金融全般

イーロン・マスク氏のツイッター買収劇に日本の金融機関も熱くなる理由

電気自動車テスラの創業者で宇宙ビジネスも手がけるアメリカのイーロン・マスク氏が約6兆円でツイッター社を買収することが話題になっています。

マスク氏が世界的なSNSを所有すること自体興味深いニュースですが、そこから派生した出来事にも注視したいものがあります。その出来事とは、金融機関がマスク氏に深く関与していることです。

6兆円もの買い物をするのでマスク氏は金融サービスを必要とするわけですが、お金を貸す側の金融機関にはどのようなメリットがあるのでしょうか。そして、マスク氏をサポートする融資団のなかに日本のメガバンクも関わっています。

マスク氏はなぜツイッターが欲しいのか

マスク氏はなぜツイッターを所有したいのでしょうか。マスク氏は確かにツイッターのヘビーユーザーであり、使いすぎることで物議をかもすこともあります(※1)。しかし誰でも自由に無料でツイートできるので、ツイートするために会社を丸々買う必要はありません。

マスク氏には、ツイッター社を買収する大義名分があります。マスク氏はこれまで、ツイッター社がツイート内容を制限していると批判し、「ツイッターは真の言論の自由を可能にするプラットフォームにならなければならない」と主張してきました。さらに「ツイッターは人類の未来に不可欠な事柄が議論されるデジタルの町の広場だ」とも言っています(※2)。

ツイッター社買収は人類の未来を守ることにつながるわけです。

ちなみにマスク氏は37兆円の資産を持つ世界1の富豪であり、史上最高のお金持ちでもあります(※3)。これらの状況証拠だけでマスク氏のツイッター社買収の狙いを推測すると、お金持ちが人類の宝物といえるSNSを守るために立ち上がった、となるでしょう。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0209I0S1A600C2000000/
※2:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61227037
※3:https://www.cnn.co.jp/business/35185939.html

ツイッターのマスク化への批判の声

ただマスク氏によるツイッター買収には批判の声もあります。

マスク流の自由はヘイトの自由を促す?

批判で説得力を持つのは、制限がなくなることへの懸念です。ツイッター社が特定のツイートに制限をかけているから、ヘイトスピーチ(憎悪表現)が減っていると考えることができます。もしマスク氏が「何でも書き込める」という内容の自由をツイッターに持たせたら、ヘイトスピーチもツイートできてしまうことになります。

人権保護活動で世界的に評価されているアムネスティ・インターナショナルは、ツイッターのマスク化は「利用者を守るために設計された仕組みを損なう懸念がある」としています(※2)。

トランプ氏が復活する?

ツイッターを手に入れたマスク氏が、アメリカの前大統領であるトランプ氏のツイートを復活させるのではないか、という声もあります。

トランプ氏もツイッターのヘビーユーザーでしたが、2021年のアメリカ議会襲撃事件を扇動したとして、ツイッター社はトランプ氏のアカウントを永久凍結しました。

トランプ氏はマスク氏のツイッター社買収を歓迎していて「マスク氏はツイッターを改善するはずだ」と述べています(※2)。

アメリカ政府は「気にしている」

アメリカ政府も反応しています。ホワイトハウスの報道官は、現大統領のバイデン氏が「大きいSNSが持つ力を気にしている」と発言。さらに与党民主党の上院議員は「この買収はアメリカの民主主義にとって危険だ」として、巨大テクノロジー企業への規制を強化すべきだとしました(※2)。

ツイッターのマスク化は、全世界の政治と経済と社会に強力な影響力を持つツイッターが1人のお金持ちの手に渡ることを意味し、そこを心配する声は絶えません。

マスク氏による買収を歓迎する声

「お金持ちがツイッターを所有すること」それ自体は、心配はあるにせよ、よいこととも悪いことともいえません。なぜなら世界に影響を与える大きくて重要な企業は大抵、お金持ちが所有したり影響力を持ったりしているからです。

問題は、CEOになる公算が大きいマスク氏が「よい」やり方でツイッターを運営するかどうかです(※4)。

ツイッターの創業者で、かつてCEOを務めたこともあるジャック・ドーシー氏は「マスク氏こそ私が信用する解だ」と述べています(※2)。ドーシー氏は今はツイッター社から離れていますが、ツイッターの運営については一家言持っています。

