スーパーマーケットが独自にキャッシュレス決済を運営する理由
「スーパーマーケットがキャッシュレス決済の導入を急いでいる」と聞いても驚かないでしょう。スーパーでペイやクレジットカードを使うことは当たり前のことになっていると思います。
しかしスーパーを運営する会社の半数近くが独自にキャッシュレス・システムを導入していると聞いたらいかがでしょうか(※1)。「独自に」とは、自社でキャッシュレスを用意してそれを客に使ってもらっているという意味です。
キャッシュレスにはすでに、ペイペイやd払いなどが存在し、しかもかなり定着しているのに、なぜスーパーはわざわざ自前で用意するのでしょうか。
それは、薄利多売のスーパーにとって、キャッシュレス・サービス会社に支払う手数料が高いからです。
また自社キャッシュレスなら、自社で顧客情報を集めることができるのでマーケティングに使うことができる重要データを得ることができます。
多くの消費者はキャッシュレスを無料で使っているので、スーパーの苦労はみえにくいところがあります。スーパーがわずか1%に満たないコストの削減にどれだけ心血を注いでいるのか確認していきます。
※1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO76797750Q1A021C2EA2000/?unlock=1
導入済み36%、導入検討11%という人気ぶりの自社キャッシュレス
スーパーが自社でキャッシュレスを導入するといっても、スーパーの社員がシステムをつくるわけではなく、システム会社が販売しているキャッシュレス・システムを購入します。それでも「自社キャッシュレス」といえるのは、自社のスーパーでしか使えないキャッシュレスになるからです。
日本経済新聞と全国スーパーマーケット協会が共同で2021年に、全国のスーパー運営企業にアンケート調査を行いました(※1)。
回答のあった242社のうち、自社キャッシュレスを導入したと回答したのは36%、導入を検討していると回答したのは11%でした。半数近くが自社キャッシュレスを導入しているのは「多い」と感じるのではないでしょうか。
外部キャッシュレスと併用しているケースが多い
首都圏ではライフコーポレーションが電子マネー機能つきポイントカード「LaCuCa」を発行しています(※2)。LaCuCaを使うと買い物300円ごとに1ポイント(1円相当)がつきます。
ライフコーポレーションはクレジットカードのJCBとも提携しているのですが、こちらのポイントは200円で1ポイントなので、同社が客を自社キャッシュレス(LaCuCa)に誘導しようとしているのは明らかです。
ただライフコーポレーションではペイペイやメルカリペイ、ラインペイも使うことができて客の利便性を落とさないようにしています。
※2:http://www.lifecorp.jp/service/card.html
キャッシュレス利用が増えれば自社運営のコストを賄える
関西を地盤にしている平和堂は自社のスマホアプリに決済機能を加える形で自社キャッシュレスを導入します。平和堂でも、ペイペイ、d払い、楽天ペイ、auペイなどの外部キャッシュレスを使うことができます。
平和堂は自社キャッシュレスを導入した理由について、1)今後キャッシュレスの利用が増えることと、2)外部キャッシュレスの手数料が値上がりすると予測していることを挙げています。
自社キャッシュレスを導入すれば、外部キャッシュレスの手数料は支払わずに済みますが、導入コストや運用コストはかかります。しかしキャッシュレスの利用が増えれば自社キャッシュレスの運用コストを賄うことができます。
そして外部キャッシュレスの手数料の値上げが避けられないなら、自社キャッシュレスはダメージ軽減策になります。
専門キャッシュレスの手数料は「高い」が47%
同アンケートで、外部キャッシュレス(キャッシュレス・サービス会社が提供するキャッシュレス)の手数料について尋ねたところ、「大幅に高い」(13.9%)と「やや高い」(32.8%)を合わせた回答は46.7%でした。
スーパーの半分が外部キャッシュレス・コストに不満を持っています。
それでも自社キャッシュレスを導入していないスーパーは外部キャッシュレスを使っているわけですが、それは若者を中心にキャッシュレスの利用が広がっているからでしょう。「キャッシュレスが使えないならコンビニに行く」という流れを阻止するために、外部のものであろうと手数料が高かろうとキャッシュレスを導入しないわけにはいかないようです。
営業利益率がわずか0.82%なら手数料は高いはず
スーパーの平均的な営業利益率は0.82%です(※1)。営業利益率は「営業利益÷売上高」で算出するので、スーパーは1,000円売り上げても8円20銭の営業利益にしかなりません。
キャッシュレスの手数料は一律ではありませんが、一般的にクレジットカードは2%程度、電子マネーなどは1%程度とされています。また、ペイ系は以前は、店側の手数料も無料で運営していましたが、ペイペイは今は店側に1.6%の手数料を提示しているといいます(※1)。
営業利益率が特に低い特売品などは、客がキャッシュレスで支払うと営業利益は0円かマイナスになるかもしれません。まさに「赤字覚悟」となります。
同アンケートで、外部キャッシュレスを導入した理由を尋ねたところ「(当初は)手数料が無料だったから」との回答は54%もありました。スーパーや飲食店などにキャッシュレス・システムを販売しているシステム会社のアララ株式会社は、手数料を1%以下に抑えられると話しています。
自社キャッシュレスでも、システム会社に手数料を支払うことがあるのですが、それでも1%以下なら外部キャッシュレスにかかるコストよりは安く済みます。そして自社キャッシュレスは、コスト以外のメリットもあります。
自社キャッシュレスなら販促やマーケティングに使える
自社キャッシュレスなら、自社ポイントと連動させて客を囲い込むことができます。
外部キャッシュレスもキャンペーンを実施してポイントを付与することがあります。しかし例えばA社のスーパーとB社のスーパーが隣りあっていて、同じ外部キャッシュレスを使っていたら、その外部キャッシュレスのキャンペーンは2つのスーパーに同時に適用されるので差別化できません。
自社キャッシュレスの自社ポイントなら差別化できます。さらに、自社キャッシュレスなら顧客情報や購買データを自社で収集できます。これらのデータを分析すればマーケティングの資料になります。
それらのデータから曜日ごとや時刻ごとの主な客層が判明すれば、その客層が喜ぶ商品を特売品にすることができます。
まとめ~課題は客の利便性
自前主義にはよいところと悪いところがあります。
自社キャッシュレスは自分で自由に運営できて他社と差別化できるのが長所ですが、コストや手間がかかったり大きなトレンドにできなかったりするのは短所です。
例えば、あるペイのヘビーユーザーが、そのペイが使えないスーパーに入ってしまったら不満に感じるでしょう。そして「二度とここでは買わない」と思われてしまうかもしれません。自社キャッシュレスを成功させるには、客の利便性をあげていく必要があります。