スマホ決済を便利に!三菱UFJとリクルートと無印良品が共同で
これだけ経済が多様化すると異色のコラボはもう珍しくありません。しかし、メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループと、ビジネス情報大手のリクルートと、無印良品の良品計画が共同で事業をすると聞いて、何をするのか言い当てられる人は多くないのではないでしょうか。
この3社は、無印良品の会員向けスマホアプリに決済機能を追加して、クーポン利用と代金の支払いを一元化します。もう、小売店のアプリを立ち上げてクーポン券を見せてから、決済アプリを立ち上げて支払いをする、という手間が要らなくなります。
しかしなぜこの3社は協業することにしたのでしょうか。
3社の特徴:共通点ほとんどなし
3社のコラボ事業を解説する前に、3社がどのような会社なのか紹介します。
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループは、三菱UFJ銀行や三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを傘下に持つ、日本3大金融機関グループ(3大メガバンク)の1つです。
同社の2020年度の連結業務粗利益は3兆9,979億円で、純利益は7,770億円。時価総額は2021年9月7日現在8兆4,086億円で国内10位です(※1、2、3、4)。
株式会社リクルートは、人材事業、販促事業などを行っている会社と紹介するより、じゃらん、リクナビ、スタディサプリ、タウンワーク、スーモ、ゼクシィ、カーセンサー、ホットペッパーをやっている企業といったほうがイメージしやすいはずです。これらを1つも知らない日本人は少ないのではないでしょうか。
2021年3月期の売上高は2兆2,693億円で、純利益は1,313億円です(※5、6、7、8)。
株式会社良品計画といえば小売店「無印良品」を運営する会社ですが、この名称は元々は西友ストアーのプライベートブランド商品のものでした。
現在、無印良品は31の国・地域に1,029店を展開し、淡泊なデザインなのにオシャレな商品群のアイテム数は7,500種類に及びます。2020年2月期の売上高は4,387億円で、純利益は232億円でした(※9、10、11)。
このように3社の共通点は有名企業であることくらいで、その他は、事業規模も事業内容も企業カラーもまったく異なります。この3社がなぜくっついたのでしょうか。
※1:https://www.mufg.jp/profile/overview/index.html
※2:https://www.mufg.jp/profile/biz_and_network/group/index.html
※3:https://www.mufg.jp/dam/ir/fs/2020/pdf/highlights2103_ja.pdf
※4:https://info.finance.yahoo.co.jp/ranking/?kd=4
※5:https://www.recruit.co.jp/company/profile/
※6:https://www.recruit.co.jp/
※7:https://www.recruit.co.jp/service/car/
※8:https://recruit-holdings.co.jp/who/value/post_151.html
※9:https://ryohin-keikaku.jp/corporate/
※10:https://ryohin-keikaku.jp/corporate/about.html
※11:https://ryohin-keikaku.jp/ir/finance_info/
h2 無印のアプリを三菱・リクルートが強化する
3社のコラボは、無印良品の顧客向けスマホアプリに、三菱UFJとリクルートが決済機能を追加する、という形で行なわれています(※12)。
無印良品のアプリは、いわゆる小売業アプリなので、ユーザーにクーポン券を配布したりポイントを付与したりすることはできますが、決済はできませんでした。
そのため買い物客は、レジで1)無印良品のアプリでクーポン券を示したあと、2)決済用の別のアプリを立ち上げて支払いをしなければなりません。スマホだけで作業は終わるのですが、2つのアプリを使うのは手間です。
無印良品の小売業アプリに決済機能が備わっていなかったのは、決済の仕組みが複雑で、簡単にクーポン用アプリに追加できなかったからです。決済機能つき小売業アプリはコスト高になります。
