みずほが楽天証券に出資した狙いとは?どちらが得するのか?
みずほ証券と楽天証券が資本業務提携に乗り出しました。
資本業務提携とは、単なる業務上の協力ではなく、相手に出資して相手の株式を保有することを含みます。今回は、みずほ側が楽天側に出資して、みずほ側が楽天証券の株式を取得しました。
まだ「合併」という単語こそ出てきていませんが、しかし、メガバンクのみずほフィナンシャルグループと巨大IT企業群の楽天グループが、証券事業でかなり濃厚にかかわっていくことは間違いないようです。
みずほと楽天はこの「みずほ=楽天証券提携」で何をしようとしていて、背景に何があるのでしょうか。
そしてこの案件は、どちらにより多くの得があるのでしょうか。
みずほと楽天の整理
いわゆる「大元」になる企業 | 傘下企業(一部のみ) |
株式会社みずほフィナンシャルグループ | 株式会社みずほ銀行 |
みずほ証券株式会社 | |
楽天グループ株式会社 | 楽天モバイル株式会社 |
楽天銀行株式会社 | |
楽天カード株式会社 | |
楽天証券ホールディングス株式会社 | 楽天証券株式会社 |
楽天投資顧問株式会社 | |
楽天ウォレット株式会社 |
「みずほ=楽天証券提携」の「登場人物」を確認します。どちらも巨大企業群であるため関係性はとても複雑で、誰が何をするのかを知っておかないと全体がみえてきません。
みずほの大元は、株式会社みずほフィナンシャルグループで、ここがみずほグループを統括しています。
みずほグループの企業に大銀行である株式会社みずほ銀行があるので、みずほはメガバンクと呼ばれています。
そして、みずほグループのなかに、みずほ証券株式会社があります。この、みずほ証券が、今回の主役の1人になります。
楽天の大元は、楽天グループ株式会社(以下、楽天グループ)で、楽天の企業群を統括しています。
ECサービスの楽天市場こそ楽天グループが直轄で運営していますが、その他の事業は楽天グループ傘下の企業が担っています。
例えば、スマホ事業は楽天モバイル株式会社が行い、銀行業は楽天銀行株式会社が行い、クレジットカードや楽天ポイントの事業は楽天カード株式会社が行っている、といった具合です。
そのなかの1つに、楽天証券株式会社の全株式を保有する楽天証券ホールディングス株式会社があります。
もう1人の主役である楽天証券の株式は、楽天証券ホールディングスが100%保有していて、当然ですが連結子会社になっています。
楽天証券ホールディングスの傘下には楽天証券以外に、投資信託の楽天投資顧問株式会社と暗号資産の楽天ウォレット株式会社が入っています。
証券提携のスキーム~それなりに強い結束
「みずほ=楽天証券提携」の形(スキーム)は、みずほ証券が、楽天証券ホールディングスが保有する楽天証券株を800億円で取得します。これによりみずほ証券は、楽天証券株を19.99%取得することになり、楽天証券はみずほ証券の持ち分法適用会社になります。
株式取得は2022年11月1日です(※1)。
持ち分法適用会社とは、連結財務諸表上、持ち分法の提供対象となる関連会社のことで、議決権所有比率20%以上50%以下の非連結子会社や関連会社が対象になります。
持ち分法適用会社と連結子会社の違いは、連結子会社は財務諸表を合算しなければなりませんが、持ち分法適用会社は一部のみ合算されるだけです(※2)。
したがって、「みずほ=楽天証券提携」は、連結子会社化するほどの強さではないものの、それなりに強い結束になるとみてよさそうです。
※1:https://jp.reuters.com/article/mizuho-rakuten-idJPKBN2R2091
※2:https://www.nomura.co.jp/terms/japan/mo/equity_method_com.html
楽天のスマホ事業の低迷が引き金?
起きていることを極端に単純化して説明すると、「みずほ側が楽天側から800億円分の証券事業を買い取った」といえるでしょう。つまり「楽天側が800億円分の証券事業をみずほ側に売った」ことになります。
楽天は今、多額の資金を必要としているのです。
火の車
楽天グループの2021年12月期(2021年1~12月)の連結決算は、売上高は約1.7兆円で前期比16%増だったものの、当期損失は1,358億円の赤字。赤字は3期連続で、赤字幅は年々大きくなっています(※3)。
楽天グループを窮地に陥れているのはモバイル事業、つまりスマホ事業です。4強入りするために基地局を急ピッチで整備しなければならず、そのコストがかさんで2022年1~6月期のモバイル事業の営業損失は2,593億円に達しました(※4)。
最後発の楽天は顧客獲得のため月額0円キャンペーンを実施していましたが、資金難でこれを2022年7月に廃止。それが顧客離れを生むという悪循環に陥っています。
その結果、2022年6月末現在の社債と借入金の総額は2.5兆円と、財務状況の悪さは誰の目にも明らかです(※4)。
※3:https://corp.rakuten.co.jp/investors/documents/asr.html
※4:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00116/100700066/
「みずほから得た資金を楽天の財務状況の改善に使う」
日経ビジネスは関係者の話として「楽天側の真の目的は、みずほから得た資金を楽天グループの財務状況の改善に充てることだろう」という見解を紹介しています(※4)。
「楽天側が800億円分の証券事業をみずほ側に売る」ことで、なんとか息継ぎをしようとしたわけです。
金融子会社を上場して(売って)資金調達?
