決済関連

クレジットカード業界にもたらした新型コロナによる消費への影響

新型コロナウイルス感染拡大は、人々の消費行動に大きな影響をもたらしました。その影響の大半は悪いものですが、良い面もあります。

本格的なキャッシュレス時代の到来により、存在感が増してきたクレジットカード業界も大きな影響を受けました。

巣ごもり消費やネット通販(EC)が伸びているので、その分野に強いクレジットカード会社は潤ったでしょう。しかし、外出自粛、観光自粛、外食自粛で、消費全体としては落ち込んだことで、逆風をもろに受けたクレジットカード会社もあります。

クレジットカード業界の様子は、今後の消費動向を占ううえで重要な資料となるでしょう。

コロナによる個人消費の落ち込み度合い

ニッセイ基礎研究所は2020年11月にレポートを公表し、コロナ禍によって個人消費が大幅に落ち込み、回復は足踏み状態にあると総括しています(※1)。

特に大きな打撃を受けた消費項目は次のとおりです。

<コロナ禍で激減した消費>

  • 鉄道
  • 航空
  • 飲酒
  • 背広
  • 旅行・宿泊
  • 映画・演劇
  • 遊園地
  • 化粧品

ただ、コロナ消費低迷のなかで例外だったのが、以下の巣ごもり関連消費でした。

<コロナ禍でも好調だった巣ごもり消費>

  • 食料
  • ゲーム
  • パソコン
  • 料理の出前
  • マスクなどの保健用消耗品

特に料理の出前は、2020年は前年比97.6%増とほぼ2倍近い伸びとなっています。ニッセイ基礎研究所がとらえた消費傾向は、多くの消費者の実体験に近いのではないでしょう。

そして、クレジットカード業界にも同じ追い風と向かい風が吹いています。

(※1)コロナ禍の家計消費の推移-増えた巣ごもり消費と激減した外出型消費の現状は?

クレカとコロナの関係

クレジットカード業界とコロナ禍の関係は、次のようにまとめることができます(※2)。

  • 消費全体の落ち込みで、クレジットカードの全体の利用は低下した
  • 1万円超の大きな買い物でのクレジットカード利用が減った
  • 数千円以下の小口の買い物のクレジットカード利用が増えた
  • ネット通販などのEコマースと連携しているクレジットカードの利用が伸びた

経済産業省によると、2020年のクレジットカードを使ったカードショッピングの取扱高は前年比2%減となり、コロナ禍の影響が鮮明に現れました。

しかし、クレジットカードを使った決算回数はむしろ増えています。

取扱高が減っているのに決算回数が増えている背景には、クレジットカード購買の小口化があります。クレジットカードを使った買い物の1回当たりの平均単価は、2020年は4,983円で、前年比1割減となりました。大きな買い物はしないが小さな買い物を増やす、という消費スタイルが浮かび上がります。

例えば、数万円の旅行が減って、数百円の日用品のネット購入が増えれば、このような結果になるわけです。

(※2)カード消費「小口化」でEC系急伸 セゾンなど大手は苦戦

コロナ禍が生んだクレカ関連の新サービス

クレジットカード業界には、コロナ禍によって生まれた新しいサービスがあります。

セブン&アイホールディングスは、クレジットカードなどの非接触決済システムを導入しました。コンビニのレジ横に設置したカードリーダーにかざすだけで、サインも暗証番号の入力も不要です(※3)。

また、法律が改正され、クレジットカード会社が与信枠を設定するときに、AI(人工知能)を使うことができるようになりました。

与信枠の設定とは、クレジットカードの利用限度額を決めることです。AIを業務が効率化されるので、素早く与信枠の設定ができます。つまり、クレジットカード・ユーザーの増加と、クレジットカードを使った買い物の増加の2つが期待できるわけです。

(※3)コロナ禍でクレカ発行増加?

巣ごもりをとらえたクレカは好調

クレジットカード業界の明暗のうち、明になったのは、巣ごもりニーズに応えることができたクレジットカード会社です。

楽天カードと、ヤフーショッピングやペイペイを抱えるゼットホールディングス(ZHD)の、2020年のクレジットカード取扱高は、前年比2~3割増と好調でした(※2)。

楽天もZHDもEコマースの巨大企業であり「自宅で必要なものはネット通販で買う」「ネット通販で買うならクレジットカードで支払う」という、消費者の行動変容の恩恵をダイレクトに受けることができました。

大手クレジットカード会社のイオンフィナンシャルサービス、クレディセゾン、ジャックスの3社が、2020年のクレジットカード取扱高で前年割れを起こしていることからも、「Eコマースとクレジットカード」のタッグがいかに強いかがわかります。

航空系クレカは業績悪化

コロナ禍で大打撃を受けたのが、航空系のクレジットカードです(※4)。

ANAカードやJALカードなどの航空系クレジットカードは飛行機関連であることから、コロナ禍で出張や旅行や観光が手控えられたことで、利用減に見舞われました。航空各社にとっては、本業の旅客運送業も低迷しているだけでに、Wパンチの様相を呈しています。

(※4)機能不全に陥る航空系カード

コロナ禍のクレカが消費にもたらしたもの

コロナ禍のクレジットカードは、消費全般にどのような変化をもたらしたのでしょうか。三井住友カード株式会社は2020年12月に「新型コロナウイルスがもたらす消費行動の変化レポート第3弾」を公表しました(※5)。

それによると、クレジットカード決済金額の3割は、Eコマース関連でした。同社は、外出自粛期間以降、Eコマースの購買が増え、それに伴いクレジットカードの利用も増えたとみています。

多くの消費者は、クレジットカードの利用について「お金を使っている感覚がないから、つい使いすぎてしまいそうだ」という懸念を持っています。この懸念はクレジットカード業界にとってネガティブ要素になりますが、この裏には「クレジットカードの利便性は理解しているけど」という気持ちがあります。

したがって、クレジットカード業界には、のびしろがあると考えることができます。使いすぎを抑制できれば、消費者はクレジットカードを使うことでその利便性を享受できることになります。

奇しくもコロナ禍が、一部の消費者に「クレジットカードの利便性は使いすぎ懸念を上回る」と認識させたようです。

(※5)新型コロナウィルスがもたらす消費行動の変化レポート

まとめ~コロナ禍を時代の流れととらえてみる

コロナ禍は消費に打撃を与えた一方で、巣ごもり需要増という変化をもたらし、その影響はクレジットカード業界にもしっかり波及しました。

しかし、単純に「巣ごもり需要増→クレジットカード業界の活性化」となったわけではなく、「巣ごもり需要増→Eコマース増→クレジットカード業界の活性化」というふうに、Eコマースが間に挟まっています。

その結果、Eコマースに力を入れていたクレジットカード会社が恩恵を受けることができました。コロナ禍をあえて「時代の流れ」ととらえると、やはり時代の流れにのった企業が優位に立つということなのでしょう。