ドーシー氏は世界の人々がツイートすることを、世界的意識ととらえています。しかしそのツイッターは今「ウォール街と広告モデル」に所有されていると考えています。つまり金融と広告によって世界的意識の意義が損なわれていると思っているのです。

その解決策(解)になるのがマスク氏によるツイッター社の運営であると、ドーシー氏はみています。

※4:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220506/k10013613421000.html

ツイッターのアルゴリズム問題とは

マスク氏はツイッターの可能性を信じ、ツイッターの問題を感じ、ツイッターを改革しようと考えているわけですが、では問題とは何なのでしょうか(※5)。

その答えはいくつかあると思いますが、確実なのはアルゴリズム問題です。マスク氏は、ツイッターのアルゴリズムは偏向していると批判しています。

アルゴリズムとは、システムの方向性のようなものです。ツイッターには、ユーザーが喜ぶようなさまざまな機能が搭載され、それはシステムによって動いているわけですが、そのシステムの方向性はアルゴリズムによってつくられます。

ツイッター社自身、アルゴリズム問題を認識しています(※6)。ツイッター社が自社で投稿内容を分析したところ「なぜか」右寄りの政党や右寄りの歩道機関のツイートが増幅する傾向がある、という結果になりました。ただ、なぜそのような傾向が出てしまったのかはわかっていないそうです。

※5:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-04-25/RAWSKPDWX2PU01
※6:https://www.bbc.com/japanese/59026379

マスク氏はどのようにツイッターを買うのか

さて、ここまでマスク氏のツイッター社買収の意義についてみてきました。ここからはマスク氏がどのようにしてツイッター社を買収するのかについてみていきましょう。ここに日本の金融機関も登場してきます。

6兆円の内訳

マスク氏はツイッター社を約6兆円で買います。またツイッター社も約6兆円なら売ると表明しています。

約6兆円(約465億ドル)の内訳は、1)金融機関による融資(約130億ドル、28%)、2)マスク氏のテスラ株を担保にした融資(約125億ドル、27%)、3)マスク氏の自己資金(約210億ドル、45%)(※7)。

ただこれは計画であり、2022年5月6日までに集めた資金は2兆円超とされています(※8)。約2兆円の内訳は、投資ファンドなどからの約71億ドル(約9,200億円)、自己資金約84億ドル(約1兆1,000億円)です。

※7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN21F1D0R20C22A4000000/?unlock=1
※8:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220506/k10013613421000.html

日本からは三菱とみずほが参加

日本の金融機関でマスク氏のツイッター社買収ビジネスに参加するのは、三菱UFJフィナンシャル・グループとみずほフィナンシャルグループです(※7)。この2社は先ほどの1)金融機関による融資に加わります。

三菱とみずほを含む融資団は、融資を証券化して投資会社に売却します。融資が成功すると、つまりマスク化したツイッター社が利益を出すとその一部が投資会社に回る仕組みです。

融資団は投資家から資金を集めてマスク氏を支援します。

ツイッター買収は未公開融資ビジネスの1つ「それが投資の魅力」

融資団によるマスク氏支援の手法は、プライベートデット(未公開融資)ファンドといいます。

この証券は公開されないので流動性は低いのですが、投資家はその分、高い利回りを期待できます。流動性が低いと売り買いしにくいので投資家は儲けにくいのですが、その分高い利息が支払われるわけです。

高い利回りが期待できるプライベートデット市場は今、世界中で活況を呈していて、約1兆2,000億ドル(約156兆円)もの資金が流入しているといいます(※7)。

つまり金融機関にとっては、マスク氏によるツイッター買収は未公開融資ビジネスの1つにすぎず、だからこそ投資するメリットがあるとみているのです。

まとめ~日本の銀行も世界の舞台で頑張っている

三菱UFJフィナンシャル・グループもみずほフィナンシャルグループも、預金を原資に貸し出すビジネスモデルに限界を感じているといわれています(※7)。そのため自ら投資をして稼いでいかなければなりません。

マスク氏のツイッター買収がビジネス的に成功するかどうかは未知数です。しかし世界的に話題になっているツイッター買収劇に日本の銀行が2つも関わっていることは、「日本企業も頑張っているな」と感じさせます。