ステーブルコインですら急落。暗号資産とどう付き合えばよいのか?
ビットコインなどの暗号資産への投資は、リターンが大きい代わりにリスクが大きいことで知られています。ただ、アメリカの大手金融機関などではすでに暗号資産を組み込んだ投資用の金融商品を販売しており一定の「市民権」は得ています(※1)。
しかしそれでも投資経験が浅い個人投資家は十分注意する必要がありそうです。なぜなら、暗号資産でありながら価格の乱高下が少ないとされていたステーブルコインが急落したからです。
やはり暗号資産への投資はリスキーなのでしょうか。
※1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-22/QV1BTUDWX2PS01
テラ・ショック、価値が20分の1に
ステーブルコインは暗号資産の一種で、運営の仕組みが一般的な暗号資産とは異なります。そしてステーブルコインには、担保型とアルゴリズム型があり、この違いはあとで解説します。
アルゴリズム型のステーブルコインの1つである「テラUSD」(以下、テラ)が2022年5月下旬、急落しました。
テラは2020年の誕生以降2022年5月8日まで、1テラ=1ドル程度で推移していました。その間、ビットコインなどの一般的な暗号資産は乱高下を繰り返してきましたが、テラは安定していました。
ところが同年5月9日から急速に下落を始め、5月21日には1テラ=5セントをつけました。1ドルは100セントなので、10日あまりで価値が20分の1になりました。
理論上急落しないはずのステーブルコインが急落したことで大きな話題になりました(※2)。
※2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220527/k10013645941000.html
ステーブル(安定的)な理由
乱高下しないはずのテラが急落した理由を紹介する前に、一般的な暗号資産の価格が不安定なのに、ステーブルコインだけが安定していると考えられてきた理由を解説します。
暗号資産は価値の裏づけがないから乱高下する
一般的な暗号資産のなかで最も有名なビットコインの価格は直近1年間で次のように推移しています(※3)。
■1ビットコインの価格の推移
- 2021年7月21日:約340万円
- 2021年10月20日:約760万円
- 2022年6月21日:約270万円
わずか1年弱の間にこれだけ変化するのは、ビットコインの価値が雰囲気や気持ちで変わってしまうからです。「ビットコインっていいよね」という雰囲気が広がると価格が上がり、「ビットコインってなんか恐い」と感じる人が増えると価格が下がります。
雰囲気が気持ちで価格や価値が変わってしまうのは、裏づけがないからです。
裏づけがあると価格変動はそれほど激しくなく、例えば日本円は、日本政府や日本銀行が価値を保証しているので乱高下しません。
この裏づけがあるから日本人の多くは「おにぎり1個は100円くらいで買える」と信じていて、おにぎりはもう何十年も約100円で交換され続けています。
しかしビットコインを含む一般的な暗号資産の価値は誰も保証していないので、雰囲気や気持ちによって簡単に1ビットコインが760万円になったり270万円になったりします。
暗号資産はみんなが一斉に「要る」と考えたから価値を持つようになったので、みんなが一斉に「要らない」と考えたら価値がゼロになります。だから価格が乱高下します。
日本円やアメリカドルや金などは、誰かが「要らない」と言ったら、必ず誰かが「自分が買う」と言うので価格が安定します。
※3:https://bitflyer.com/ja-jp/bitcoin-chart
法定通貨と連動させているからステーブルだった(今までは)
ではなぜステーブルコインだけが、暗号資産のなかで例外的に価格が安定しているのか。それはステーブルコインの価格を法定通貨の価格と連動させているからです。
法定通貨とは日本円やアメリカドルなど1国の政府が発行している通貨のことです。そして「法定通貨の価格と連動させている」とは、例えばドルの価格が上がったらステーブルコインの値段も上がるようにする仕組みのことです。
法定通貨も値上がりしたり値下がりしたりしますが、国内経済や世界経済のなかで使われているので、よほどのことがないと乱高下はしません。
そのため法定通貨連動型のステーブルコインも乱高下しません。
―-と考えられてきました、テラが急落するまでは。
ステーブルでもアルゴリズム型なら結局乱高下する
