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デジタル地域通貨が続々誕生!お金を地元で回して活性化

「せたがやペイ」「ネギ―」「アユモ」これらはデジタル地域通貨の名称です。それぞれ、東京都世田谷区、埼玉県深谷市、神奈川県厚木市のものです。

かつて、単なる「地域通貨」が流行したことがありましたが、しばらくして廃れてしまいました。それが今、IT化してデジタル地域通貨として復活した形です。

デジタル地域通貨は、スマホで決済できる「○○ペイ」と基本構造は同じですが、地域限定という特徴があります。

デジタル地域通貨を発行すると、その地域内で資金が循環しやすくなり地元企業が潤いやすくなります。その結果、地域内の企業と人々の結びつきが強くなることが期待できます。そしてデジタルならではの恩恵も受けられます。

この記事では、デジタル地域通貨の使い方や効果について解説します。

東京都世田谷区の「せたがやペイ」は商店街発

せたがやペイは、世田谷区商店街振興組合連合会が2021年2月に導入し、8月までに約1,000店が加盟し、延べ利用者数は2万人に達しました。

世田谷区商店街振興組合連合会は紙の商品券を発行していて、これが利用できる店が約3,000店なので、当面はこの数字を上回ることを目標にしています。

せたがやペイの利用方法

せたがやペイを利用するには、スマホの専用アプリをダウンロードする必要があります。そのあと現金をチャージすると、その金額分の買い物ができます。チャージは、セブン銀行のATMで行います。

客は加盟店で買い物や飲食をしたあと、自分のスマホで加盟店が提示するQRコードを読み取って支払いを済ませます。

せたがやペイは行政の支援を受けていて、世田谷区は、利用額に応じて利用者にポイントを付与します。ポイント還元率は最大30%で、総額4.5億円還元という大盤振る舞いです。

ただこれは、行政による支援なので、還元額が予算額に達すれば終了しますが、呼び水の効果は期待できます(※1、2、3)。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2045U020082021000000/
※2:https://setagayapay.com/
※3:https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1307506.html

「巻き込む」力がある

せたがやペイ効果について考えてみましょう。

せたがやペイは加盟店でしか使えないので、加盟店を潤す効果が期待できます。還元率に魅力を感じた人や、スマホ決済ができるなら地元で買い物をしたいと考える人を取り込めます。

また、地域経済振興というと地場の事業者だけで行うイメージがありますが、せたがやペイではセブン銀行も巻き込んでいます。セブン銀行のATMはセブンイレブンのコンビニの店内にあるので、セブン&アイ・ホールディングスも間接的に協力する形になります。地域経済振興にメガ小売企業が関与するのは、力強い限りです。

そして世田谷区は、還元キャンペーンを支援するだけでなく、今後、区が行政ポイントを支給するときに、せたがやペイを使う計画を持っています。

こうした「巻き込み」現象が起きるのは、デジタル地域通貨だからでしょう。ある仕組みをデジタル化すると、そのシステムに別のシステムを連動させることができます。

せたがやペイは、せたがやペイ自体のシステムと、セブンのシステムと、世田谷区の行政システムを連動しています。商店街とメガ小売企業と行政が簡単にコラボできるのは、デジタル地域通貨ならではといえます。

埼玉県深谷市の「ネギ―」は行政上のメリットを追求

深谷市は、深谷ねぎというブランドがあるくらい、ネギの産地です。それでデジタル地域通貨の名称をネギーとしました。ネギーは通貨の単位でもあり、1ネギー=1円としています。

1)スマホにアプリを入れて、2)事前にチャージして、3)店でQRコード決済する仕組みは、せたがやペイと同じです。せたがやペイと大きく異なる点は、行政機関である深谷市がネギーを運営しているところです(※4)。

※4:https://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/79/0510_tiikituuka%20gaiyou.pdf

お金の地産地消

深谷市がネギーを導入した狙いは、地域経済振興と行政コストの削減です。だからこそ、自治体が税金を使ってデジタル地域通貨事業を始めることができた、といえます。

深谷市の人口は2000年の14.6万人をピークに減り続け、同市は、2060年には9万人台になると推計しています。人口が減ると当然、地域の購買力が落ちるので打開策が必要でした。

