さと技術の追求
ECとキャッシュレスの相性がよいのは当たり前かもしれません。どちらもITかつデジタルで、インターネットを使います。ECとキャッシュレス決済の一体化はいわば「隣どうしの技術」がくっついたようなものです。消費者は常に便利さを追求しています。
そしてキャッシュレス事業者は、常に便利な方法を開発するために技術を追求しています。したがってECもキャッシュレスもまだまだ便利になりそうです。