決済関連

スマホ決済で納税できるようになる?政府がデジタル化を進める理由

政府は2022年1月から、所得税や贈与税などの国税を、スマホ決済で支払えるようにします(※1)。

コンビニでおにぎりをスマホで買うように、スマホを操作するだけで国税を納付できるようになります。支払方法を便利にすることで納税を確実にする狙いもありますが、それに加えて、行政のデジタル化を進める目的もあります。

この記事では、スマホ納税について詳しく解説したうえで、行政のデジタル化が進むとどのような社会になるのか考えていきます。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69173070X10C21A2MM8000/

政府によるスマホ納税の概要

政府が導入するスマホ納税の対象者は、個人事業主や副業を持っている会社員などです。このような人たちは毎年2~3月に確定申告をして所得税や復興特別所得税などの額を確定させて、納税しなければなりません。

個人事業主などが対象、専用サイトで取り扱う

政府はスマホ納税用のサイトをつくります。納税者はスマホなどからそのサイトにアクセスして、税の種類や税の額を入力します。税の支払いは、スマホ決済の仕組みを使います。

行えるのは税を支払うことだけで、確定申告の方法を変える予定はありません。

それでも納税者は納税のために窓口を訪れる必要がなくなり、外出をしなくてよいメリットも非接触のメリットも得られます。

1回の支払い上限は30万円か

スマホ納税は所得税のほか、贈与税も対象とする予定です。ただ、スマホ納税で支払える額の上限は30万円にします。

これはスマホ決済できる額が1回数万円から50万円程度に抑えられているからです。スマホ決済の支払い上限額は、サービスを提供している会社によって異なります。

国税納付のキャッシュレス化はすでに進んでいる

国税の納付のキャッシュレス化は、スマホ決済が初めてではありません。すでに次の4つの方法で、現金に触れずに国税を納付できるようになっています(※2)。

ダイレクト納付

ダイレクト納付は、e-Taxを使っている人が利用できる納税方法です。e-Taxはインターネットを使った税金関連の手続き手法です。ダイレクト納付を使えば、スマホやパソコンで操作するだけで、自分の預貯金口座から振替によって国税を支払うことができます。

振替納税

振替納税とは、納税者の預貯金口座から自動で引き落として納税する仕組みです。

光熱水道費の自動引き落としとまったく同じです。自動引き落としは長年使われている支払い方法ですが、今風にいえばキャッシュレスになります。

インターネットバンキング

国税の支払いはすでに、銀行のインターネットバンキング・サービスを利用できるようになっています。インターネットバンキングとは、銀行の支店やATMで行なえる金融手続きをインターネット上で処理できるサービスです。

クレジットカード納付

国税の支払いでもクレジットカードを利用することができます。ただこれを使うには、納税者が「国税クレジットカードお支払いサイト」から登録する必要があります。

※2:https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/pdf/r02/201020.pdf

地方自治体はすでにスマホ納税を実施

政府によるスマホ納税はそれほど先進的な取り組みではなく、すでに地方自治体は地方税の支払いをスマホ決済で行なえるようにしています。

ここでは東京都と横浜市(神奈川県)の例を紹介します。

東京都のスマホ納税

東京都のスマホ納税は、スマホ決済アプリで税金の納付書に印刷されているバーコードを読み取り、スマホ決済で支払います(※3)。スマホ納税できる税は次のとおりです。

  • 自動車税種別割
  • 土地と家屋の固定資産税と都市計画税
  • 償却資産の固定資産税
  • 不動産取得税
  • 個人事業税
  • 法人都民税
  • 法人事業税など

スマホ納税が使えるのは、納付書1枚の額が30万円以下の税金です。利用できるスマホ決済はペイペイとLINEペイの2つです。

ただ、口座振替(自動引き落とし)で納税している人には納付書が届かないのでスマホ納税はできません。口座振替を中止して、納付書による支払いに切り替えてからスマホ納税することになります。

※3:https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/tozei/index_sp.html