しかし、息継ぎだけでは安定的な成長は見込めません。
楽天側が手にする800億円は、社債と借入金の2.5兆円の3.2%にすぎず資金は全然足りません。
そこで取りざたされているのが、子会社の上場です。子会社を上場すれば楽天グループに多額の資金が入るので財務状況を好転させることができます。
もう一度、楽天グループの布陣を確認します。ここでは楽天モバイルを除いて、金融会社だけにしました。
(再掲、ただし楽天モバイルを除く)
楽天グループ株式会社 | 楽天銀行株式会社 |
楽天カード株式会社 | |
楽天証券ホールディングス株式会社 | 楽天証券株式会社 |
楽天投資顧問株式会社 | |
楽天ウォレット株式会社 |
楽天証券は2022年5月に上場準備を発表し、楽天銀行は同7月に上場申請を行いました。
さらに日経ビジネスは、楽天側はクレジットカードと楽天ポイントの楽天カードも上場させるのではないかとみています(※4)。
企業の上場は通常、成長の証(あかし)とみなされます。多くの経営者は上場を目指しているはずです。
しかし上場の本質は、企業が自らの株式を証券取引所で販売することにあります。つまり経営権を投資家に切り売りして資金を得る行為なのです。
そして今の楽天の場合、赤字体質が深刻化している状態から推測すると、金融子会社の上場は資金調達目的のほうが色濃いといえるでしょう。
みずほとの提携は「待てなかったから」か
ではなぜ楽天側は、楽天証券を上場させる前に、その株式の約2割を800億円でみずほ側に売却したのでしょうか。
これも日経ビジネスの見解になりますが、楽天側は、楽天証券を上場して資金を得るまで待てなかったのではないか、というのです(※4)。
みずほ側のメリットは
ここまでの解説は「みずほ=楽天証券提携」における楽天側のメリットになります。
では、みずほ側のメリットは何なのでしょうか。
ロイターは次のように解説しています(※1)。
- みずほ証券は対面での営業が得意、楽天証券はインターネットが得意で顧客は若い
- シナジーによりあらゆる個人の顧客のニーズに応えられるようになる
- 本格的なハイブリッド型の総合資産コンサルティングサービスを提供できるようになる
- みずほ証券は楽天経済圏の顧客基盤を活用できる
注目したいのは4番目です。楽天はEC、スマホ、旅行、外食、ポイント、野球チーム、サッカーチームといった事業を展開しています。
みずほ証券は、さまざまな層の消費者がいる楽天経済圏に入り込むことができるわけです。
しかしこれは「表のメリット」にすぎないのかもしれません。
800億円は割高か、安いのか
みずほ側の「裏のメリット」について日経ビジネスが解説しているので紹介します。
日経ビジネスが試算したところ、楽天証券の企業価値からすると、約2割の株式の価格800億円はかなり割高でした。
なぜみずほは高値づかみをしたのか。
メガバンクでは、三菱UFJフィナンシャル・グループはauカブコム証券を傘下におさめ、三井住友フィナンシャルグループはSBIホールディングスの株式を10%取得しています(※5)。
2つのメガバンクがネット証券大手と手を組んでいるなか、みずほはその取り組みが遅れていました。
楽天証券は国内ネット証券2位の実力の持ち主なので、みずほの提携先としては申し分ありません。
そのため割高でも800億円を支払ったのだろう、ということです。
さらに金融庁幹部は、日経ビジネスの取材に「楽天グループが今後さらに苦境を深める事態に備え、証券ビジネスを譲渡するための地ならしに着手した可能性がある。みずほにとってはある種の手付金に近い感覚もあるはずだ」と答えたそうです。
将来、本当に楽天グループが危機的状況に陥れば、みずほは楽天証券を完全に買収できるかもしれない、というわけです。
あくまで、日経ビジネスの見立てですが。
※5:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221005/k10013849521000.html
まとめ~独自性を維持できるか
「資本業務提携」という言葉は聞こえがよく、2社が協力してシナジーを生み出すイメージがあります。しかし資本業務提携は極度にシビアなビジネス手法なので、強い者と弱い者が提携すると、どうしても強い者が有利になり、弱い者が不利になります。
そして今回の案件についてマスコミは、楽天のスマホ事業の悪化が、楽天証券の株式の2割をみずほ側に売却するという事態を招いたとみています。
楽天の金融事業の一部が巨大資本(みずほ)に飲み込まれてしまうのか、それとも楽天証券が独自性を打ち出していけるのか。