そこで三菱UFJとリクルートが共同で、小売業アプリに、決済機能をあとづけで搭載できる技術を開発しました。
「あとづけ決済機能」を搭載した新・無印良品アプリは、ユーザーが登録した銀行口座からお金をチャージしてそれで買い物時の支払いができます。また、チャージしたお金や買い物で貯まったポイントを現金として銀行口座に移すこともできます。
従来の無印良品アプリでも、クレジットカードを登録すれば、1本のアプリでクーポン券やポイントの利用や、支払いができます。しかしこれは、無印良品の小売業アプリとクレジットカードアプリが連動しているだけです。しかもこの場合、無印良品側はクレジットカード会社に手数料を支払わなければなりません。
そのため、無印良品が、クレジットカード経由以外にスマホ決済機能を持つことは意義があります。
※12:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB308XP0Q1A430C2000000/
三菱UFJとリクルートの狙いは
三菱UFJとリクルートが共同で開発した、「あとづけ決済機能」技術は、無印良品以外の小売業アプリにも使うことができます。両社は今後、決済機能がないアプリを使っている小売業にこの技術を販売していきます。
両社は共同しつつも、狙いはそれぞれ異なります。
三菱UFJの狙いはデジタル通貨の布石
三菱UFJがこの事業に乗り出した狙いは、フィンテック事業強化の一環です。金融サービスをITとネットで飛躍的に向上させるフィンテックは、金融業よりIT企業やネット企業のほうが活躍している部分も多くあります。
そのため三菱UFJとしてもフィンテック事業で新機軸を打ち出していかなければなりません。「あとづけ決済機能」で小売業に直接フィンテック・サービスを提供できることは、新機軸づくりの大きな一歩になるでしょう。
また、三菱UFJはデジタル通貨事業に乗り出していて、この「あとづけ決済機能」が小売業アプリに搭載されれば、デジタル通貨の普及を強力に後押しします。
リクルートの狙いは決済システムの普及
リクルートの狙いは、自社で展開している決済システム、エアペイの普及です。エアペイはスマホとカードリーダーで決済できるサービスで、ビザ、マスター、アメリカンエクスプレス、JCBといったクレジットカードや、スイカ、アップルペイ、iD、ペイペイ、auペイといったスマホ決済などと提携しています。
ただエアペイの知名度は、ビザやペイペイなどと比べると、高いものではありません。
「あとづけ決済機能」を普及させれば、小売業を囲い込み利用者を増やすことができます。また、メガバンクの三菱UFJと連係することで、金融ビジネスの信頼性を高めることができます。
ライバルは多い:ユニクロ、セブンでも
三菱UFJとリクルートのタッグは強力な印象がありますが、しかし「あとづけ決済機能」事業は突き詰めればシステム・ビジネスなので、IT、ネット、金融のノウハウがある企業なら同じことができます。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは、決済ができる小売業アプリ、ユニクロペイをすでに実用化しています。ユーザーは、ユニクロペイでクーポン券を受け取って、ユニクロペイで支払いができます。
自前で小売業アプリにスマホ決済機能を搭載してしまうのは、さすが世界のユニクロといいえるでしょう。ファーストリテイリングの時価総額は8兆563億円で、三菱UFJの2つ下の11位です(※4)。だから自前で用意できるわけです。
また、セブンイレブンのセブン&アイ・ホールディングスは、自社開発したセブンペイを2019年に廃止し、スマホ決済のペイペイと提携しました(※14、15)。
セブンイレブン・アプリでペイペイが使えるので、小売業アプリに決済機能がついているのと同等です。
※14:https://www.7pay.co.jp/
※15:https://paypay.ne.jp/guide/seven-eleven/
まとめ~優れているがサプライズはない?
現代の人たちの感覚では、小売業アプリに決済機能がついていないほうが不自然に感じるかもしれません。スマホに小売店からのクーポン券が届くのであれば、そのままスマホ決済できたほうが自然です。
三菱UJF、リクルート、無印良品の「あとづけ決済機能」は、優れたサービスであり画期的な取り組みですが、サプライズはないかもしれません。
なぜなら、あらたに小売業アプリでそのまま支払いができても、消費者は「やっとできるようになったか」と思うだけだからです。それくらい今のスマホ・ユーザーは、これ1台あればならなんでもできると思っているのではないでしょうか。