「ステーブルコインは値動きが安定している」という説明は半分しか本当ではありません。ステーブルコインには法定通貨担保型(以下単に、担保型)とアルゴリズム型があり、後者は乱高下します。テラもアルゴリズム型です。
担保型が本当に安定的であり、アルゴリズム型が本当は安定していない理由を説明します。
ただし担保型でも絶対安定ではない
担保型暗号資産にはテザー、トゥルーUSD、USDコインなどがあり、いずれもアメリカドルを担保にしています。
テザーとアメリカドルの1年間の推移を比較してみます(※4、5)。
- 1テザー:2021年6月110円→2022年6月134円
- 1ドル:2021年6月110円→2022年6月135円
ほぼまったく同じ値動きになっています。
担保型暗号資産の価格が安定しているのは、担保型暗号資産の発行枚数と発行元が保有している法定通貨(テザーならアメリカドル)の数量が一致しているからです。
この状態であれば、もし発行元が担保型暗号資産の運営をやめることになっても、担保型暗号資産の保有者は、法定通貨と交換してもらえると期待できます。
そのため担保型暗号資産は安定しているわけですが、しかしこれですら絶対ではありません。もし発行元が、担保型暗号資産の発行枚数と同額の法定通貨を持っていないことが発覚したら、担保型暗号資産といえども暴落するはずです。
そして担保型暗号資産よりはるかにリスキーなのが、非担保型であるアルゴリズム型暗号資産です。
※4:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/tether/
起こるべくして起こった?
アルゴリズムとはコンピュータの計算方法のことです。アルゴリズム型ステーブルコインの発行数は、コンピュータが法定通貨と連動するように計算して決めています。
それでテラとドルの値動きは連動していたわけですが、しかしアルゴリズム型ステーブルコインそれ自体に価値があるわけではありません。そのため、もし発行者が運営をやめたら、アルゴリズム型ステーブルコインは無価値になる恐れがあります。
価値の裏づけがない点において、また、法定通貨の担保がない点において、アルゴリズム型ステーブルコインと一般的な暗号資産は同じです。そのため両者の乱高下するリスクの大きさは理論上は変わりません。
したがってテラの急落には、起こるべくして起こったという一面があるといえそうです。
テラが急落したのは焦げつき騒ぎが原因か
テラの急落は起こるべくして起こったわけですが、それにしても安定しているとの触れ込みがあったわけなので、テラの急落には何かきっかけがあったはずです。
今回のきっかけは、焦げつき騒ぎでした(※6)。
テラには「アンカープロトコル」というサービスがあります。これは投資家がテラを購入し、そのテラを預け入れると、年利20%の利回りを得ることができる、というものです。年利20%という数字はとても魅力的で、テラの保有者の6、7割はこのアンカープロトコルを利用していました。
急落の発端はSNS情報でした。2022年5月上旬に「アンカープロトコルから大量のテラが引き出された」という情報がSNS上で飛び交い、それがさらなるテラの引き出しを呼び込み、そして叩き売りへと発展してしまったのです。
テラには担保の裏づけがないためその価値を支えきれず急落し、ドルの値動きから離れてしまいました。
※6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220527/k10013645941000.html
まとめ~怪しいわけではないが覚悟は必要
暗号資産に対しては、かねてから不安視する声がありました(※7)。しかし、もちろん暗号資産投資は違法ではありませんし、最近は大手の金融機関も暗号資産投資を扱うようになっています(※8)。
したがって暗号資産投資は決して「怪しい」投資ではありません。
しかし、ステーブルコインですら急落することがわかった今は、 暗号資産投資をする人はそれなりの「覚悟」が必要になったはずです。
「恐い」と感じた人はそもそも暗号資産に手を出さないほうがよいでしょう。低リスク・低リターンの投資はたくさんあります。
また、「覚悟」を決めた人も、暗号資産投資の最初は少額で始めたり、余裕資金で運用したりしてはいかがでしょうか。投資は結局、自己責任になってしまいます。
※7:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000050273.html
※8:https://www.coindeskjapan.com/92109/