横浜市のスマホ納税

横浜市は2020年4月から市税をスマホ決済とクレジットカードで納付できるようにしました(※4、5)。対象となる税金は次のとおりです。

  • 普通徴収分の市県民税
  • 土地と家屋分の固定資産税
  • 償却資産分の固定資産税
  • 軽自動車税の種別割

横浜市の場合、使えるスマホ決済はペイペイとLINEペイのほかに、ペイBもあります。納税額の上限は納付書1枚当たり30万円以下で、東京都と同じです。また、スマホ決済アプリで納付書のバーコードを読み込む方法も東京都と同じです。

※4:https://qa.city.yokohama.lg.jp/search-detail/4041/
※5:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/nouzei-soudan/nouzei-houhou/smartphone-nouzei.html

行政のデジタル化がもたらすよい未来とは

政府が自治体の「後追い」をしてでもスマホ納税を導入するのは、行政のデジタル化が重要政策になっているからです。政府はデジタル手続法という法律をつくってまで、行政のデジタル化を進めようとしています。

デジタル化された行政は、国民生活にどのようなよいことをもたらすのでしょうか。

デジタル手続法とは

デジタル手続法は2019年12月に施行され、その目的は、デジタル技術を使って行政手続の利便性向上と行政運営の簡素化・効率化を図ることです。

行政の効率化を実現するため、デジタル手続法は次の3つの基本原則を定めています(※6)。

●デジタルファースト

行政手続がデジタルで完結する

●ワンスオンリー

行政機関に一度提出した情報は、二度と提出しなくてよいようにする

●コネクテッド・ワンストップ

民間サービスを含めて、複数の手続きをワンストップで完結させる

※6:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/pdf/digital_gaiyo.pdf

ワンスオンリーとコネクテッドへの期待

3つの基本原則はどれも国民生活を便利にするものです。なかでもワンスオンリーとコネクテッド・ワンストップは、世の中にあふれる「手続に関するストレス」を解消する効果がありそうです。

住む市区町村が変わる引っ越しをすると、住民票や運転免許証、水道光熱、子供の学校、銀行、クレジットカード会社など、さまざまな制度や機関や事業者に対して住所変更をしなければなりません。これらの手続きによって新住所を暗記できるようになる、といったジョークすらあるくらいです。

ワンスオンリーによって1つの行政機関に提出した新住所の情報がそのほかの行政機関にも伝われば、その都度新住所を書く必要はなくなります。また、コネクテッド・ワンストップによって、住民票の転入届の情報が銀行や水道光熱事業者に伝われば、やはり新住所を書く回数は減ります。

速く正確になり確実になる

日本の行政手続のデジタル化の遅れは、2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大で露呈しました(※7)。

政府はコロナ禍の経済対策でさまざまな補助金を打ち出しましたが、アナログな手続が多いために審査が遅れて現金の支給が滞ったり、大量の事務作業が自治体職員の負担になったり、チェック体制が甘く不正受給という事件を生んだりしました。

そしてコロナ禍のはるか前の2007年にも、いわゆる「消えた年金記録問題」が起きています(※8)。持ち主不明の年金記録が5,000万件以上存在することがわかり、大きな社会問題になりました。

原因は、複数の公的年金制度の番号を基礎年金番号に統合した際に古い番号が残ってしまったり、紙台帳の記録をコンピュータに転記するときに誤入力したりしたことでした。

これも行政のデジタル化が遅れたことによる弊害の1つとみてよいでしょう。行政のデジタル化は、あらゆる手続きを速く正確に確実にするはず。とても期待できます。

※7:https://www.sankeibiz.jp/business/news/201221/bsj2012211832003-n1.htm
※8:https://www.nenkin.go.jp/service/nenkinkiroku/torikumi/sonota/kini-cam/20150601-05.html

まとめ~デジタル化されていないのが不思議

IT化が進んでいる会社に勤めている人だと、行政手続をするときに「これも手書きなのか」と驚くことがあるのではないでしょうか。

スマホ決済を多用して現金をほとんど持ち歩かなくなった人は、現金でしか買い物ができないシーンに出くわすと「前時代的」な感覚にとらわれるのではないでしょうか。スマホ納税は、新しいサービスが始まることへの興奮より、「ようやくデジタル化されるのか」といった安堵のほうが大きいかもしれません。

行政のデジタル化には、セキュリティとデジタル対応ができない人へのケアという大きな問題がありますが、それでも進めない理由はないでしょう。