デジタル地域通貨には「お金の地産地消」機能があるので、地域の購買力を維持する力を期待できます。

行政コストの削減

深谷市は、ネギー事業の運用コストを、ネギー事業のなかで賄うことを目指しています。

もちろん自治体の事業なので、ネギービジネスで利益をあげて、それを事業費に回すことはできません。そうではなく、ネギーによって行政コストを削減できれば、ネギー事業に運用コストを支払っても市の財政にはプラスになる、と考えています。

例えば、深谷市が住民アンケートを行う場合、回答の謝礼をネギーで支払います。ネギーの原資は市民からの税金なので、それが地元商店に落ちれば税金が市民の手元に戻ることになります。したがって深谷市は実質的に無料で市民の意向を入手できることになります。

また、市が関わるボランティア活動に携わった人や、エコ活動をした人、健康に取り組むお年寄りにネギーを付与することも検討しています。

地元商店が潤えば市税が増えるので財政に寄与し、ボランティア活動とエコ活動が広まれば市の財政出動を少しでも抑制でき、健康な人が増えれば医療費や介護費を減らすことができます。

神奈川県厚木市の「アユモ」は厳密には「通貨」ではない

厚木市のアユモは、マイルドな制度です。せたがやペイやネギーと異なり、デジタル地域通貨と円を交換しません。したがって厳密には通貨ではありません。

スマホを使ってアユモを受け取ったり、サービスを受けるときにアユモを使ったりするのは同じですが、現金でのチャージはなく決済もしません。
厚木市は、アユモを「ゲームのように楽しみながら、自然と誰かと顔なじみになったり、誰かの役に立ったりする機会をつくる」ツールととらえています(※5)。

アユモを受け取るには「よいこと」をする必要があります。例えば、店にエコバッグを持参したら50アユモ、清掃活動に参加したら100アユモ、農作業の手伝いをしたら300アユモといった具合に付与されます。受け取ったアユモの「額」が増えると、スマホのアユモ・アプリ内の数字も増えていきます。

貯まったアユモは、特典を提供している店で使うことができます。店側は、客からアユモを受け取って、ドリンクを増量したりアイスのトッピングを増やしたりします。

※5:https://coin.machino.co/about/players

ビジネスチャンスにする動きも

デジタル地域通貨は、新しいビジネスを生み出そうとしています。

NTTデータとフィンテック企業のインフキュリオン(本社・東京都千代田区)という会社が2021年3月、地方銀行など向けにデジタル地域通貨サービスを始めました(※6)。

デジタル地域通貨を始めるにはシステムが必要になるので、そのシステムを販売していきます。販売するデジタル地域通貨システムには、次の機能が含まれています。

●現金をチャージする(いわゆる電子財布)
●銀行の勘定系システムとの連動
●QRコード決済やバーコード決済

デジタル地域通貨の「巻き込み」力が、大手IT企業の食指を動かした形です。

※6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGC198NT0Z10C21A3000000/

まとめ

日本では長年、地方再生が声高に叫ばれてきましたが地域経済は疲弊する一方です。国も自治体も、そして企業も住民も、地域振興には力を入れていますが、その成果は大きいとはいえません。

そのようななかでデジタル地域通貨は、希望の光になる可能性があります。地域限定の通貨のようなものを発行して地元商店での買い物を促す仕組みはこれまでもありましたが、デジタル地域通貨は1)デジタルであることと、2)スマホ決済がすでに広く認知されていること――の2点が新機軸といえます。

デジタル化は、効率化を図ることができるうえに、政府が力を入れているデジタルトランスフォーメーション(DX)政策にも合致します。また、新ビジネスを生みやすく、拡張しやすい特徴もあります。

また、多くの人がスマホ決済は知っているので、突然「この地域でもデジタル地域通貨が始まるらしい」と聞いてもすぐにピンとくるでしょう。デジタル地域通貨は「筋のよさそうな」地域振興策といえそうです。